魔物の王
何時間も泳いだ末に流れ着いたのだろう。かかった時間を考えると、潮にさからうような泳ぎ方をして力尽きたに相違ない。
ぐったりしている魔物の王のそばに俺は膝をついた。
「言葉はわかるか」
使わなくなって久しい故郷の言葉だ。
これまで見た記憶の破片から、彼女は同じ国の人間だと思ったからだ。
手首をつかまれた。先端が女の手になった蜘蛛の足、その一本が俺を捕まえたのだ。
その瞬間、音もせず、力も感じなかったが何かががつんと衝突する感覚があった。
こいつ、俺を触媒に変えようとしやがったな。
やばかった。これが単純に魔力勝負ならやばかった。
「状況がわかってるのか。降伏はしないということでよいのか」
少し荒げた声で詰問してしまう。
返事はどこから出しているのかわからないが、敵意に満ちたうなり声だった。
「これは、だめかな」
「しとめますか」
やむを得ない。俺はうなずいた。
駄女神の失敗でこんな姿になったが、元は人間だ。命を奪うのには抵抗がある。
ならば、誰かにまかせればいいか?
そうすればきっと楽だろう。触れぬように石でも投げつけてもらえばいいのだから。
だが、ここで楽をすると俺はいつかきっと大きな失敗をする。そう思う。
砂浜の朽ちた船に櫂が置かれている。手近のそれを一本持つと、驚くほど軽々と振り上げることができた。
念仏を唱えながら、泣きたい気持ちを押さえて俺は何度もふりおろした。
何回目だろうか、不意にずしりと何か重いものを受け取ったような感覚があり、ふりおろした櫂が折れて勢いよく海のほうに飛んで行った。ちょっと危なかった。
魔物の王は全身の外骨格を割られ、白い体液を砂浜に吸わせて動かなくなっていた。
漁夫の利ではあったが、俺は魔物の王、別の召喚者を手にかけた。
ステータスは、簡易表示で3から4づつ上昇していた。体格の変わるような変化はなかったが、骨などいくつかの補強を行った結果、見た目はそう変わらなかったが、体重が倍近くになってしまった。
「軟弱地を歩くときは注意がいりますな」
底なし沼にはまったら誰より早く沈むだろう。
スーハオの狩りではステータスがあがらなくなってしまった。レベルを上げない意味がなくなった。
魔物の王の遺骸は、廃材を集めて荼毘に付した。みな燃料の無駄だろうという顔をしていたが、魔物の王の故郷のやりかただというと首をかしげながらも納得はしてくれた。




