表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/455

来訪者たち

 拾った情報を検証してみる。

 魔王業が本格的になったらいちいちこんなことはやっていけないのだろう。蛇たちに自由に狩猟させてたころは小動物の情報は目立つものしかみなかった。

 が、今はまだまだ情報が不足している。

 新しい捕獲者は四つ。

 最初の蛙人はあの海を回り込んだ集落の住人だった。彼の記憶は人間にとってはぬめぬめと生臭いものばかりなのだが、彼にとってはかぐわしく温かくやすらぐものであったらしい。子供集団で育てられ、少し年長の若者集団に仕事を教えられ、やがて成長の儀式を終えたところで交尾を許される。そこからの印象的な記憶が交尾ばかりだったのでさすがにそういうのはすっとばした。

 彼は一人前の漁師になったが、少しずる賢い漁師だったようだ。この集落の住人がいなくなったらしいと知って、その漁場に侵入し、本来なら持ち帰って仲間たちにふるまうべき漁獲物をここの浜で一人たのしんでいたようだ。そしてそれが彼の運のつきだった。魔物の王の手先に狩られてしまったのだ。

 まあ、情報として得るものはすくなかった。ただ、彼らとも話ができるようになったと思う。それより幽霊を吸収したわけではないので、ステータスにも影響があった。循環系の持久力が結構目立ってあがったので、長距離走も結構がんばれそうだ。それと皮膚呼吸が強化されている。どういう病気かわからないが、湿地特有の感染症に対する免疫も強化されたらしい。彼にも魔物の王の一瞬の記憶が複写されていた。十代と思われる若い男女とどこかの店で向かい合っている記憶。一瞬すぎてわからないが、たぶん友人たちとお茶というところだろう。そういえば宝くじで選んだといっていたから、呼ばれる人間はうちの国にすんでいる人からしか選ばれてないはずだ。なぜだろう。

 次に人間。思った通り準公爵領の住人だった。滅びた旧公爵領に残った農奴の若者で、父親が酒場のトラブルで死んで、その農地を引き継ぐものと思ったところ、彼ではないどこかの農家の次男と契約してしまったから出て行けと老母、妹ともども追い出された。これも潜在的な不穏分子とみなされがちな旧公爵領の人間を「対岸」に捨てようとする動きだったらしい。理不尽に彼は追い出され、手押し車いっぱいの荷物だけ許されて船に乗せられた。

 ただ、準公爵領では前より広い農地と軽い貢納で来たよかったと感じたらしい。

 彼の不幸は妹婿と折り合いが悪く、話があると呼び出されたところで魔物の王の人狩り隊に遭遇したことだった。本人ははめられた、と思ったようだ。人狩り隊の出没情報は必ず共有され、警告が出されるはずだが農奴あらため農夫は聞いていなかった。彼の畑は妹婿のものより実りがよく、うらやましがられていたことも動機だろうといまわの際に思ったのが最後だった。

 彼は樫鬼用のベッドで居心地悪そうにやすんでいる兵士(シュベイヒという名前だ)より最近の住人で、イワツバメ準公爵が最近はイワツバメ侯爵と名乗っていることを知った。侯爵はあまり使われない称号で、ほぼ独立していて公爵家一歩手前という位置づけになる。「対岸」にあって干渉しにくいのが大きい。農夫の記憶ではイワツバメ準公爵あらためイワツバメ侯爵の後ろ盾はいまは本家ではなく皇帝家らしい。これは他の公爵家も支持したという噂レベルの話を彼は聞いていた。

 彼には足腰を少し強くしてもらった。それと、魔力も少し増えた。考えたくないが、人間は経験値としてはおいしいのかもしれない。もっていた一瞬の記憶は風呂場のものらしい天井。なんの手がかりにもなりそうにない。

 次の樫鬼はこの集落の若い樫鬼だった。やはり魔物の王の村民狩りに悩んでいて、小鬼の二人同様に迎撃に出て、不幸にも連れていかれたほうに入っていたらしい。狩人であり、木こりでもあった彼はまだ見習いだったせいか、ステータスへの影響はほとんどなかった。ただ、詳細に見ると内臓機能に少しの改善があった。体力がつき、回復力があがり、少し若返ったようだ。一瞬の記憶は試験用紙と記入中の自分の手。指は長いが、細く、あまり大きな掌ではない。おそらく少女なのだろう。これまでのものとつなげれば中学生か高校生だったのかも。なぜ宝くじを買っていたのかわからないが、それが不幸を招いた。運だけなら俺より悪いんだろうな。

 最後の一人、いや一匹というべきか。これは不思議な生き物だった。

 一言でいえば大きなハエトリグモ。あれは小さなものだが、これはさしわたし一メートル少々、体高も一メートルくらいはあったんじゃないかと思う大きなもので、人間、樫鬼は急所を一撃で片付けている兵士シュベイヒがどこか急所かわからず滅多打ちにしていた。不気味な点は大きさだけではなく、前の二脚の先端が小さな手になっていることと、真ん中の大きな二個の単眼がそこだけまぶたを備えた人間の目になっていることだった。こんな生き物については情報空間で調べても見覚えのある者はいそうにない。

 この世ならざる生き物。こいつからは糸を出したり、つむいだりする蜘蛛らしい特性がえられたが、蜘蛛の器官がないとだめだったり、腕が四本必要だったりで役には立たない。ただ、「重力制御(魔法)」というのは初めての魔法能力で、後々研究しておきたい。ステータスは簡易表示が1あがるほどの魔力上昇と背筋、腹筋の若干の強化だった。

 彼、あるいは彼女の記憶は仲間と一緒に卵から生まれ、「母」の命令に従って「眷属」を率いて狩を続けていた。それだけだった。そしてこれまでとちがって、記憶の断片はもっていない。

 たぶん、この蜘蛛の怪物は魔物の王の分身のようなものなのだろう。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