偵察
襲撃者の遺体は兵士に手伝わせて村の少し離れたあたりに埋めた。
無理をすれば一体を材料に一人召喚できそうだが、やめておいた。
それから、彼らの乗ってきた大型ボートを調べた。海岸の杭にもやったそれは、人間たちのものだった。
船の中にはオールのほかに彼らのおやつとおぼしいものが帆布のカバンにはいっている。その側に竹筒や革袋で飲み水らしいものもおいてある。かばんと水筒一つをもらうことにした。人間の作ったものらしく、長さの調整可能な下げ紐のついた革袋だ。中身は少しくさい水だったので、温泉源泉のお湯で消毒しておこう。
おやつは半生の干し魚、虫のわいたビスケット、殻ごと炒ったどんぐり、そして虫をつぶした干物だった。誰が何を食べるかはわかる気がするが、どれも食べる気になはれないので樫鬼用と思われるどんぐり以外はその場で捨てた。
魔物の王の人狩り隊だが、おそらく、今、この辺にいるのは彼らだけだろう。住人がいなくなってしまっているのだ。おそらく一隊より多くはおかない。置いているなら、一番戦えそうなダイをまずしとめてから、なんて手間はかけない。
とはいえ、いつまでもここで頑張ることはできないだろう。
今回の騒ぎで、魔物の王には俺のことがばれたと見たほうがいい。彼女にどの程度、元の人間の心が残っているかわからないが、駄女神のいう保護対象、つまり人間以外もこうやって襲っているのだから、友好的とは思わないほうが無難だろう。
また落ち延びるにしても、今度ばかりは本当に情報がない。偵察小鳥を出してまだ確認できてない範囲の網羅的な地図をまず作らないと危ういだろう。
人間たちをうらやましく思うことに、彼らは紙をもっていた。羊皮紙かパピルス紙か蔡侯紙か、はたまたそれらより優れた現代のものに近いものかわからないが、人間たちが紙をめくっているのは遠目に見ている。
だが、残念なことに樫鬼も小鬼も紙をもっていない。常時濡れていそうな蛙人は期待はできない。
地図を描くなら広い板かつないだ革だろう。いったん、家の壁に描くことにする。細めの刷毛があるので、これを筆としよう。使いにくいが。
目で見た範囲の地形をやや小さめに、ちと不器用に書き入れたのが始まりだ。
ダラには再度引っ越しの準備を進めてもらい、兵士は単独行動は避けてもらって村で守りについてもらうことにする。暇そうなので、釣りをやらせた。教えたことはできるので、製塩の手伝いもさせてみよう。
その間に俺は偵察小鳥で見てとったものを壁に書き入れて行った。距離は小鳥のとんだ時間で記録する。幸いというか、情報空間に時間表示機能があって、だいたいの飛行時間は測定できる。
最初に、すでに知っているものとの位置関係の確認をする。最初の廃村、それに蛙人の集落だ。さらに墓地も探って侯爵領も測る。
魔物の王の領域は危険なので偵察は出さないが、こうすることで輪郭はおおむねつかめた。
彼女の支配地域はあまり広くはない。東西は二キロ少し、南北は三キロくらいの台地の上の原生林が中核で、これは面積だけなら侯爵領よりずっと狭い。ただ、係争地と思われる東側の裾野の荒れ地は湿地やちょっとした丘と林を備えて幅二キロほどに広がっていて遠目でわかりにくいが、あちこちに建物らしいものがあるようだ。おそらく人間側の拠点だろう。
台地の西は三角形に湾が切れ込んでいて、入り江の東外縁はつまり半島となっていた。この半島に襲撃者たちは潜んでいたようだ。以前、きらっと光ったものを見たあたりには蜘蛛の巣のようなものが見えた。
台地南端は東西とちがってかなり高い断崖になっている。廃村に向かう途中でホバリングさせて見たところ、森はうっすらかすみがかかったようになっている。これも蜘蛛の巣だろう。この台地に踏み込むのは危険極まりないと思う。
情報空間で幽霊たちの記憶を調べてみると、ここに魔物の王の脅威が現れたのは五、六年前。廃村の樫鬼が滅ぼされたころにはまだいなかった。どうやら駄女神は俺とあまり変わらない場所に彼女を放り出したようだ。あるいは、たまたま、なのかもしれない。俺の運ならありそうなことだ。
あとはスライムと亀だったか。案外近くにいたりしないよな。ありそうでこわい。
既知のものの位置関係を再確認すると、調べたことのない場所を、近くから念入りに調べることを始めた。
そして、南西の森の中に、小さな小屋を発見した。廃屋ではない。煮炊きの煙があがって、動きがあった。ほんの数百メートル。
何者だろう。




