残党狩り
魔物の王がのぞかれた今、侯爵領との接触は不可避だと思っていた。おそらく、まず偵察されて、その報告をもとに勝手な判断をしてくるだろう。
そのためにも、村の防御の強化は必要で、そして闇鬼の二人と、人間は彼らの目にふれないほうがいい。
樫鬼、小鬼だけの集落で、よい武装をしてよく備えていることだけ理解してもらう。
鉱物資源を握ってると知られるのもあまり芳しいことではないが、侯爵領の海岸では砂鉄がとれるそうで、塩ほど重要性は高くはない。
そのはずだ。すくなくとも先代のカササギ準公爵の知識にあたるとそうなる。侯爵領でも製塩を行っているが、人口が多いのでぎりぎりらしい。
だから、脅威にはならないが攻めるのは東の決着のあとと思ってくれれば万々歳なのだ。
妖魔の商人の出入りがあるし、これを見られる危険もあるし、どうしても俺やリンホーたちが村に出ないといけないときもあるので、さらに対策を打った。
妖魔たちのようなフード付きローブを羽織って、彼らの振りをすること。材料は遺跡を探せばあったので、仕立ててもらった。
西の妖魔の商都の存在はおそらく侯爵領でも把握しているだろう。彼らの支援を受けていると思わせれば、いくらか慎重になってくれると思う。
と思っていたが、事態はより大胆に進捗した。
まさか、いきなり防柵のまんまえにわずか十数人でやってくるとは。
こっちが鱗鬼みたいな凶悪で殺す気満々の連中だったらどうするんだ。無謀だぞ人間ども。
たまたま俺が村にいて、困惑した村長に呼び出された。
強気の理由は彼らを見て理解した。
なんで英雄部隊が五人もいるんだ。
しかも先頭にたってるの、武装からして団長じゃないのか。
「あら、妖魔? 」
あんな修羅のような戦いをする人物とは思えない、少し幼ささえのこした女性。その面持ちはのほほんとしていて殺気も迫力もない。こじゃれたドレスでもきれば世間知らずの令嬢で通りそうだ。
だが、甲冑には激戦の痕跡がまだのこっていて、血や煤はぬぐってあるものの、擦過傷だらけなのはごまかしようがない。歴戦の勇士そのものだ。
「わしはタケトという。この平和を愛する村に何か御用かな」
ロクザン翁の口調を真似して人間の言葉で質問した。
ついてきている侯爵領の革鎧の兵士がざわっとするが、他の英雄部隊の若い兵士に手で軽く制止された。
「ごめんなさいね。騒がすつもりはないの。わたくしはケイラ。イワツバメ侯爵に依頼されて台地の魔王を討伐しました。この防備は彼への警戒かしら」
魔物の王を魔王と断定してる。筋書的には驚くところだろう。
「あちらでなにやら騒がしくなっておると思ったら、それは本当かね」
「本当よ。だからこんな防備はもういらないわ」
ここは失笑するところだろう。
「何を言う。魔物の王を退けるあんたがたを警戒しない理由などないですぞ」
「私たちは魔王にだけ用事があったの。すんだからもう帰るわ。今は残党の確認と掃討中」
ほう、帰るんか。
「帰らない人たちもおりましょう。微力なれど自衛手段は放棄できませんな」
「まあ、そうよね。それより、魔王の手下を知らないかしら」
そういいながら彼女は俺にはっとなった。
「あなた、もしかして」
え、妖魔にばれたけど、こいつにも魔王ばれしちゃったの?
どっと脂汗が浮かんできた。顔を隠しておいてよかった。
「ううん、魔王っぽいけど弱すぎる。かつていた妖魔の魔王は巨大なゴーレムにのって暴れる強大な魔王だったそうだけど、あなたもしかしたらその子孫かもね」
何それ中二病的心をくすぐるな。
そんなことより、さっさとお引き取り願いたい。妖魔ほどはっきりわからんようだけど、魔法重戦士ときいているから魔法に関する感度が高いのだろう。確信されたり、念のためとか思われたら詰む。
「やつらの手下が根拠地にしてたところならあるが、まだいるかどうかは知らん。そんな情報でもいいか」
入り江の蜘蛛の巣は便利だ。スーハオが討伐済だが、痕跡はのこっているから納得はしてくれるだろう。それにもし残党が逃げてきてるなら立てこもりそうだ。村の安全のため確認して対処してもらうのがいい。
「そ、情報ありがとう」
あっさりしたものだった。残党狩の一隊は、侯爵領の兵士の一部の粘りつくような視線だけ残して去って行った。
どっと、力が抜けた。やばいやばい。たぶんあいつらだけで村はつぶせたと思う。英雄部隊が帰国したがってて助かった。




