魔王その2
ロクザン翁はその後、侯爵領に帰っていった。元気になったということでいろいろ調べるつもりらしい。
彼からの最初の教えは魔王にできることだった。
一つ、魔王は意志なき死者を魂なき材料より作り上げることができる。
樹木からダイやダラを、魂のない蛙人から兵士シュベイヒを生み出せたのはこの権能による。
召喚された死者は魔王に絶対服従だが、魔王も維持コストの負担が発生する。ただし、微量であるためたいていの魔王は気にしていないが大軍団となるとさすがに積もれば山なので、規模には限度があるようだ。
召喚者は何度でも再召喚できる。これは情報空間に記録がのこっているから複製できるということだろう。維持コストは一体のみ有効らしいので、同じ召喚者が複数人でてくることはない。維持できなかった召喚者はただの死体になる。
一つ、魔王は意志なき死者に魂を付与できる。
これは今のレベルの俺にはできない。レベルが上昇すればできるようになると思うがどこからかは不明。
魂を付与した召喚者は維持コストが不要になり、自由意志を持つため強く、柔軟になるかわりに裏切る危険もかかえることになる。
台地の魔物の王もできるがそれが面倒でやってないようだ。
ほかにも権能がいくつもあるらしいが、それはロクザン翁もあまりくわしくなかった。
「共通してもっておるものではないのだろう。おぬしにはおぬしの権能があるだろう」
俺の「ゲームシステム」がたぶんそうかな。
ロクザン翁のおかげで少し夜更かしになった翌朝、俺はダラに枕を引き抜かれて起こされた。
「旦那様、客だべ」
なんだその呼び方は、と思ったがこれまで彼女から俺を呼ぶときは無言でつつくくらいだったし、彼女なりに迷って決めた呼び方らしい。もちろん夫婦のそれではなく、主人と使用人のそれだ。
「客? 」
「ぞろぞろきたよ。たぶん村の人」
ぞろぞろ?
外に出てみると、浜に小鬼、樫鬼あわせて四十人近くがあつまっていた。武器をもった男もいるが女子供もいる。みんな俺を見て唖然としているようだ。
「魔王タケト様、勘定方のゴドルです。昨日は塩をありがとうござった」
見覚えのある小鬼が老齢の樫鬼と一緒に進み出て人間式のお辞儀をした。
何事だろうか。ここにいるのはどうも村の生き残り全員のようなのだが。
「今日は大勢ね。塩は作りすぎてはいるけど、こんなに人数がいるほど大量ではないよ」
とりあえず、とぼけておいた。
「まずは、村長を紹介させていただきたい」
くっそ。動揺しねぇ。この爺さんが監視の責任者やってた理由がちょっとわかったぞ。
「村長のテラオともうします。あの、魔王様。人間のようなお姿なのでみな不安がってもうしわけなく」
かしこまられても困るんだが、なんだこの態度。
村長のテラオは皺もすごいがあちこちに傷跡がひきつっていて、戦争なのか災害なのか、大変な体験をしてきた人物のようだ。それがうやうやしく俺に接するのは気後れさえ感じる。
「隠しても仕方ないが、俺は元は人間だ。人間といっても、東に住み着いた人間たちとは全然違う遠い国だ。そこからカルと名乗る神らしい女に連れてこられた。魔王をやれといわれたが、樫鬼なら邪霊といったほうが通りはいいかな。いえるのはそれだけだ」
カルという神の名前は小鬼も樫鬼も知らなかった。彼らはざわめき、何か早口で話し始めた。
その中で村長のテラオと勘定方のゴドルだけが落ち着き払っていた。
「やはりそうですか。少し失礼を」
テラオは村の衆に向き直った。
「樫鬼の衆、今の邪霊様のお話は、カル神を混沌の大精霊ルキと心得よ。小鬼の衆、諸君の伝承なら天秤の神メルである」
ざわめきがひときわ大きくなったが、ゴドルが「鎮まれ」と鋭く制するとぴたりとやんだ。わけがわからず鳴く子供のかぼそい声だけが残った。
テラオは俺のほうに再度向き直ると右のこぶしを胸にあて、膝をついた。申し合わせができてたらしく、ゴドルの合図で村の衆もならう。
「魔王タケト殿、お慈悲でござる。われらをあなたさまの保護においていただきたく」
なんだと。




