侯爵の町(2)
鍛冶屋エリアから侯爵領の市街地にはいったが、計画性のない都市構造だった。
一部空洞化もおきているらしく、鍛冶をしているエリアを抜けると空き家がしばらく続く。ここに住んでいたものがどこにいったのか、素朴な疑問が浮かぶ。数か月以上使われてない雰囲気の空き家には壊れた鍬や折れた鋤が放置されていたので、住人は農夫だろう。ここから農園は遠いので、引っ越したのだろうか。
土塁が見えてきた。これはおそらく初期の町を囲っていた防御施設なんだろう。この向こうは計画性のある作りになってるはずだが、土塁に切れ目がみつからないので見ることができない。
「この向こうは貴族、または貴族待遇のみ入れるようになってるから許可なく行ってはいけない」
モロシゲが教えてくれた。
土塁の外をぐるっと回り込むと潮の香がつよくなり、魚臭さもまじってちょっとしたざわつきも聞こえてきた。
厚い板を広く張り渡した広場ができていて、その上に列を作って露店がでていた。魚を売るもの、料理を売るもの、野菜を並べたもの、刃物など金物をおいたもの。場所の権利をしめすのか色の違う三角旗を掲げている。
「この露店、権利をこうて出してるんですかね」
モロシゲはうなずいただけだった。広場に面した建物を指さし、詳細はあそこで聞けという。
板の端まで行って下を覗くと、結構高くなっている。下は海で浮桟橋に帆や櫓をそなえた漁船がぷかぷかゆれている。人ははしごで、荷は紐付きの籠で上下させるようだ。
そして少し離れたところに大型船が二隻、投錨していた。
此岸からの船は勝手にキャラックやガレオンのようなものかと思っていたがずいぶん違っていた。大きいが、帆にはなんか横げたが入ってるし船体は竜骨があるように見えない平底、しかしかなり大型。東洋的な大型船だ。
船の艫にはそれぞれ旗が立っていて、白地に赤いサソリのような魔獣をあしらった日の丸のようなものと、兜に剣がクロスしているものだった。
赤いサソリは女公爵の紋所で、兜と剣は帝室の紋所らしい。
ボロボロから上等なものまで、さまざまな身なりの人間がこれを眺めていた。あとしばらくしたら英雄部隊はサソリの船に乗って引き上げるらしい。これでもう出会うことはないだろう。
やれやれ、と感慨深く船を見ていると、ふいに腕を叩かれた。モロシゲだった。珍しく焦った様子で軽く引っ張って俺をそこから離そうとする。
怪訝な顔をしてたんだろう、彼は顎で俺の後ろをそっとさした。
「そっと見ていただきたい」
いつものきらきらした鎧姿じゃないから一瞬だけ理解が遅れた。
町娘のような素朴なドレスをきて、未亡人のようにベールをかぶったその女性は英雄部隊の隊長、魔法重戦士のケイラその人だった。一人ではない。まだ十代半ばくらいの幼さののこる少年と一緒だ。どこかケイラに似ていて、侯爵領の兵が着るようなよれよれの革鎧を着ている。
可及的速やかに、そっと俺はその場を離れた。だから彼らが何を話しているかは聞き取れなかった。距離もあったこともある。
ただ、心配が神経質なほどにじみ出たケイラの言葉が一つだけ聞き取れただけだ。
「生まれる英雄があなたとは限らないのよ」
おそらく、心配性の姉が無茶をしそうな弟をいさめていたんだろうな。
「へえ、あれが英雄でっか」
のんびりしたホルンも拉致していそいそと引き上げることになった。
ただ、のほほんとしていたのはどうも俺だけだったようだ。モロシゲは必要な買い出しはすませていたし、ホルンも何に使うのか小物を買い込んでいた。人間の金はもってないはずなのにどうやって支払ったんだ。
「そら物々交換ですな」
こいつ、結構うまくやっていくかもしれないな。




