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魂召喚

 魔王の記録には当時のものだがいろいろな記述があるので、書庫ですごすことが多くなっていた。

 たまに村の連中に相談をされることがあるとでかけていくのだが、まあ、やらされたのは判事の真似事だ。つまり村人同士のちょっとしたもめごとの仲裁。

 だからロクザン翁が現れたときはびっくりした。

「これはおもしろいところにおるな」

 心臓がとび出るほど驚いたよ。

「なんでここが」

「さがしたんじゃぞ。小鬼どもがここと行き来していなければ見つからなんだな」

 作業場があるので、鍛冶、工芸を行う小鬼たちが村と往復しているのをつけられたらしい。

「それはお手間をとらせた。それにしても思ったより早い再訪だね」

 もっといろいろ読んだりためしたり、復活した娑婆の面倒の処理とかあって当分こないと思っていた。これは本当だ。

「試したいことを思いついた! 」

 爺さんはあっけらかんと楽しそうにそういった。今後もこの調子で来るんじゃないだろうか。なんか憎めないけど面倒な知り合いができてしまったようだ。

「試したいこと? 」

「その前にここはなんだね。書庫のようだが、未知の文字で書かれておるな。読めるのか」

「うん、まあね。この遺跡の歴史とかだね」

「ほおほおほお、それはぜひ書写させてほしい」

 目が輝いている。写したあとは読み方を教えろとか面倒なことになるんだろうな。

「次は実体でくる気? 」

 霊体だから見つかることなくここまできたけど彼の実体は人間だ。小鬼も樫鬼も驚くだろうな。兵士シュベイヒの姿にもやっと少し慣れてきておびえなくなってきたというのに、また怖がらせてしまう。

「おう、おぬしにいくつか進呈したい写本もあるでな。そいつの取り寄せが来たら実体つきの手のものも連れてくるのでよろしく」

 来る前に、霊体でいいので使いを出してほしいものだ。

 で、俺は爺さんの実験につきあうことになった。

「で、何をするんだい」

「魂をな、簡単な生き物に吹き込んでみるのじゃよ」

「前にやったあれ? 」

「いや、魔王のやりかたじゃ。いきなり人型でやるときついので、ネズミでも鹿でもいい。本能で生きていける系のでやってもらおうとな」

 俺がやるのか。

「もちろんよ。文献で見てみてな、おぬしが同じことをできるならその場を見ておきたいと思うともういてもたってもいられんでな」

 正直な爺さんだ。

「娑婆のほうはほったらかしでいいのか」

「まあ、あんまりよくない。だからさっさとすまそう」

 そうか。それなのに探すのに手間取らせて悪いことをしたかも。

 爺さんの見た方法とは、召喚をやったあと、再度召喚したものに召喚を行うというものだった。

「似たようなことはやったぞ」

 魔物の王の召喚した蛙人の体に、兵士シュベイヒを召喚した話をすると爺さんは「ほお!」と嬉しそうな声をあげた。

「なるほど、上書きじゃな。だがのう、わしのいうのは召喚した魂なしを使ってもっかい召喚してみ、ということなのじゃ。とりあえず、ネズミとかでやってみぃ」

 ネズミかぁ。外でやればいいかな。

 最悪スプラッタムービーみたいになっても後味が少し悪いくらいですむし。

「まあ、やってみるけど」

「おう、若者はどんどん可能性を追求せい」

 無責任にあおるロウガン翁。

 一回目。ぐしゃっと召喚した鼠がつぶれるのを感じた。すぐにそれを食いつぶして同じ鼠が出現したので汚れることはなかった。

 この時、少し妙な手ごたえがあった。肉体をつぶす前に抵抗があったのだ。こんな抵抗は蛙人をつぶしたときにもなかった。もしかすると、つぶさずに上書きができるのかもしれない。一回目はいつも通り、材料を使って形を与える要領だった。

 黙って二回目を試みるのを爺さんは目を輝かせてみている。何か言いたげだったが、俺が何かつかんだと思ったのだろう。黙ってみていてくれた。

 二回目は何もおきない結果になったが、今回は力加減が少なすぎた、という感じだった。

 五回目にして、やっと成功の実感があった。

 確かに意志なき鼠に何かを上書きした。そう思った次の瞬間、鼠はびっくりしたようにあたりを見回すと、ささっと逃げていったのだ。彼の情報は消えていないし、表示もされる。

 そこにはこうあった。

 状態:正常、魂(弱)保有


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