監視隊
測量はいったん中止だ。
偵察小鳥を近くに止まらせ、彼らを観察した。
小鬼が一人、樫鬼が一人、いや二人だな。少し見ていたらひとり戻ってきて待機していた一人が頭に偽装の枝とかさして集落のあるほうへごそごそと。
これは集落というより前線基地か。
小鬼は焚火にかけた鍋の中身をかき回し、戻ってきた樫鬼に木製らしいお椀によそって渡した。空腹だったらしく、戻ってきた樫鬼はがつがつ食べ始めた。彼らの容貌、年齢はわかりにくいが戻ってきたほうはまだ若者のようだ。今でかけていったほうに比べてもほっそりしている。
彼らは何者か? 集落の元住人以外考えられない。
いつからかわからないが、俺たちは監視されていたようだ。もしかすると、ここに来る前から監視して魔物の王の手先の活動範囲が広がらないか見ていたのかもしれない。
地図に監視小屋のおおまかな位置を書き入れた。
たぶん、彼らの今住んでいるところはこの延長線上にある。そう思ったので、その少し先まで小鳥を飛ばしたが、何も見つからなかった。マヤの神殿のような古い石造の遺跡が木々に埋もれてゆっくり崩壊しているのを見つけただけだ。興味を引かれるが、あの状態ではだれも住めない。
取り込んだここの元住人の記憶にもその遺跡や、彼らの避難してそうな場所の心当たりはない。
少し危険だが、接触してみるしかないようだ。
樫鬼は文字を持たないが、小鬼は文字を持っている。小鬼の若い大工の記憶では棟梁が何冊も木簡の巻物をもっていたようだ。小鬼の留守宅にいけばもしかしたらそういうものがあるかもしれないが、後々面倒のものとになりそうで遠慮していた。監視されているとわかった今、なおさらそれはできない。
おそらく大事な分は持ち出されてしまっただろう。
だが、文字の意味と書き方は話し言葉同様、なぜか自然にかけるようになっている。魔王の権能なんだろう。これがあれば学生時代苦労しなかったんだけどな。
まずは彼らに文字でメッセージを送ろう。いきなり会いにいったらびっくりして逃げたり攻撃されかねない。
使ったのは陸揚げされているボートだった。その腹に地図書きに使っているダラの作ってくれた墨でメッセージを書いた。
効果はびっくりするほど覿面だった。翌日、一人が村までやってきたのだ。
やってきたのは鍋をかき回してた小鬼だった。
朝、ダラが起こしに来たときには彼はメッセージを書いたボートのところで辛抱強くまっていた。兵士シュベイヒは斧を手に姿を見せないようにして警戒している。さすがと思うのは、来訪者だけでなく背後、横にも目を配っているところだろう。彼が結構強いのは襲撃隊を倒した手際でわかってはいた。
「人間、言葉はわかるか」
小鬼の声には警戒があったが、怯えはなかった。度胸のある人物だな。
「わかるぞ。やはり必要か」
小鬼はうなずいた。この仕草は人間と同じらしい。
「わかった。少し待て。一袋渡そう」
引き返し、そこらにころがってた手桶を洗って乾かしたものに塩を詰めたのを持っていく。
「こんな入れ物で悪いな。蓋はなんとかしてくれ」
海辺の製塩所を失った彼らが、塩に困ってるのではないかという読みはどうやら当たったようだ。
小鬼は少し舐めて確かに塩だということを認めた。
「助かるが、代価は何を望む」
「あの村はあんたたちの村だったんじゃないのか? 」
「そうだが」
「なら、空き家とはいえ家を勝手に使った詫びとでも思ってくれ」
つまり、これを受け取れば俺たちの入居を認めるということだ。小鬼の表情はわかりにくいが、迷っているのは読み取れた。
「わかった。そういうことで受け取っておく」
小鬼は桶を力仕事するほうの指でつかんだ。
「また必要になったら言ってくれ」
「一つ聞いていいかね」
「なんだね」
「人間のあんたがこんなとこで何をやってるんだ。どうして樫鬼と一緒にいる」
聞かれるだろうな、と思う質問だった。




