来訪者
何者か、と小鬼に問われた。
どう答えるべきか、は一晩悩んだことだ。
答えその1 魔物の王の仲間です。…絶対警戒しかされない。
答えその2 秘密です。信用されない。
答えその3 魔王です。
魔王は過去にいくつもいて、滅ぼされたり自然に滅びたりしたみたいだけど、樫鬼や小鬼たちにとってどんな存在なのだろう。
そのものの言葉は樫鬼にはなく、小鬼と人間だけがおとぎ話で覚えていた。
人間にとっての魔王は人間に敵対する魔物たちの統括者。まあテンプレだね。
樫鬼たちは自然の王というものに従っていた伝説があるらしい。悪さをこのむ強力な邪霊というものととても強い人間たちを退け、自然を回復し、祖先に生き方を教えた存在。樫鬼だけでなく「対岸」のすべての生き物に指針を与えた偉大な指導者。
小鬼たちは魔帝と魔王いうものを伝承で覚えていた。魔王は気まぐれで好き勝手をする強力な存在。魔帝は彼らの上に君臨し、秩序あるくらしを約束した有徳の君主。ただし、魔帝も即位前は魔王の一柱であった。
それなら、賭けにはなるが名乗る名称は一つだ。
「俺は元は人間だが、魔王だ。タケトという。運悪く神に拉致されて改造された、遠い異国の元人間だ」
「魔王は死者を冒涜するものがおるという。もしやあの樫鬼は」
「滅びた村の幽霊だよ。身の回りの世話をお願いしている」
「むう」
小鬼は考え込んだ。が、時間を無駄にするのはよくないと思い直したようだ。
「信じよう。しかしこんなところに魔王が2柱も降臨するとは」
「その点については俺も神に文句をいいたいね」
「襲われておられたものな」
小鬼は短い歯擦音をつづけさまにいくつも出した。笑っているらしい。
「では、塩はいただいてまいります」
「まだあるから、足らなければ相談してくれ」
「そのときは」
小鬼は手を胸にあて、頭を軽くさげた。彼らなりの礼のしかたらしい。
「わしは勘定方のゴドルともうす。以後お見知りおきを」
彼は塩の手桶を大事そうにぶらさげて森に消えていった。
おそらく、これで彼らに動きが出るだろう。
敵対や、逃散でなければいいな。敵対の可能性はないとはいいきれない。だが、脅威と思うならさらに彼らは逃げるだろう。逃げるあてがあればだが。
そして期待しているのが同盟だ。敵にまわすよりよほど得なはずだし、今回の塩の提供もその余地を知らせるつもりだった。
早ければ、明日にでも誰か来るだろう。
ところが、俺の予想ははずれた。
来訪者がやってきたのは日没後、壊れた船の舟板で窓を封鎖し、ドアを補強したのにもかかわらず、俺の目の前にすうっとやってきたのだ。
「ここにおったか」
死霊術師の霊体魔法使い、ロクザン翁がふうわふうわと漂っていた。




