太政大臣
今足りないものは何か。
まずはそれを考えよう。
…何もかもが足りないじゃないか。人が足りない、食料はじめ各種資源が足りない。
資源は土地と土地の開発。いまのところそれなりに豊富に手にはいるのは燃料いらずでできている塩くらいだ。これはこれでかなり重要な物資ではあるんだが。
魔物の王はもちろん、侯爵領とも今はことを構えるときではない。注意を引いてはいけない。これはなかなストレスのかかる状況だ。
「正直、侯爵領にしろ魔物の王にしろ、本気でこられたら勝ち目はない。この二つが拮抗してる間はいいが、万が一そうでなくなる日が来ることを考えて相談しておきたい」
テラオ村長とあとはゴドルを呼んで俺は相談した。
もちろん、その前に十分な力をつければいいのだが、どれだけかかるかわからないのに悠長に時間をいつまでも与えてくれるとは思わないほうがいい。
「そのときはまた、遺跡にこもるしかないのでは? 」
テラオ村長も考えてくれて助かった。
「そのためにも、遺跡のほうも手入れを怠らないようにしたい。人手の相談にのってくれ」
これについてはたちあってもらったゴドルが責任者になってくれることになった。まあ、そのつもりもあって彼を含めて相談したのだけど。
しかし、村の者たちだけでは絶対数が少なすぎて、こもっても詰むだけだ。侯爵領や魔物の王と対立しうるものたちと同盟を組む必要もある。その外交はテラオ村長がある程度できるものの、長年のしがらみもあって村長の返答もかんばしくはない。
それを解決できるのは武力ではない。魔法技術や、純粋な産業技術も貢献可能かもしれないがすべては交渉となると、太政大臣のリンホーが最適のようだ。彼は闇鬼だが、この種族はどう思われているかゴドルとテラオ村長に聞いてみると「おおっ」という反応だった。
「彼らはほとんど伝説ですな。このへんでは村で一番の年寄りが目にしたことがあるかないか。わしも話にしか聞いておりません。奥地の黄金郷のあるじでございますぞ」
黄金郷とはおおげさだが、このへんの樫鬼あたりにはそのくらい伝説になっているようだ。
「鉄鬼どもは取引があるようですな。ただ、鉄鬼どもの一番の有力者二人か三人だけの特権のようですが」
ゴドルはもう少しだけ詳しかった。
「ですので、樫鬼、鉄鬼、わしら小鬼には闇鬼様というだけでかなりの説得力があると思います。それでも飲めぬ条件は飲めぬので話し方次第と思いますが」
やってみる価値はあるようだ。創造性もほしいので、魂もやどしたいところだが、俺はまだ知的生物で試していないし、意志を持ってしまった場合、俺に従ってくれるかどうかわからない。
まずは魂なしで召喚し、旧魔王陣営がどのような外交をやっていたかをインタビューしよう。
彼を召喚することは相談した二人にのみ話をした。二人の意見は同じで、召喚は秘密に行い、しばらくは遺跡の中で話をきくだけにしようという。闇鬼のことを知ってる村人は恐れおののくし、知らない村人は見慣れぬ種族の存在におびえるかもしれない。よけいな不安はあたえないほうがいいということだ。
そういうわけで、太政大臣の召喚は夜、遺跡の外の朽ちた大木を媒介としてゴドル立ち合いのもとに行った。
これまでのべ五人行ってきたし、いずれも時間はほとんどかかっていない。兵士シュベイヒを緊急召喚したときは一刻を争う状況だった。今回もそのはずだったが、この時は何かおかしかった。
体の召喚は一瞬でできたと思う。だが、そこで媒体との接続が途切れず、魔力がさらに吸い出される感覚があった。小動物で魂の再形成を行ったときのようなかき集める感覚がないから魂に手はだしてないはずだ。そのつもりもない。それをしたければ、一度肉体の形成を終わらせてからあらためて行うことになるはずだ。
なのに、何かの罠にかかったように魔力が吸い取られていく。
そして俺は気を失った。




