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三十五話

はい、昨日の向日葵投稿の時に書いたようにこの星花煌々は木曜投稿にします。

不都合が出てきてしまった。

三十五話



 心臓の音と、壁の向こう側からの僅かな音が聞こえる。薄暗い空間ではあるが、少し曲がり角から顔を出してみると、どこからか零れた光が確認できる。


「…誰かいるね」


「怜於は行かないの?」


「いやぁ…」


 痛いところをついてきた。顔を出してみたのは晴海なのだ。そして怜於は、晴海が角から顔を出している後ろで、後方確認と称して何もしていない。


 そもそも、ここは何処なんだという疑問はある。得体のしれない建物のシャッターを勝手(・・)に開け、得体のしれない階段を下って行った。さっきから怜於の足を引き摺っているのは、その後ろめたさの他ない。


「別に急ぐ必要もないし、慎重に行った方がいいんじゃない?…まあ、怖気ついてるのは否定しないけどさ」


 流石に晴海の後ろでウジウジしているのは恰好が悪すぎる。怜於も壁からひょっこり顔を出してみようとした、その時。


「え」


 サッと、晴海が顔を壁から隠すのと同時に、曲がり側の向こう側で物音がした。


「あ」


 すれ違うように、怜於の頭が曲がり角から飛び出る。


 どうやら物音は、ドアが開く音だったらしい。それに気付いたのは、曲がり角の向こう側、扉を開けた女性と目が合った後だった。


 要するに、最悪の出会い頭とでも言おうか。


「っ、誰だ!」


「!」


 怜於は慌てて顔を引っ込めたが、もう遅い。晴海の顔に危機感は見られないが、焦っているのは手に取るようにわかる。


「ご、ごめん、やっちゃった」


「いい、どうする?」


 進退両難。曲がり角の奥でざわめきが起こり、いくつか足音が近付いてくる。




*****




「今朝方、大阪の上空に飛行物体が現れた」


 一座は静まり返っている。


 それらを見渡し、煉與は続けた。


「諸君も知っているだろうが、我々の防空システムは正式な軍のそれよりも遙かに劣るものだ。それ故に、今回の領空侵犯を許すことになってしまった」


 誰も発言しない。煉與はこういうとき、誰かに話を振るのだが、その最適任たる新悟はこの場にいない。


「このままなら、正直言って力負けする。そも、物量で押し切られたら敗北するしかない」


 微かに頷く者もいる。満座、それは先刻承知だからこその沈黙なのだ。誰しも、“勝てる”とは思っていない。だが、それでも、


「だが、それでも、勝つぞ」


 一座の表情に変化は見られない。


「元より、戦とは血と涙の流し合いだ」


 うち、数人が反応を見せた。声は出さない。


「…全国規模での蜂起をした我々は、既に修羅の道を歩み始めている。引き返すことは出来ない。ただ、進むだけだ」


 ああ、自分は幸せ者だ。


 煉與は、心の内が沁みわたるようにそう思った。一座の反応は“沈黙”。その反応に反し、煉與には彼らの思っていることが全て分かる。何せ、長い付き合いだ。絶望と怨恨、陽関、感動、歓喜、不信、失望、決起。その全てを彼ら、或いは彼らの父母と共にしてきた。


 肯定(・・)


「使えるものは全て使う。皆、頼むぞ」


 賽に祈りを。



 この戦いは、次の段階(ラウンド)へと進む。





*****






「東京都は制圧するまでもなく、中央から西部にかけては敵拠点にはなり得ない。戦略的な価値の観点からすれば、空白地帯同然だ」


 大巌(おおいわ)山砥(やまと)、日本国陸軍の“大将”を冠する男。


「そして首都圏、ここはまだ我々の勢力圏。防空システムは既に機能し始めた。だが、橘の奇襲によって一部の防空システムが駄目になっていたり、防衛拠点が破壊されてしまっていたりしている。これで防空ネットワークに綻びが生まれてしまうのは避けたい。今のところ、百里や熊谷方面からの援護で箱根での一斉蜂起に対応しているが、同時進行(マルチタスク)で旧真桜大学敷地の警備、治安維持を行わないといけないからかなり疲弊しているのが実情」


 鬮目はその話を、コーヒーを飲みながら聞いている。


「東北、これは問題ないな。奴らの勢力圏からは遠く、初日の蜂起以降は耳新しい話は入ってこない。千歳や函館を攻撃対象にするには、日本海の制海権が必要だろう。その点、関東以北は安全とみていい。松島や三沢も同様、致命的な被害は免れた」


「なるほど」


「新発田はかなり辛いな。もとより橘の勢力が強い範囲。増援を出したいが、ひとまずは後回しが良い。能登もかなり被害を受けた。舞鶴が陥ちた今、能登と新発田を獲られれば日本海の制海権や制空権が脅かされる」


