英雄襲来
東の樫鬼との取引二回、妖魔の都市、鉄鬼の都市との取引一回づつ、そして蛙人との取引も一回おこなった。日数的には二十日ほどかかったことになる。
この間に村の生活は順調という雰囲気になり、樫鬼たちの少し甲高い笑い声と小鬼たちの低く腹にひびく笑い声が交錯してにぎやかになってきた。俺やシュベイヒのような人間または人間に見える者にも彼らは慣れて、時に親しく声をかけてもらえる。
入り江の蜘蛛の巣にもまだ変化はない。魔物の王はこちらには関心が薄いようで助かる。
だが、英雄がきて魔物の王とぶつかり、魔物の王が負けた場合は事態は深刻になる。この湾の価値を知られれば侯爵領は必ず来るだろう。価値というのは温泉と製塩だ。
侯爵領でも製塩は行っているが、あまり能率のよい方法ではない。墓地で拾った幽霊たち、シュベイヒ、魔物の王から奪った若い農奴の情報をさぐってみるとわかるのだが、庶民は海水を入れた鍋をかまどの専用の場所にかけて、煮炊きの余熱で煮詰めて使っているらしい。料理のときは濃さを見て濃縮海水を適量つかう。析出までしだしたらすくいとって自然乾燥し、塩の売買を許された御用商人に売りに行くのが庶民の小遣い稼ぎになっていた。
さらさらの乾燥した塩は高級品で、庶民の鍋製塩でできるもののほかの製造方法は魔法を使うものだった。
一般的な物質は分子相当の元素がさらに組み合わさった巨大分子によってできている。塩を魔法で作る方法は二種類。直接塩を錬金術で作成することと、海水から水だけを取り除いて作成する方法だ。「対岸」のこのへんでは岩塩やかん水の埋蔵が見つかっていないのでほかに方法はない。
錬金術で直接作成するより簡単なのは水を飛ばす方法だ。魔法を組み込んだフィルタに魔力を通しながら海水を濾過すると、水だけ下に落ちて湿ってはいるが塩が残る。この塩を風通しのいい場所で数日乾燥させれば真っ白な塩のできあがりというわけだ。当然、フィルタは高価であるし、魔力を通す魔法使いの雇用費用も高額なため、できた塩は高価なものになる。
それを地熱で楽々作ってしまっているのだ。量に限界はあるが、求められないわけはない。
この脅威についてはテラオ村長も交えて相談をしている。
一番犠牲の出ない案、村を放棄することについては村長は難色を示した。人狩り隊の脅威にさらされていたころとは違う、と彼は主張した。
「あの時は一時避難で、短時間ならこっそり村に戻ることもできたけれど、お話の通りなら人間たちはきっとここに住み着くのでしょうな」
それは話が違う、と彼は主張した。
では、戦うか? 村人は数は多くない。このままでは勝てないだろう。
「時間を稼いで、その間に彼らと関係が築ければよし、そうでなければ一戦する準備を進めるべきでしょうね」
リンホーまでそんなことを言い出す。
「ロクザン老の言葉の通りなら、英雄は借り物の戦力なので、魔物の王を倒したらかえってしまうでしょう。あとは侯爵領の戦力でなんとかするということになります。となると、当面は東の樫鬼たちとの戦闘に注力です。くみしやすいと思われなければ、こちらには友好を装って探りをいれるだけになるでしょうな。そのために必要な措置を行いましょう」
こうして、防御計画をたて、必要な設備を作り、村人に訓練を施すことになった。
「なあ、本当に戦争になるだか? 」
のんびりした性格の村人たちは戸惑ったが、テラオ村長の説得で必要性を理解して緊張感をもってくれたことはありがたい。
そして、準備を始めたころにロクザン翁の邪妖精がやってきた。
「英雄の船がきた」




