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七話

毎週水曜日投稿、という投稿頻度を定着出来たらな、と思っています。

 廻は怜於の手を振りほどき、ザッ、と足音を響かせて柱の陰から出る。

「ちょっ…」

 怜於の微かな声より先に、二人の男が びくりと反応した。明らかに警戒し、こちらに身構えている。

「誰だ!」

「…け、警察か!」

 アタッシュケースを持つ一人は警戒の色を強め、辺りを見回しつつ、こちらを窺っている。警察に包囲されたとでも思っているのだろうか。対してもう一人は、明らかに動揺し、狼狽している。

「…僕は警察じゃない。でも、何をやってたか教えて」

「…凡夫に話す義理はない」

 静かに落ち着いて答えたのは、やはりアタッシュケースの男だった。だが、その男の様子に困惑したのか、もう一人の男がさらに喚く。

「おい馬鹿!見られたんだぞ!始末しなきゃ…!」

「黙れ」

 落ち着かない男を手で制止し、廻の前に歩いていく。近づくにつれ、その男のガタイの良さが分かってくる。かといって、決して鈍重な印象を与えるものではない。筋骨隆々、という感じだ。

 男が一歩近づくごとに、、廻も体を強張らせる。両者の間に走った緊張を見て、怜於は流石に傍観していられなくなった。ともすれば震えそうな足を叱りつけ、一歩踏み出す。

「なっ、何なんですか」

 言ってしまってから、まずいなと気付く。相手も、かなり怪しいことをしていただけであって、別にこちらに何も危害を及ぼすことはしていないのだ。むしろ、「何をやってたか教えて」などと、何の権利も無いのに口をはさんだのは自分たちだ。この場合だけで言うならば、自分たちが不審者なのだ。

 …静寂に響く自分の心臓の鼓動を、かなり長い時間聞いていた気がする。…いや、実際は数秒にも満たなかったはずだ。廻は振り向き、不思議そうな、それでいて微かな喜び、驚きの感情を混ぜたような顔を見せ、

「…怜於?」

 と呟く。その表情に違和感を感じながらも、その上に聞こえてくる声に身を強張らせる。

「…若さ故、か」

 見ると、男はアタッシュケースを置いて、こちらを静かに見ている。

「去れ、お前達。余計なことに首を突っ込むものじゃない…」

「…っ、でも」

「だが」

 廻が反論しようとするのを遮り、静かに声を発する。

「その正義感、見上げたもんだ」




「あー、緊張したぁ」

「…ちょっと待ってよ」

 地下駐車場から無事に出て、肩の力を抜く廻と、まだ緊張が解れない怜於は自転車から一旦下りた。

「ねぇ廻、お前なんであの場面で突っ込んでいったわけ?めちゃくちゃヒヤッとしたんだけど」

「…ごめんごめん、歯止めが効かなくって」

「歯止めって…分からないなぁ。何で突っ込んでいったんだよ」

「何でって…。そりゃ、悪そうなところを見ちゃったからに決まってるでしょ」

「…」

 あっけからんと答える廻に、言葉が出なかった。自分は果たして、正義とか倫理とか、道理とかの為に、自らの身を投げ出すことができるだろうか。もっとも、あの場合は危険が確定したわけではなかったが。

「そんなことより、無事でよかったよ」

「…危機に陥れたのは廻、お前だけどな」

「…ごめん」

 沈黙が下りる。空を見上げると、いつの間にか星空が広がっている。


 結局あの後は、何事もなかったかのように帰されたのだった。冷徹な雰囲気に、一度は命の危機を感じたが、しかし暴力的なことに発展することもなかった。

 結局あれはなんだったのだろう、という思いと、まぁ無事で帰ってこられるのならば、あれは見なかったことにしようという思いが怜於の中で渦巻いている。

「…廻、あれは結局何だったと思う?」

 できるだけ、さり気なく聞いたつもりだったが、沈黙が下りていた中でのかなり唐突な質問になってしまい、不自然すぎて間抜けな感じになってしまった。が、廻は大して気にする素振りも見せず、