「で」


「だが、奴らもそんなに暇ではないはずだ。北に戦力を集中させるのは愚策だろうからな。東海道の防衛線も万全。ほぼ無傷の場所も多い。だが、奴らにとっては咽喉の地。どこかで奴らが優勢に立てば、攻撃が激しくなる可能性も考えられ、防衛を強化している」


「はん」


「だが、関西は壊滅的だ。奈良は徹底的にやられてるし、串本も大変なことになってる。岸和田なんかは奴らの掌中になってしまった」


「…本拠だからな、徹底的だろう」


「関西に残る勢力といえば、伊勢湾艦隊くらいだ。これも打撃を受けてるし、正直辛い。陸軍基地も悉く蹂躙されてしまった」


「この流れだと、次は瀬戸内」


「明察。瀬戸内の被害も大きい。呉や高松を皮切りに、広島、松山神戸も大打撃。瀬戸内の制海権は実質(あっち)のもんさ」


「…やっちまったな」


「山陰や土佐清水は大丈夫だ。だが、山陰や四万十以西なんかはもとより橘が強い。山口も、歴史的に橘との繋がりが強いから徹底的に潰されてる。北九州が出張って、ようやくこっちに分がある程度。沖縄の旧米軍なんかは酷い損害らしいな。一部の拠点は橘が占拠しているようだ」


「原因、言ってみろ」


  大巌はあからさまに嫌な顔をした。だが、その不快を音にはしない。


「まあ、お前は言いたくないわな」


 含み笑いを湛え、鬮目は勿体ぶる口調でそれを口にした。当然、大巌にとって心地よい話ではない。


「橘にありとあらゆる(・・・・・・・)情報が漏れちゃってるなんて…ね。俺も信じられねぇわ」


「不甲斐ない…」


「まあ、あらゆる不利な機密が全て敵に洩れるなんて余程の事だ。軍の内部に裏切者がいるとしたら、将校でさえ知らされない機密が漏れてることや、軍事に関係ないトップシークレットが漏れていないことに説明がつかない。橘側からの、腕利きのスパイが暗躍しているのだろう」


 今、軍の上層はそれで割れているのだ。外部のスパイの存在が確かとすれば、まずはその排除から始めなければならない。


 物量で勝っていても、戦略がどれほど的確でも、これほどまでに露骨に情報が流れてしまっては主導権はいつまでも“橘”にあるままだ。


「…文書という文書の悉くを、我々が日々強化している監視網を搔い潜って抜き出せるスパイ、ですか」


「あらゆる可能性を考慮すべきだろう?軍人」


「生憎、我々の生業では合理性が求められてきたもので」


 丁寧口調の憎まれ口も、鬮目は「そうかそうか」と軽く流した。


「…ところで」


 鬮目は、一枚の紙を懐から取り出した。


「聞いたか、お前は」


「…いや、特に何も」


 老眼の大巌は、目を凝らしてその紙をまじまじと“観察”する。


「…!こ、これは」


「本当の話さ。確かな消息筋からの情報」


「…だが、どれほどのことなのだ?」


 橘が切った切り札。


 各地の反社会因子の扇動。




―元々“橘”は、運送業を営む会社として、裏で繋がる各地の反社因子を繋ぐ役割を担ってきた。その歴史は相当に深いが、現在の形となったのはそう昔の話ではない。一部の層では知られていた“橘”が表の世界から姿を消したと思えば、すでにその時には裏の世界を牛耳るほどの力を得ていた。


「表の世界ばっかりに目を向けてると、イマイチ実感は湧かないかもしれないな。だが、橘が台頭して以降、もとより勢力を増していた裏の勢力が急速に伸長している。何も、その全てが橘と関わりがあるわけではないし、橘の傘下にあるわけでもない。だが、その反社の気風に当てられて、動き出す勢力も少なくはないはず。もし、もしだ」


 鬮目はその紙を燃やしながら語った。


「…その全勢力が橘に呼応し、一つの場所に集結―あり得ないが―すれば、一個師団にも匹敵する。人を殺す権謀術数に日々親しんでいる者達、かつ民間への被害を顧みない狂集団。しかも、そいつらに我々の情報は現状筒抜けになってしまっている」


「…良い、時期に切り札を切ったな」


 大巌は溜息を吐いた。

いやマジで。

時間と行動力があったら自衛隊か地政学の有識者の講義を聞きたい。

もう誤魔化すの限界になってきたぞ。

“今とは状況違うんでw戦略的重要度とかも違うんでw”とか、そういう薄っぺらい逃げ方するしかなくなるんだって。

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