潜入(3)
ロクザン翁の屋敷はこのあたりの民家同様、豊富な丸太を組んで作ったログハウスだった。
ただし、寝室と書斎、執事の住居兼執務室、厨房兼倉庫、そして応接あるいは会食のためのホールと四棟を廊下で連結した大きなものだった。これに以前は錬金術工房だったという離れが加わる。
ロクザン翁は侯爵領では「偉い学者さん」として知られているようだ。それは本人の言葉からも知っていたことだったが、さらに「領主さまのご親戚」という属性があるのは知らなかった。情報空間でイワツバメ準公爵の記憶を検索してみると「従弟にして伯爵家三男」という属性も出てきたし、「よくない研究をしていわれていて捕縛も時間の問題であったため、新領地の知識と知恵の源として勧誘した。もちろんよくない研究は本当だとしてももうさせない」という事情も出てきた。
やってるやん。懲りてないやん。
しかし、本の運搬につかったゾンビのようなものをどこでやってるのだろう。
「従兄に見つかったら縄付きで監獄送りになるからのう。霊体ででかけて墓地でこそこそやっておった。霊体だから棺桶の中でも潜り込めるしの」
どっかに邪悪な秘密の研究所をもってると思ったら、棺桶の中だった。
錬金術工房だった離れにはまだがらくたが少し残っていた。ガラスは貴重なので、割れた実験道具は箱にまとめておいてあるし、作業台に使っていた重厚な机はよいものだけ運びだされ、古い少し天板のそったようなのが隅っこにおしやられている。全体に埃っぽい。掃除から始めなければならないが、この離れには薬品庫だった地下室もあるので、大変だ。
ホルンはこの一階に金属細工師の工房を作り、表向きは装飾品や便利な小物を制作するのだという。
だが、地下は封鎖したことにしてゴーレムや持ち込んだ荷物の半分を隠し、一階ではできないことをするのだという。まあ、密輸品の保管とかだと思うが。
生身のロクザン翁に会うのは二回目だが霊体にくらべると艶もなく弱弱しい老人にしか見えない。遺跡までこれたのだから、おそらく見かけだけだろう。自由にでかけるために、そこのところを便利に使ってるんじゃないだろうか。
「モロシゲ、これから食材の買い出しに出ると思うが、ホルン殿たちも連れていってやっておくれ。町のことを少し教えておいてあげるんだ」
話し方も爺さんくさい。人前ではこういうキャラで通しているのだろう。元気そうと思われたくないんだ。
モロシゲがどう考えたかはわからない。彼は完璧に無表情で、うやうやしく頭を下げた。
「承知いたしました」




