まずは1レベルから始めてみる(修正)
建物は全部焼け落ちていたが、蔵が一軒、ほぼ無傷でのこっていたので助かった。
もちろん、中身はからっぽだったが、雨露をしのぐ屋根と壁があるのはありがたい。入り込んでいる小動物や虫を追い出す必要はあったが。
廃材も使ってどうにか最初の住居を整えた。これが俺の魔王城1.0ってわけだ。
俺の今のレベルは1。もともとの自分に毛が生えたくらいでしかない。
そしてこのレベルで表示される仕掛けがおれの「チート能力」だ。ゲームシステムと命名した。
つまり、レベルアップとステータス表示というロールプレイング要素と、あとはシミレーションゲーム要素を備えたものを構築したのだ。もちろん一朝一夕ではなく、休憩をはさみ、議論を行いながらおそらく一か月はかけたと思う。その間に困った駄女神が別の神様に助言をもらったりしていた。
全部終わった時に彼女がどういう様子だったか、送り出すときにどんな言葉を言ったかは、神としての沽券にかかわると思うので秘密にしておこう。
実を言えばいきなり最強状態になることもできたし、駄女神はそれを提案してきた。
最強状態ってなんだと聞くと、過去に存在したトップクラスの魔王のどれかの能力をまるごとコピーするらしい。いきなり無双という言葉には少しだけよろめいてしまった。
だが、俺は運が悪い。なるほど最強の能力はいきなり身につくかもしれない。それで力任せに物事を進めることもできるかもしれない。だが、相性が絶望的に悪い能力だったらどうするのか。
それら過去の魔王は天寿をまっとうしたのか。
そう訊いたら駄女神のやつ、目をそらしやがった。何者にやられたにしろ、攻略可能というわけだ。そして過去の魔王なら討伐の記録が残ってるかもしれない。というか俺のくじ運だ。絶対ばっちり残ってるやつを引き当てる気がする。
だから、手探りで感覚をつかみながら、自分オンリーの強さを模索できる仕組みをもとめた。
それに、駄女神が俺に望んだ役割は人間と敵対するものでもない。強さだけが必要なわけじゃない。いきなり独りよがりで達成できるものじゃないだろう。
彼女が求めたのは、現代人の俺的な解釈ではつまり生物多様性の維持なのだ。
絶滅は人間の得意とするところは、こっちでもかわりがないらしい。
どうやるか、まずは一つ実践してみよう。
蔵を掃除するとき、住み着いていた蛇にかみつかれた。
その牙は俺の体を守っている薄い結界に阻まれて届かないが、結界はまだ二枚しか張れないし硬く弾くためというより柔らかく抵抗するもののため、噛まれた部分が一枚はげてしまった。レベル1ならこんなものだ。
その間に俺は蛇を地面に叩きつけ、足で踏んで頭をつぶした。死んだ蛇は消えたりはしないが、俺は自分の管理領域にやつの情報がはいってくるのを感じた。この管理領域がどんなものか説明しにくいが、自分専用の倉庫というか動物園のような場所だ。記録しているのだろうが、意識を向けると彼は生きていたころのように動いている。
まだやったことはないが、彼らは魔力と触媒を用いることで召喚というか蘇生することができる。維持には召喚に応じた魔力が必要だが、必要量はかなり少ない。
人間に滅ぼされたり、滅ぼされそうな種族を保存し、なるべく多くが自活できる環境を作る。それが魔王たる俺の使命だ。この保存と再生はどの選択をした場合でも課せられることは決まっていた。
蛇を記録したことで、ゲームシステムのステータス画面に少し変化が出る。人間の能力というのは、例えば強さなら筋肉ごとに筋力があるように鍛え方で表示は千差万別だ。その詳細を見ることもできるが、総合力ざっくりでいい場合もあるのでそういう表記にもしてもらっている。その詳細画面を見ると、背筋がわずかに強くなったようだ。総合評価の数値はかわらないが、微増をしめすアスタリスクがついている。また、免疫力の欄に神経毒(蛇毒)抵抗力というのがついた。毒蛇だったらしい。
じっくり理解を得ながら強さを模索していきたいので、ゲームシステムではこういった強化はレベルに応じた生き物でのみ起きるようになっている。いきなり強いものを取り込んでも効果がないし、レベルがあがってからは弱いものは記録はできても強くなることに寄与しない。先を急げば俺はきっと間違えてしまうだろう。まんべんなく、なるべく多くを学んでゆっくり進めたい。
そのためにもう一つチートをもらっている。レベル上限の自由設定だ。ただし、上げることはできても下げることはできない。今の俺はレベル1で固定してあるので、小動物から力を得続けることは可能だ。
ただし、数をこなせば単純に加算されるというわけにはいかない。その点は駄女神に釘をさされた。同じ蛇を十匹倒せばそれなりに強くなると思うが、千匹倒してももう成長はない。なるべく多様な弱い生き物を、ほどほど倒してからレベル2に上限を設定しなおすのが賢いと思う。
さて、それとは別に生き物として腹は減る。俺は蛇の死体を見下ろした。これは食えるのだろうか。
結局その時は蛇は食べずに地面に埋めてしまった。だが、いずれそうしないといけないときがくるだろう。