「ま、考えるだけ無駄だと思うよ。あれは結局、僕らの力でどうこうできる問題じゃなさそうだし」

「…廻の言う“正義”は?」

 言ってしまってから、またまずいと思った。もしも廻が自らの無力を嘆く心境にあるのならば、随分と鋭利な質問だったと思う。だが、どうやらそういうわけではないらしい。

「痛いことを言うね」

 と言いつつ、あまり辛そうではない。

「…時には弁えることも大事かな、って」

 身の程を、ということだろう。怜於はまた言葉もなかった。


 二人がさっきまで遊んでいたショッピングモールは、黒岡財閥という日本で一、二を争う大財閥が経営しているだけあって、駅前の一等地に鎮座している。それゆえに、怜於の地元でもとても有名な場所である。

「…それじゃ、またね」

 怜於は駅の前で廻を見送った。

「うん、また明日」

 手を振り、怜於は踵を返す。七時台なので、人通りはかなり多い…。

 それにしても、立っている人が多かった。

「おーい、怜於」

「どうした?」

 廻が走って怜於の元へ戻ってきた。

「電車、止まってるって」

「え、マジで?」

 電光掲示板を見ると、確かに《~間の電車に遅れが出ています》と書いている。どうやら、線路の設備故障らしい。

「どのくらいで復旧するかな?」

「…分からない。でも、一時間で直るものじゃなさそう。だって、ほら」

 廻が指差すのは、電光掲示板の隣、改札の隣に置いてあるボード。そこにはペンで、《六時半から遅れが出ています》と書いてあった。

「…遅れ出たの、ついさっきじゃん」

「結構な不運だね」

 廻は嘆くよりかは、呆れるようにためいきを漏らす。

「どうする?(ここ)で待つ?」

 一時間もの間、待つ?と訊いたが、それ以外に法があるか、と問われれば非常に頼りない。どこか別の場所を探すにしても、駅前の店はこの時間帯、大体混んでいるし、ゆっくり出来る場所など存在しない。流石に今日中で復旧する…と仮定すると、泊まりというのは現実的な判断ではない。

「駅の広場あたりで待とうかな。あそこなら混んでることもないだろうし、座る場所もある」

「いいね、それ」

「…怜於も来るの?」

 …確かに、今までの会話の流れだと一緒に待つ、的なニュアンスを感じさせてしまう。が、別にそれが嫌なわけでもないし、廻を一人だけ置いて行くと、なんだか薄情な気がした。数世紀前から変わらず、交通の支障はいつ復旧するのか全く目途が立たないので、とても不安になるのだ。それは、普段電車通学の怜於にも分かる。

「…行こうかな。ずっと一緒に待てるかは分からないけど」

「…ありがとう」

 廻の素直な笑顔に、自然と怜於の顔も綻んだ。


「星、綺麗だね」

「…そうだね」

 あれから三十分経っただろうか。一時間で復旧する、とアナウンスで流れていた情報は《復旧予定時刻は午後十一時三十分となっています》という電光掲示板の情報に上書きされた。

途方に暮れたような表情で、見る目を変えれば見惚れるような表情で、廻は空を見上げている。怜於も、「じゃ、あと四時間頑張ってね」とその場を颯爽と去る勇気はない。

「親に連絡は?」

 ここまで待つのなら、親に連絡を取って迎えに来てもらうのが一番早いだろう。いくら家まで遠いとはいえ、流石に親だって断らないだろう。と思って言ったが、

「…出来ないよ」

 と、暗い答えが帰ってきたのには、少し驚いた。

「…どういうこと?」

「色々あるんだよ。…怜於、ずっとここで待つつもり?」

 これには即答できかねた。聞かれる前からも、結構な間考えているが納得できる答えは出てこない。

「…どっちがいい?」

 また、まずいことを言ってしまった。この場合に廻に問いかけてしまえば―

「いや、いいよ。ずっと待ってるのも辛いでしょ。早く帰らないと親が心配するよ?…僕は大丈夫だから」

 言われてしまった。これを言われてしまえば、出来ることは一つしかなくなる。

「…分かった、また明日ね」

 後悔が残るが、こう言う他ない。

「…うん」

 もどかしい気持ちを抑えて、駅の広間を後にした。


後で統合すると思いますが、今はこれくらいの文字数で。

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