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人類の脅威

 英雄というのはたいていは突出した戦士の集団らしい。まれにたった一人というのもあるが、正面きっての戦いに赴くのは例外なく十人から百人以上にまでなる戦士団だそうだ。

 彼ら一人一人の強さは通常の精鋭とよばれる兵士よりやや強い程度らしいが、彼らを統率し、臨機応変に戦う中心人物がいて、英雄の名前はたいていその人物なのだそうだ。

 英雄の名前となる彼らは白兵の達人であったり、魔法の巧者であったりするのだが、共通して優れた指揮能力を持っている。果断にして機をのがさぬ直感の持ち主、部下を限度まで強化する魔法使い、そして適材適所の人材運用を得意とする軍師。指揮能力の発揮のしかたはそれぞぞれだが、彼ら英雄によって英雄の仲間たちは通常の倍、三倍いやそれ以上の力を発揮することもあるという。

 ちなみに目下うちの最強戦力である兵士シュベイヒはなんとか精鋭といえるくらいらしい。

 そんなのがなんでこっちに来るのか。理由は二つあった。

「魔物の王に苦戦しておるからのう。目障りなのだよ」

 それならなぜ今まで呼ばれなかったのか。

「英雄はたいてい、国の有力者のお抱えになっておるからのう。フリーの英雄はそうそうおらぬ。おっても侯爵家に召し抱えるだけの財力はまだない。魔物の王をしりぞけ、東方を征服し南方にも広がれば公爵といえるだけの力を持ち、英雄も抱えることができる。だからそこをなんとかするまでは英雄など無縁であったはずなのじゃが、どうやらイワツバメ侯爵は借用に成功したらしい。噂では、やってくる英雄は銀狐女公爵の子飼とか。女公爵と皇帝と侯爵の間にどんな取引があったかは知らん。ただ、英雄の仕事は魔物対策だけではない。軍事的なバランスを保ち、有事には鋭い切っ先、固い盾になることこそ求められる。『対岸』に彼らがめったにわたってこないのはそういうわけよ」

 つまり、とロクザン翁は結論に入った。

「台地のほうで大きな動きがある。英雄たちが魔物の王を討つ、追い払う、あるいは返り討ちにあう。返り討ちとなった場合はそれもおそらく面倒な事態を招くだろうな。まあ、なんかわかったら使いをよこす。用心と備えをおこたらんようにな」

 つまり、どう転んでも面倒ごとにしかならんと。

 勘弁してほしい。

「どんな英雄が来るのかわかるのなら教えてほしい」

「女公爵のところのなら、戦乙女ケイラじゃな。魔法重戦士のケイラが指揮官先頭でつっこんでくる突破力のある連中だ。人数はまあ少な目で三十人かな」

 重戦士というからにはがっちがちの鎧きて馬かなんかに頼って突進してくるんだろうな。筋力と体重が必要そうだ。むきむきマッチョの女を想像した。

「ま、わかったら伝えるよ。今度は気絶しておらんようにな」

 夜が明ける前に、ロクザン翁は歩く死体を連れて帰っていった。この死体、人狩部隊の遺骸で状態のいいのに、制御用の魔法の回路を書き込んだピンを身体の要所、つまりツボにさしたのを支配下の改造幽霊に憑依させて動かしている、らしい。まあ、ゾンビの類だが、ちゃんと動かすためにかなり手間がかかっている。俺の知ってるゲームとか創作ではなんか大勢地面から立ち上がってくる印象があるが、そんな話をロクザン翁にすると「いや、そもそも腐乱死体や肉のない骨が動くの無理じゃろう」と笑われてしまった。ゴーレムはあるそうで、その技術で動かすことはできるが死体のような壊しやすいものを動かすメリットは怖がらせるくらい。これも手間のかかる技術なので、やる理由はない。

 このゾンビは研究の一環として作ったもので、あと一昼夜もすれば腐敗が進んで使えなくなるんだそうだ。ロクザン翁自身はゴーレムを作ったりはできないらしい。そういいながら、何か企んでいる顔はしていた。

 たぶん、またびっくりさせられるのだろう。それはともかく、考えるべきことが増えたのは確かだ。

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