地下墓地
壮観がそこにあった。
ゲームや映画の地下迷宮のように溶岩の見える場所があるとは思わなかった。
直径十メートル、深さもそれくらいの縦穴。それが延々降りて行った通路の底の広大な空間にあった。
天井はドーム状にせりあがり、中央にはどこかに通じる長い穴があいていて、溶岩の穴から上昇する熱気や水蒸気を吸い上げていた。そのため、寺院の縦穴から空気が吸い込まれ、この地下全体に新鮮な空気が流れている。
流れ出した排水のゆきつくところもここで、溝から流れ落ちてもうもうと水蒸気があがっていた。
そしてこの熱気を利用しない手はないと広場の片側には小鬼たちの工房がもうけられている。今は働いている姿はないが、整理された道具や、作りかけの鍋や刃物はまだ新しく、今も使われていることがわかる。何でできているかわからないが滑車からワイヤーでつるされたバスケットがぶらぶらしているのは、金属をこれで熱するためなのだろう。木炭も作っているらしく、大量につみあげられていた。
さらにこの竪穴は魔王の時代には火葬にも用いられたのだという。
工房のあるのと反対側には壁一面に鉛の小さな板が整然とはりつけられている。名前がかかれているようだ。死者はここから穴に落とされ、火葬に付す。つまりここがこの地下迷宮の墓地だった。
名札の数は五、六百はありそうなのだが、ここで拾えた幽霊はたった四人だった。しかも種族や情報がなぜかあいまい。ゲームシステムが見たことのない「レベル不足で参照、召喚できません」というメッセージを吐く。この四人、いったい何者なのか。
ゴドルに最近ここで葬った者がいるかを聞いたが、この墓地での火葬はここに住む者がいなくなってからいないのだという。
「ここに避難してから小鬼は一人なくなっておりますが、そのものは樫鬼の墓場に彼らのやりかたで葬ってもらいました」
と、するとこの四人は長い時をここで消えずにただよっていた幽霊ということになる。どれだけの魔力の持ち主だったのだろうか。
「遺物はこちらになります」
墓地の横から、降りてきたのとは別の通路をぐるぐる登っていく。こっちにも排水溝はあるが手入れされていないためあふれて足元が濡れてすべりやすくなっていた。
ここまで、俺の召喚者でついてきているのは兵士シュベイヒだけだ。ダラは村の樫鬼の女衆となにか交流があるらしく、あちらに残っている。夜目がきかないのは彼だけなので、たいまつは彼がもっていたが、何度もこれを消してしまいそうになっていた。
登り切ったところは人気がない以外は、村の者たちが居住につかっているのとよく似た区画だった。実際、その向こうに明かりが見える。あれは穴の底に寺院からさしている光景のようだ。誰か水汲みしているのが遠目に見える。
「こちらへ」
ゴドルは反対方向を指した。壁しかない。しかしちょうどいい高さにてのひらくらいのつややかなプレートがはってある。
そこに手をあててみろ、とゴドルがいうのでその通りにしてみたら、壁が引っ込んですり抜けることのできる隙間ができる。
「見立て通りです」
何がか説明せず、小鬼はすきまをぬけてあちら側へ。仕方なく、俺たちもついてはいった。
暗視がきくからすぐにわかった。巨大な書架が林立する図書室だった。
「これが魔王の遺物です。わしらには読めない文字ですが、あなたさまなら読めましょう」
一冊、開いて見せられたそこには、なじみの文字がなじみの言語で書かれていた。つまり、俺の国の言語だ。




