侯爵領へのいざない
侯爵領の動向で一番気になることといえば英雄部隊の去就だ。
これは安心したことに、撤退が決定し、そろそろ迎えの船がやってくるのだという。
「英雄どもにとって戦功といえるのは魔王か他の英雄くらいだ。ここで樫鬼たちを討伐するのはやりすぎと思われたのであろうな。それくらいは自力でなんとかせねば侯爵も面子がたたんと言われては言い返すこともできまい」
樫鬼たちは屈強だが、戦争にはあまり向いてない。それはそうだと思った。今は武器を支援しているし、鱗鬼たちが加勢しているが、英雄部隊のあの突破力がなくっても侯爵領軍はいずれ勝利できるだろう。武器支援前とはいえ、魔物の王がいてやっと拮抗していたのだから。
本格的な攻略はいつになるのか。それはロクザン翁にもわからないことだった。
「魔物の王という不安要素もなくなったし、むしろ華々しい話として伝わったからのう。侯爵は英雄部隊を返すついでに移民募集の喧伝を行っておる。東はいずれ征服するものとして、まずは南に切り開いていくことになろう。当然、兵もその分補充される。あの男、よく武技大会を開いておるが、おおかた英雄候補でもさがしておるのだろう。英雄をもてばほぼ公爵扱いとなるでな」
イワツバメ侯爵は野心的な人物だ。これはいつまでもここをほうっておいてはくれないかもしれない。
新兵の演習がてら攻撃されたりしそうである。
「師匠、侯爵領の動きをいち早く知りたいんだが、何かいい手はないか」
「おぬし、侯爵とことを構える気か」
「場合によっては。あとは逃げるという選択もあるが逃げるのも準備がいる」
「勝てるのかね」
「無理だろうな。だが、村の連中次第だ。彼らが覚悟の上ならやるしかないだろう」
「そうか、その時にはなんとか落ち延びろ。わしからの提案だ」
ロクザン翁の提案はびっくりするようなものだった。
「侯爵領にすまんか? 移住者が増えてくれば、知らぬ顔でも紛れ込める。さらにわしが身元を保証すれば問題はない」
村の人間全滅を前提に話をしている。戦えば壊滅、おそらく間違った認識ではない。
爺さんは何をどこまで理解して言ってるのだろう。俺がいつか彼らを召喚して再度の生を与えることができるとわかっているのだろうか。だが、それでも彼らの今の魂はほろびることになる。死ぬという事実にかわりはない。
それに、彼らが生きていく目途をたてずに呼ぶことはただただむごいことにしかならない。
「まあ、最後の手段として覚えておくよ。ありがとう」
礼は一応言っておいたが、爺さんの本音は研究対象を手近に置きたいだけなんだろう。
「だが、誰かを送り込むのはいい考えかもしれない。ちょっと癖のありそうな人物が候補にあがっているが、その時は世話を頼めるだろうか」
「どんなやつかね」
あんたの好きそうなやつさ、とだけ俺は答えた。
そう、ホルンを召喚することにする。




