糸の秘密
エリナは糸を取り寄せるのではなく、現地にいくことにした。
闇鬼の二人の存在はテラオ村長、ゴドルのほかに遺跡に出入りする小鬼たちにはもう知らていて、彼ら経由で樫鬼たちにも伝わっているので、遺跡から出かけることについては配慮することはなかった。
問題は安全面だが、道案内かねて樫鬼の森番一人に同行してもらい、遺跡の倉庫に眠っていたゴーレムを一台つれていくことで一応の解決を見た。
ゴーレムは始めて見るが、こんな簡単なつくりでいいのかと思う代物で少し意表を突かれた。
どういうものかというと、組み立て式の人形なのだ。左右の腕、足、胴、それに頭のパーツがあり、これをはめこむだけ。胴には動力源となる触媒タンクが二種類あり、ここに燃料というべき油と刺激臭のする錬金術で作った薬剤を入れることで動力が供給され、頭にはおそらくプログラムのようなもののはいった水晶を脳のかわりにはめ込む。この水晶は専用の魔法具でいくつか設定変更を行えるようで、出発前にはエリナを主人として生体認証させ、行動の指針となる基本命令をいれたそうだ。
このゴーレムは闇鬼の国で製造されているもので、価格は一体分で農業用軽トラクター一台分。ただし、手足が簡単に交換できるのは、壊れた部位の修復はあきらめたほうがいいという意味だそうだ。複雑すぎて、直すのはほぼ不可能。メーカーから新しいものを買って付け替えるほうが簡単らしい。一番高価な制御水晶はエリナの確認を信じれば四つしか残っていない。頭や他のパーツはものによるが十から二十近くあるそうなのだが。
「こいつはどの程度のことまでできるんだい」
いくつかの持ち方で荷物を持つことができる。片手用の武器と片手用の盾を扱える、つまり戦闘ができる。具体的に指示できれば簡単な作業を行える。そんなところらしい。戦闘には指定した標的への積極的攻撃と、主人を守る防御があり、どちらもあらかじめ教えられている通りの行動なので、使い方次第で隙をついたりつかれたりが起きるそうだ。
「あの英雄と英雄部隊の戦士にはおよばないけれど、侯爵の雑兵よりは少し強いくらいですよ」
あんまり、あてにはならないということか。
「気を付けて行ってくれ」
行かせるのは不安だったが、本人がどこか楽しみにしてるようで、無理に止めることはできなかった。
エリナはゴーレムに東の樫鬼などに提供する片手用の戦斧を持たせ、同じく金属で縁を補強した丸い木盾をもたせ、どこからもってきたのか古色のあきらかな藤のトランクを背負わせた。中身は彼女が昔つかっていた小道具の数々らしい。もちろん、いれかえたり修繕済だ。
浮き浮きでかけていった彼女が戻ってくるまで二日。この間にリンホーに情報空間が見えるか確認すると、やはり見えるらしい。配下の状態監視と管理について、話し合いながら彼に提案を作成してもらうことにした。
また、このおかげで、村人同士で起きていたちょっとしたトラブルにリンホーに対応してもらうこともできた。村長がおおそれながら、と俺を呼び出しに来たので、村人に畏れられている二人、俺と闇鬼のリンホーが出て情報空間も眺めながら言い分を聞き分けて裁定を下した。このとき、まだ不平を持つ側の反論は全部彼が封じてくれたのだ。封じられた小鬼の漁師に、相手の樫鬼の森番兼大工がかさにかかって利益を拡大しようとするのもぴしゃりとたしなめてくれて、ほんと助かった。
この余波としては、これまで村長がさばいてい小さなトラブルまで俺たちに頼ろうって村人が増えたこと。つまらないことで煩わせないように釘を刺し、みんなの前で村長を叱責もしたが、みんなきらきらと期待の目を向けてくるので断りにくい。
「断固としてください」
リンホーに俺がしかられた。
そうこうしているうちにエリナが帰ってきた。




