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三十六話

日ノ本内乱~破~


開幕。

 俺は安谷(やすたに)真治(しんじ)だ。別段優れたところも面白いところもない。あるのは、部下たちからの信頼と金、人脈くらいかな?


 齢40にして、地元で暗躍してた奴らに取り入り、内から壊してやった。あいつらの所為で、地元の金が、利潤が全て他に流れてしまっていたんだ。奴らが壊滅してから、俺の地元では金廻りが良くなった。中間搾取をしてたあいつらが諸悪の根源だったってわけだ。その上、そいつらを倒した俺が英雄(ヒーロー)になったわけだ。当時は表立って騒ぐわけにもいかなかったが、地元のお偉いさんから遠回しに感謝されたり、事情を知ってる他所の連中から畏怖の視線を向けられたり、色々と気分が良かった。


 だが、俺の才能もそこ止まりだった。結局世の中、才能と運が最終的に吉凶禍福を占うらしい。なまじ成功を見てしまった俺は、半端者になる道を避け、理想を追い求め過ぎた。結果的にまともな職に就く契機を失った。


 その時、俺は相当焦っていたのだろうな。当時俺が持っていたのは、過去の名声だけだった。…少なくとも、そう感じていた。それを十二分に生かせる、“楽”な道を選んだ。



 結果、今俺は泥船に乗っているっちゅーわけだ。全く、人の因果っていうのはどこで廻るのか、不思議なものだ。


「真治さん、これが“橘”様からの紙です。差出人の名前は聞いたことがありませんが」


 部下の一人が丁寧に差し出してくる。


 俺もそっち(・・・)の才能は少なからずあったようで、アウト(グレー)ゾーンを綱渡りする組織に身を置き、今では実質的な棟梁(リーダー)となっている。尤も、それほど大きな組織ではない。全国を俯瞰すれば、俺の組織より大きな裏組織なんて、()は下らない。


「…ん」


 この紙の内容は、予め聞いてある。リークってやつだな。


 今、日本全国の地理的要衝で武力蜂起、衝突が起きている。未曽有…と言いたいところだが、なんでも聞くところによると、決してそう言い切ることは出来ないそうだ。


「…」


 実は、まだこの決断は出来ていない。理由は簡単。


「橘への加勢…ですか」


 諾と言えば、負け戦へと参加させられることになるからだ。


 橘通運…嘗てはそういう名で、裏と表を繋ぐ役割を果たしていた巨大な組織。勿論それは俺の組織も例外ではない。あの巨大な地理的、人脈的なパイプを如何に利用していくかが、日本の影で上手く生きていく為の指針だったといっても過言ではない。


 俺は、この武力蜂起の事について予め知っていた。だが、その種の虚言癖なんて、そこら辺にゴロゴロいるものだ。安易に信じてはいけない情報として、まともに取り合わなかった。のが、仇となったらしい。もしもそれを信じていれば、遠回しかつ強く諫めたのに。


 今、影で生きていくしかない俺に残された選択肢は二つ。諾、そして一発逆転の革命を狙う。否、橘の太いパイプを失った日本の裏社会で覇権を狙う。


 橘というのは、偉大な存在だった。一体、何があの巨大な組織を生み出したのかは知らないが、とにかくデカい存在だ。これを失えば、俺たちの組織だってまともに立ち行かない。覇権を狙うどころか、各地で乱立した小組織の群雄割拠の時代が始まってしまうかもしれない。太古の昔、十一年にわたって刀槍の戦乱が起こり、その後百年間の乱世が始まったように。


 或いは―。


 その内に俺らまで壊滅するのは避けたい。


 それなら、面白くなりそうな方を選ぶまで。



―――――




「妙です」


 靡姫


「何がだ」


「数日前よりも広範囲で、武力蜂起が頻発しています。小隊規模の蜂起も含めれば大変な数になりますよ」


「…関係ないな。中隊以上は」


「…まだ数が不明瞭な件も多いですが、多少多く見積れば、全国で二百を超えます」


 不羈は何も言わない。


「由々しき事態ですよ」


「…ああ」


 靡姫は不羈の顔を覗き込む。皺の深く刻まれた顔に、英雄の色など微塵も感じられない。どこにでもいる典型的な老害、とラベリングされた方がしっくり来る。それにしては多少年を食っているか。


「…今、陸軍の殆どの戦力をかき集めてる状態です。各地に戦力を散らされてるので、かなり戦い辛いです。橘の方も情報伝達能力が非常に高く、各個撃破を狙っているつもりが、我々を妨害する勢力がいつも現れてしまいます。そのせいで、未だに鎮圧が殆ど進んでいないのが現状。大巌の方で極秘の軍事行動を起こそうとしていますが、これも色々な事情で上手く行っていません」


「内通者か」


 靡姫は躊躇いなく頷いた。自らの戦術眼には自信がある。そして、日本の軍隊の質にも、自信がある。これほど後手を取り、これほどの劣勢を現出している理由は、それ以外に考えられないと判断した。それも、生半可な地位のものではない。外部からの工作員という可能性は、流石に排除している。


「上層部が怪しいです。私の方でも、上層部の身分を一人一人洗っているところです」


「そうか、頼んだ」


 不羈は言葉少なに言った。だが、数瞬置いて、躊躇いがちに口を開いた。


「…一人、重点的に洗ってほしい人物がいる」


 日日不羈。異名は、人相見(オブザーバー)。その眼は、未だに衰えを知らない。



―――――



 先月の話だったか。それとも、先々月からあった話だったか。最近の激務でそこら辺の記憶は曖昧になりがちだ。



「それは、信用できるのか?」


「…恐らく」


 煉與の問いに対する新悟の返事も、決して断定的なものではない。


―ああ、新悟と会話しているということは、これはもう少し最近の話かもしれないな。ともかく、この話題はかなり前から耳に入っていた。


「…なんとも、キナ臭い。その情報(それ)が本当だとしても、だ」


 様々な可能性が煉與の脳内を去来する。その情報源(内通者)が、流石に信じがたい。だが、逆にこれほど信じがたい名前で虚報を流すのは軍の策略としてはお粗末過ぎる。


「まあ、頭の片隅に置いておこう。返答は濁しておけ」


 そんな事を言ったような、言っていないような。





 結果的に、それは今のところ橘にとって有利に働いている。


 敵の数と目標、もはや逐一と言っていいほどの頻度で情報が送られてくる。初日の奇襲の際、内通者が的確な情報を送ってきたことで、煉與はそれを最大限利用することを決心することになった。


「いつか言っただろう、俺がこうすると」


「…何のことですか?」


「いや、こっちの話だ」


 煉與の予想を遙かに超える割合の反社集団が武装蜂起してくれている。橘の影響力が及ばない地域においても蜂起する勢力があり、今のところ橘にとって有利な展開が続いている。


「民間への被害も最小限に抑えられている。…勿論、東京での事故を不慮とするならば」


「…ええ」


 そうだ。大阪での集団事故も、予め想定内の被害ではあるのだ。あれほどの大都市で武力蜂起を図る以上、あれくらいの犠牲は計算内…。


 そう。橘の皆()、煉與の意志を良く汲んでくれている。これはあくまでクーデター。虐殺、略奪の場ではない。



 今、全国各地で無法者達が武器を取った。


 それは日ノ本内乱、第二幕の狼煙に他ならない。

代表作よりも投稿頻度が高い作品があるってマジ?

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