妖魔の来訪者
船を乗り付けてきたのは妖魔の商人が二人と、蛙人の水夫二人、それに鱗鬼の護衛二人の合計六人だった。
水夫の蛙人以外は初見の種族になる。
鱗鬼はイグアナと人間の中間のような姿をしていた。しっぽは短く退化して後足でがにまたに立ち、がっちり太い指を備えた腕には手甲かと思うくらい幅のない盾をつけ、それぞれ槍と鎌を合体させたような長柄の戟を手にしている。背丈は人間より頭半分大きく、全体にたくましい。分厚い鱗が防具の役割を果たすのか何もきていないが、柔らかそうな腹にだけキルトの腹掛けをしていた。
妖魔は最初、ずいぶんごつい種族に見えた。大きくいかつい鱗鬼と背丈は同じくらいだが、体のぶ厚さはさらに一回り大きいのだ。そしてひょいひょいと少し滑稽に歩く。全身をローブとフードで隠しているので顔など見えないが、その謎は少し後で解明された。
「あれは『鎧』ですな。私の知ってるものよりやや無骨ですが」
「『鎧』? 」
なんだそれは。
「ゴーレム技術を応用した防具兼補助具です。妖魔自身は頭こそ大きいもののなりはかなり小さい種族で、非力、魔力特化で魔法においては我ら闇鬼も一目置かねばならん連中です。忌々しい」
最後、なんか本音もれてるな。
つまり、あれは俺の知ってる言葉でいえばパワードスーツか。
「なんでその上からあんなものを着ている。暑くないのか」
「まあ、弱点隠しでしょうな。あれを壊されたら妖魔は無力ですから。それに、高級品は極寒の地でも海の底でも活動可能らしいので暑さ対策もなんかやってるんでしょう」
なにそれちょっとほしい。結界は物理衝撃はふせいでくれるけど、空気は通さないと窒息するのでガスで攻撃されると弱いんだ。耐性はついているけど可燃性ガスでおおわれて火でもつけられたらひとたまりもないし、大きな声ではいえないが当然、火炎放射器には無力。そのへんはたぶん人間っぽさを捨てきらないとしのぐ手段がないような気がする。
「そんな種族がなんで商人なんかやってるんだ」
「魔法に依存するということは触媒の消費も多いということで、そのためには魔法具などを売って、各地から仕入れる必要があるということですな。作り上げた富でご覧の通り、他種族を雇用しております」
リンホーの口ぶり、妖魔と闇鬼は仲が悪そうだ。
ここまでのやり取り、俺たちは使わせてもらってる空き家の窓から覗き見てやっている。遺跡までテラオ村長の使いがきたが、見た目人間の俺や闇鬼のリンホーがいきなり姿を見せないほうがいいという判断で覗き見て、村長に必要な指示を出している。
妖魔の商人と言葉をかわしたテラオ村長が戻ってきた。
「塩を買い付けたいそうです。あと何か取引できそうなものがないか今、相談中で」
わざわざ船で来たということは、大量買い付けなのだろう。
「連中、代価にどんなものを持ってきてる? 」
「ガラス玉などガラス製品と香辛料何種類か、それに魔法の触媒ですな」
「魔法の触媒? 」
樫鬼は魔法を使わない。小鬼はわざわざ買わなければならないような触媒を使う魔法は使わない。消し炭を触媒に火を起こす程度だ。
リンホーが何か思い当たったらしく窓から外をのぞいた。そしてうめいた。
「あいつらここに来ます」
戸をしめろ、かんぬきをかけろ。
誰かそんな掛け声をだしたが手おくれだった。
戸口にはでかいシルエットが頭をぶつけながらのっと入ってきた・
「おったおった」
言葉は闇鬼や小鬼と同系で意味は理解できた・
「噂通り、闇鬼がおられましたな。そしてこちらは」
妖魔の商人は俺を見て一瞬言葉を失った。
まあ、人間がいたらびっくりするよな。話がこじれそうだと思ったが、奴は震える声で小さく叫んだ。
「なんてこった魔王がいる」




