侯爵の町(1)
俺ガ行って大丈夫なものか。
と、心配したが、出かける先は港の市場で、侯爵家の人間や英雄部隊のような貴族側に属する人間はこないという。まれに好奇心や冒険心でのぞきにくる貴族の若者がいるが、不潔で騒々しく、荒っぽいのを目の当たりにすると二度とお忍びで出かけようとは思わないらしい。
貴族の育ちをした人たちには、それくらいショックなことなんだそうだ。うまいたとえではないが、田舎の虫だらけ、やぶだらけの野に、清潔で整った都会育ちがいくとどうなるかということのようだ。
ただし、そんな環境から成りあがった者は平気で、むしろなつかしさからうろうろしてるんじゃないだろうか。英雄部隊に求められるのは実力と聞く。ならありそうなことだ。
びびるのは貴族側だけではない。庶民側も警戒してしまうので、庶民あがりのほうも遠慮するものだとロクザン翁にはげまされて俺もでかけることにした。ホルンはこれをつけろと能の翁のような面を渡してくる。
「このあと助手に召喚する男がかぶる面ですわ」
なるほど、そいつのふりをしろと。なんにしろ素顔をさらさないですむのは助かる。
モロシゲの案内で、ロクザン翁の屋敷から市場へ昔は野の踏み分け道だったのだろうと思われる細い道をたどってあるいていく。原野だった道沿いは隙間に少しその名残を残しているがばらばらに畑や家屋になっていて、思い思いのものが植えられている。
「このへんの畑は、旦那様お抱えの錬金術師が薬草園を開いたのが始まりなのです」
見ていたら、モロシゲが教えてくれた。よけいな口はきかないと思っていたから少しびっくりだ。
傷薬の材料になったり、軽い解熱剤を煎じることのできる薬草はいまでもこのへんの住人によって作られていて、自分で調剤したり、今は独立して工房をもっている二人の錬金術師のところに納品したりしているそうだ。だが、それで生活はできるはずがない。大半の住人は侯爵の経営する農園で農作業に従事し、最低限の生活は保証されているのだという。そういう集団農場を回してた国があったが、あの国みたいになる心配はないのだろうか。
このへんで思い思いに作ってる野菜や薬草、繊維植物などは、そんな彼らに許された小遣い稼ぎらしい。
小さな川を丸木を四本ならべて隙間を土で埋めただけの橋をわたるとまた雰囲気が変わった。
小遣い稼ぎの畑は姿を消し、無計画に配置されているが丸太小屋の家屋が密度高く詰まっている。その中に広場があって、薪を大量に詰んだ横に炉があって、半裸の男たちがハンマーを片手に鍛冶をしていた。見たところ、三つくらいグループがあっておたがいに反目しているようだ。ホルンは彼らの仕事を横目にじろじろ見ていた。
といってもあゆみはとめていないので気づいた鍛冶職人たちはうろんげにこっちを見るだけでモロシゲに遠慮してか何もいってはこない。でなきゃ面倒になったと思う。




