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三十話

暑い。

「廻くん、今日の放課後空いてる?」

「ん…あー、ちょっとなら」

「じゃ、ちょっと話しながら帰ろうよ」

「途中までだけどね」

 廻がいそいそと帰り支度を再開するのを見て、音緒は小さく微笑んだ。床に落ちていたペンを拾い上げ、渡す。

「廻くん、これ」

「ありがとう」

「…手、どうしたの?」

 廻は忙しなく動かしている右手と、ぎこちなく動かしている左腕を止めた。

「何事もなかったみたいに学校来たけど」

「実際何事も無かったようなものじゃん」

「それでもさ、廻にとっては絶対に取り返しのつかないモノを失ったわけじゃん」

「別に」

 思わず廻の表情を見る。

「…気にしてもさ、どうしようもないじゃん」

「そっか」

 屈託ないを浮かべる廻。

「じゃ、僕用事あるから」

「ん。また明日ね」

 廻は足早にその場を去った。

「あの顔…ね」

 溜息をついて、窓の外を見た。

「…なんだろ、烏かな」

 黒い影が、重低音を撒き散らしながら夕焼け空を飛んでいた。

 直後、地球が二つに割れた。

 程の錯覚を伴い、脳が殴り飛ばされた。



「っ!」

 思わず耳を塞ぎ、態勢を低くした。

 自分にこれほどの防衛本能があったのか、と感嘆するくらいの心の余裕はあった。

「何…?」

 脳がカチ割られた、と思ったが、どうやらまだ生きているようだ。自分の声は殆ど聞こえなくなったが、多分後で治るだろう。

「何…?」

 思わず、虚心に再び唱える。その答えは、薄々気付いていた。

 と、ここで自分が目を瞑っていたことに気付いた。

 恐る恐る、両目を開く。

「うわぁ…」

 本がこれでもかと言うほど敷き詰められている広報部の部室は、案の定というべきか、地獄の様相を呈していた。あちこちに本の山ができ、少なくとも三つの本棚が倒れている。

 寧音は溜息をついた。

「…怜於さんと廻さんに頼みましょうか」

 自分で片付けるという選択肢はそもそも存在し得ない。


 この学校に何が起きたか、既に想像はできていた。

 大阪での惨状を見るに、遅かれ早かれ他の大都市にも“橘”の手が伸びるのは容易に想像できる。

―それが、今起きただけだ。


 寧音は溜息をついて、なるべく本を踏まないように部室を出た。

「えっ…」

 今までは、辛うじて冷静さを保っていた。

 早い段階で来るだろうな、と思っていた“大地震”が起きただけだと思っていた。


 だが、その“大地震(災禍)”の具体的な規模までは想像できていなかったのだと思い知った。まだはっきりしない視界に、処理しきれない情報が激流を成して流れ込んでくる。

 拉げた天井、瓦礫の山、あちこちに光るガラス片。教室の形をギリギリ保っている何か。

 走り寄る人影。

「寧音⁉」

 彼が自分をそう呼んだのかすら、聞こえなかった。

 でも、一人じゃなかった。

 そう安心した途端に、意識は覚醒した。

「彰くん…⁉」

「寧音!来てたのか!」

 これもまた聞き取り難い声だったが、雰囲気で意味は理解できた。部室の入口と彰を分断するように散らかった瓦礫を見て逡巡しつつ、彼は大きく迂回して寧音の許に向かってきた。

「あ、彰くん、そこにいて…私がそっち行く」

 寧音の小さな声など気にも留めず、彰は頑張って寧音の隣まで辿り着いた。

「…地震かな」

「いや…あれほどの爆音ですから…。私は“橘”が攻撃してきたのかと思いました」

「あぁ…成程ね」

 寧音はようやく周りを確認する冷静さを取り戻した。

「…ところで寧音、学校来てたんだ」

「今その話は…」

 しないで欲しい。

 今更その話を蒸し返されても、後味が悪いだけだ。


大阪から帰った後、寧音は暫くまともな思考をすることが出来なくなっていた。


 自分一人の好奇心によって、広報部(みんな)に迷惑をかけてしまった。

 それだけではない。


テレビを見て気付いた。政府に宣戦をした反社組織が学生の人質を取った。これだけも由々しき事態だし、この“内戦”をややこしくしている一因となってしまっている。


それに、国民一人一人に知らされる情報というのは“学生が人質に取られた”というだけだ。

寧音がどういう経緯で“人質”のように扱われてしまっていたのかは知らされていないし、知らされることはこれからも無いだろう。


国民に植えつけられるのは恐怖の感情。


無垢な子供さえも躊躇なく人質に取る無法集団が戦車を引っ提げて政府に宣戦しているのだ。


“橘”の本来の性格を寧音が考えるに、彼らは決して、人質など陰湿な手段は取らないだろう。


―もしかしたら、この国で起きている悪夢(こと)に自分が深く関わっているのかもしれない。


 そう考えてしまうと、とてもではないが学校に来れるものではなかった。


 それでも、それを家族に話しても頑なに「考え過ぎ」という答えしか返ってこない。

 自分はどうするべきか。


 結局授業には出席できなかったが、廻さえ学校に行くというのに自分一人が家に引きこもっているわけにはいかない。

 目的もなく部室で時間を潰していただけだ。


「ま、いいけど。言いたくないなら」

 彰は口を尖らせる真似をして、それから笑った。

「とりあえず、この学校から脱出したいわけだけど…偶然、この部室の周りだけは酷い損害を受けずに済んだっぽいね」

「…彰くんはどこにいたんですか?」

「偶然そこ歩いてただけだよ。…偶然に偶然が重なってるね。一歩間違えてたら今頃俺は瓦礫の下敷き。不思議なもんだよ」

 話している内容とは対照的な笑顔を浮かべて、朗らかに話している。

「…部室の中も、本棚が倒れただけであまり大きな損害はありませんでした」

「マジで?ちょっと見ていい?」

 建付けが悪くなったドアを無理やり開け、中の様子を伺う。

「ははぁ…これは後片付け大変だね」

「後輩たちにやってもらいます」

「可哀そうな後輩達」

「…で、どうでしょうか。かなり密閉された部屋なので、そこから外に出るのは…」

「寧音」

 ちょいちょい、と部室に入った彰が手招きする。

「これ」

「…何ですか、これ」

 床が綺麗に陥没している。

「俺ら、運が良い」

「…本当に」

 陥没して出来た穴に、光が見える。外の光だ。

「狭いけど、行けるよね」

 彰は狭い穴に自分の体を捻じ込み、地面に足をつけることが出来た。

「ほら」

 穴を通して、彰は寧音に手を差し出した。




「やってくれたなぁ…随分と派手に」

「溜息は戦いが終わってから、お願いします」

 生ける伝説とは言え、九十は既に超えた不羈が陸上戦の|最前線《フロントライン」で出来ることは少ない。今もこうして、突貫工事で建てられた基地で寛いでいるだけだ。

「先程も説明しましたが、また最新情報が入りましたので」

 テーブル上のディスプレイに、大阪の地形図が展開される。

「随分と古風な方法だな…だが趣はある」

 満月を見上げながら、盃を口に持ってくる。が、すぐに口から離す。「あんま良いモンじゃねぇな」

 なら止めてください、と靡姫が盃を取り上げる。「軍紀を自分で乱さないでください」

「分かった分かった。じゃ、始めろ」

 小さく息を吐いたが、さして気にも留めず地図に目を向け、大阪をオレンジで塗り潰す。

「現在は既に、事実上大阪全域が“()”の勢力圏です」

「まぁな」

「橘の戦力が突如として現れた大阪北部では建物の被害は少ないです。ただ、中心街では特保と警察部隊の出動がなまじ間に合ってしまい、市街戦により被害はかなり大きいです。なので、大阪南部の被害は大きいですね」

「あぁ、悲しいよ」

「で、これが新着の情報です」

 大阪にフォーカスしていた地図の虫眼鏡マークを弄り、日本全国を映し出す。

「…この赤色は?」

「随時情報が追加されるので、雑に赤く塗った結果です。“橘”の影響かどうか不鮮明なものも含め、重大な事件が発生した場所ですね」

「増えてないか?」

「まあ。通報が遅れていたものもありますし、処理が優先されて情報が来なかったのもあったようです。あと、単純に現在進行形であちこちが攻撃を受けています」

「…ざっと二十か所くらいあるか?」

「いえ。もっとですよ。この地図では小さすぎて見えない事例も少なくありません。規模が小さく、“橘”が原因と断定できない暴力行為を含めれば、百件は優に凌ぎます」

「…で、その対処はどうなってるんだ」

「要ります?その情報」

「要らないが、一応」

「現地の警察や特保が出動しているようですが、如何せん夜の時間帯ですし。各地でゲリラ式に蜂起されたら、彼らの手数では足りないでしょう。これからも増えていくことも予想できるので、戦力の温存も考えると苦しいでしょうね」

「…ふーむ」

 特段、深いことは考えていない。


 警察の連中がどう動こうがどうでもいい。

 ただ、警備が弱まったところを突かれて軍の足が引っ張られるのは苦しい。

「ま、どうにかなるだろう」

「なりますかね」

「まずは」

 錆ついたような自分の体が火照ってくるような感覚。

 音を立てながら錆が落ちていく。それが心地よかった。

「大阪の本拠(敵基地)に空爆部隊を向かわせる」

テスト勉強。パソコンに向かう。

一日終わり。

頻度上げたいけど無理。

半分くらいのボリュームにして頻度二倍にするか?


いや~、それだと文字数配分歪になるなぁ…

修正するのめんどいし。

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