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四天王

 整頓作業はかなりの魔力を消費する。

 ダラの注文に応じて獣の補充を手伝うとき、村の相談ごとのない日、台地の魔王や南の飛龍、侯爵領に気になる動きのない日はなかなかめぐってこなかったが、ようやくその機会がきた。

 まずは一人。

 丸一日割いて本当に正解だった。最初はあいまいな表面にさざなみがたって、こんなものかと思っていたのだが、それが一通り終わると、そこからさらに細かい波がたっていき……と情報の複雑化が一度ならずおそらく百回は越える回数が発生した。

 やってる間、これらの情報を読めたかというとそんな余裕はない。それに、ざっとみたところ情報量は膨大で、高齢の人間であったカササギ準公爵よりも多い。

 これは把握に時間がかかるのかと思えば、実はそうではなかった。

 彼の名前はスーハオ。遺跡の魔王の四天王の一人で、大将軍の称号を持つ者だった。

 読み出せたのは、彼が失意のうちに「対岸」に流れ着くまでの人生で、四天王としての活動やなぜ四天王になったのかなどの経緯の情報はそこにあるのはわかっているのに、なぜか読み出すことができなかった。

 スーハオは人間だった。小さな国の王族で、戦争とともに育ち、戦傷で戦場に立てなくなった父王にかわって若くして王となり、巧みな指揮と本人の勇猛さで一目おかれ、国はつつましいながらも近隣にくらべれば栄えていた。このあたりの彼の戦記は量も読みごたえもある。が、俺は先を急いだ。

 スーハオの戦記についていえば、彼は敵国がひそかな同盟を組んで挟撃をしかけたり、そのような権謀術数をしかけてきても直感と日ごろかかさない情報分析ですべて見抜いて覆してきたという、実にできすぎでつまらないくらいのスーパー戦国大名ぶりだったとだけ記しておこう。

 彼と彼の国の破滅は敵ではなく、身内からもたらされたものだった。正確には身内の対立だ。

 後継者問題、利益の配分、そういったもので彼の親族、親しい部下に亀裂がはいった。対外戦で敵なしの彼もこれにはまいる。とうとう外敵と結ぶものまででてきて、それは泣く泣く処刑するしかなかった。見せしめだったが、内紛で不利なものに外患をしりぞけよというのも無理な話だった。

 母国最後の日を迎えるころには親族、家臣団は弱体化していたが、それでも内通した身内を討伐し、敵をなんとか退けることはできそうだった。だが、ここで内紛で割りを食ってはいたがことをおこすとは思えないほど不利益を被ってなかったはずの親族が背後をつくように蜂起する。

 なぜそんなことになったのか、スーハオは知りようがなかった。必勝の戦線は背後をつかれてもろく崩れ去り、死のうとした彼は捲土重来を期すべく強く説得されて落ち延びることを選んだ。

 追撃はきびしく、洋上で遭難するころには誰ものこっていなった。そして彼は「対岸」につく。

 ここで彼を救ったのは樫鬼の村人たちだった。樫鬼の基準でも善良すぎる者たちで、人間を恐れはしていたが、遭難し漂着した彼を見殺しにすることもできなかった。

 種族も違うし、言葉もあまり通じないが、スーハオは彼らの恩義にはむくいたいと思った。報恩の末に死ぬのもまたいいだろう。それがこのころの彼の思いだ。

 その樫鬼たちは乱暴な異種族の脅威にさらされていた。人間ではない。鱗鬼とよばれる樫鬼よりも頑丈な体をもった戦闘種族で、どうやら樫鬼たちを追い出すか隷属させてその森の富を奪おうとしているようだった。スーハオはこれだと思った。樫鬼たちを率いて彼らを打ち破れれば恩義に報いることができるだろう。彼は助力を樫鬼の長に申し出た。

 長は彼に感謝したが、申し出を断ろうとした。相手が強すぎると。どうしてもというなら、森の祠で神に断食して十日の間祈りをささげ、われらを率いる邪霊となれ、と申し渡された。

 邪霊? ここまで読み進めて俺は驚いた。

 読み出せる情報は、スーハオは祠にこもるところまで、意識がもうろうとするところまでだ。

 その後、彼は邪霊、つまり魔王になったのだとすれば、それ以後の情報が読みだせないのもなんとなくわかる。だが、魔力は二人分くらいくうが召喚は可能なようだ。

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