戦王召喚
やっぱりというか、やはり意識はとんだ。
魔王をやっていただけあって、コストがとんでもなく、レベルがあがってなければ失敗していただろう。
ただし、ぎりぎりだった。
気を失っていたのは五時間ほどだったようだが、目がさめてまず襲ってきたのはとんでもない倦怠感だった。もう一度眠りたくってしかたがない。
エリナが注射器としか呼べないものを手にして俺の顔を覗き込んでいる。彼女が何か注入したらしい。
俺の状態と召喚の結果、それを知って安心できたらぐっすり眠りたい。
「ひどい衰弱状態ですわ。誰かに看病してもらいながら、数日は眠る必要があります」
ええと、つまり体力も使いすぎて死にかけてると。
看病か。人間以外ばっかりなのだが、できるのだろうか。シュベイヒならできるのか。荒事の世界で生きてきた彼には向いてない気もする。
「判断力も鈍っていると思うので、これからについて提案いたしたく」
「寝たいから手短に」
瞼が落ちそうになる。
「スーハオの挨拶を受け、遊撃の命令を。それからできれば看病できそうな人間を一人召喚願いますれば。魂なしがよいですね」
「そんな余力は」
「ぎりぎり回復したところで起こしました」
反論は封じられた。注射器の意味はそれか。
言葉で答えるのもだるい。俺はうなずいた。どうやってその加減を知ったかは謎だが、このときはそれを聞く元気もなかったし、エリナもうふふと笑うだけで教えてくれなかった。
「あんたがうちの大将か」
のっと視界に顔が割って入った。逆光でわかりにくかったが、額に閉じた目のような線のはいった、ほりの深い印欧系っぽいが色黒の顔。インド人かと思ったが、顔の造作はドイツあたりにいそうな感じだ。
「スーハオ大将軍か」
「お初にお目にかかる。話はリンホーとエリナから聞いた。びっくりしたぞ」
大将軍の号にふさわしく豪快な感じだが、どこか少し不自然さもあった。こいつ、キャラをつくってないか。目がちらっとエリナやリンホーのいるほうに向くのは彼らを気にしているのか。
しんどかったが、リンホーたちにしたのと同じ質問を彼にもした。俺に従ってくれるかどうか。
「わしが暴れるほどあんたは強くなると理解しておる。面白いではないか、魔王を育てるというのは」
からからと豪傑笑いをして見せる。不自然さはないが、なんか無理してる気もする。
「そうだ。リンホーと相談しながらでいい、よけいな敵を呼び込まぬ範囲で俺を育ててくれ。後でちゃんんと話そう」
「承知」
彼は両手をあわせて拝みながら会釈した。これが彼の国のしぐさなのだろうか。
次は世話係だ。
人間で拾った幽霊は男ばかり、女は一人だけ。元農婦で夫に売られて苦界に落とされた三十女。
あまり迷ってる暇はない。彼女は医療知識などないが、子供の看病や具合の悪い同僚のつきそいなど病人の面倒は切った張ったしか経験のない男たちよりあった。
触媒はもう用意してくれたので、魂なし召喚を行うと、いつもはこれくらいでそうはならないのにくらくらしはじめた。
「エリナに従ってくれ」
彼女にそう指示するのが精いっぱいで、俺は再び意識を失った。




