儀式
「では、女をここに座らせてくれ」
ロクザン翁は部屋の中央をさす。食卓があるのでこれをよけてダラをぺたんと座らせた。
「さて、ちょっと驚かんでくれよ」
爺さんは幽霊の体をもそもそ動かした。幽霊とはいえ、足がぼんやりしているなんてことはなく、ただ少し宙に浮かんでいるだけなので不審なことこの上ない。
ぽんっと何かがその陰からでてきたように見えた。小さな妖精のような姿だが、表情がなんだか邪悪な感じのが三匹。
「紹介しよう。助手のフィー、トゥイ、スライだ。弟子でもある。こんな見かけだがそこらの人間より強いし、気難しいからいらんことは言わないようにな」
三匹の邪妖精は俺の顔を見てけっといいそうな顔を見せた。怒っていいかなーと思うが、2レベルでとまってる俺よりたぶん強い。
「始めるぞ。段取り通りやれ」
三匹は鼻をほじったりあくびをしながらわかったわかったと言いたげに手をふった。態度が悪い。
ロクザン翁がダラの正面に浮かび、他の三匹が左右、後ろを固めるように浮いた。ダラは何をされるのかわからずきょろきょろしている。
爺さんが彼女の額に触れた。三匹も触れてはいないが両手を前に出している。
虹色の霞のようなものがその間をただよいはじめた。
よく見ると、さらに薄い霞が周辺から集まってくる。これはなんだろう、蒸気のように見えるし、それなら虹もわかるが、明かりの位置がおかしい。これは光の屈折などではない。
それに、もやもやしたそれが見えているのはロクザン翁、邪妖精、そして俺だけらしい。
つまりこれは霊体の仲間ってことのようだ。
集まった霧はダラを包み、木型におしつけた粘土のように何か形作り始めた。たくさんの複雑な曲線模様がレリーフのように見える。唐草模様のようにも見えるし、ひたすらにぐるぐる回る渦のようにも見える。不定形の霧の上にそんな形がうかんでいる。
十分もそうした成形作業が続いただろうか。ふいに、その全部がしみこむようにダラの体の中に消えた。彼女が意識を失ってくず折れるのはすぐだった。
「終わった。見えたか」
「あれはなんです」
「ま、魂じゃな。材料はそのへんに漂っておる。見えたならおぬしにもできる日がこよう」
ダラの様子を見るとすうすう眠っているようだ。
「少し寝かせてやるがいい」
邪妖精たちはいつの間にか姿を消していた。
「あの三匹というか三人は? 」
「あれらも疲れたからわしの中で寝てもうたようだ。今は何をいっても大丈夫だ。質問があるのだろう? 」
「あの三匹は幽霊に魂を与えて作った、間違ってないだろうか」
「加工した幽霊だのう。魂を形成する型として少しいじった。まあ、体がない場合はあんな感じになるが、さて、この樫鬼はどうなるかの」
邪妖精みたいな顔をするようになったらやだな、と思う。
その心配がつぶやきになってたらしい。ロクザン翁はかっかっと笑った。
「魂は器に従う。あの三人はとりわけ邪悪な人間であったからな。この女がそうでないとは言えぬが、弱い幽霊にしかならんものは善良なものがほとんどだ」
「なら、人が変わるってこともないのじゃ? 」
「人間にはいろんな側面がある。清楚な顔をして淫蕩であったりな。そのどれがでるかわからんということだな」
ペルソナというやつか。魂が重要な部品のような言い方をしてたが、今のを聞いてるとエンジンとか制御用のコンピュータのような感じなのだなと思う。
ダラはそれから一時間ほどすうすう寝ていた。




