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三話

全く、試験が近いっていうのに…

勉強時間と同じくらい色々書いてる自分がいます。


「帰ってくるまでに片づけてって言ってたと思いますけどね…」

 先ほどまでの剣幕が、ようやく落ち着いてきたらしい。

 あの剣幕、もう二度と聞きたくない。もう恐怖というか、そういう感情に飲み込まれてどんな風に怒られたのかも覚えていないくらいだ。

「じゃあ先輩もやってk…」

「止めろ、廻」

先輩に対してさらなる地雷を踏もうとする馬鹿を止める。頼んだところで先輩は手伝わないし、手伝ってもらったとして、終わるのが遅れるだけだ。

「大体昨日一日何やってたんですか?」

 普段にはない語気の強さが見られる。これはまだかなり苛立っている。

「定期試験で居残っていたんです」

 そう答えた廻に、怜於は「えっ?」と言って振り向いた。そんなはずはない、彼は昨日放課後すぐに部室に行ってソファに寝転がっていた。自分は定期試験の成績が芳しくなかったので三十分弱居残っていたのだが…

「…えっ、廻お前…昨日居残ってないじゃん…。」

「えっ」

「…え?」

自分のことなのに首をかしげている廻。その衝撃的な事実に怒りを忘れて廻を見返す寧音先輩。

「…私に嘘をついたのは見逃すとして、居残りを逃げるって…」

「やっぱり不味かったですかね」

「当たり前だって…」

「今日は何も言われなかったのですか?」

「うん…じゃなくてはい」

「え、だって居残りあったんでしょ?」

 怜於が訊く。それに対して廻は何事もなかったかのように、

「うん。やっぱりテスト勉強って大事だね。何にも分からなかったもん」

「はぁ…」

寧音先輩がため息をついた瞬間、部室のドアが開いた。

「廻…やっぱりここにいたのか。今日の放課前に催促しなかったのは優しさだったんだがな…」

「っ、それには深刻な事情が…」

 廻は、眉間にしわを寄せた光吉先生に連れていかれた。



「…!」

 女は、目が覚めた。夢の中で、計画の変更を考えなければならないような、重要事項を告げられたのだ。

「…聖樹の活動が、もはや活発になってきている?」

 急いで彼女は、計画書を見返す。

「計画を早めなければ…」

 彼女は、立ち上がった。



「きゃああ!」

夕方、東京都の真桜学校にて。

「何だ!?」

 真桜学校というのは、一本の巨大な“御神木”を中心とした環状の校舎を持っている。

 その御神木というのは人を惹きつける何かがあるらしく、校外からの観光客さえもやってくるほどだ。

 その大きく神秘的な姿は、美術の授業にもしばしば使われ、聖フェロメナ学院では、かなりの高頻度で学生がデッサンの練習やらなんやらを目的にやってくる。

「御神木が、御神木が!」

 生徒や教師までもが、先ほどまで寄りかかったり、デッサンを取っていたりしていた御神木を遠巻きにして窺っている。既に、数人の生徒は素早く逃げ出し、校舎内に入ってしまっている。

 御神木が、燃えているのだ。

「誰か水を!」

「消防車を呼べ!」

「避難しろ!」

 そんな声があちこちから上がり、ぎゃあぎゃあと喧騒が聞こえる。

「池から水を引いてきたぞ!」

「火を消せぇー!」

 水の入った桶や、消火器を引っ張ってきて燃える大木にかけている。が、一向に火は静まらない。むしろ、時が経つにつれ、火の勢いはごうごうと強まってきている。

「…畜生!」

 物凄い剣幕で校舎から出てきたのは、真桜学校の校長、小菅(こすげ)通泰(みちやす)である。六十は過ぎているはずだが、この激しい剣幕はとても六十の老いを感じさせない。

「我らが神木を奪いおって…!」

「おやめください校長!危険です!」

 燃え盛る大樹に走りだそうという校長を必死に止める側近。それでも校長の感情は静まらず、

「己ぇっ!火よ止まれっ!」

校長の虚しい叫び声が、赤い炎と夕焼けが混ざり合う空に響いていった…。




…豪華絢爛な、女の部屋にて。

「お伝えいたします!真桜学園運営部より速報です!」

「…何だ」

「真桜学校の“御神木”が火事に見舞われているとのこと!先ほど消防隊が到着し、急ぎ消火に当たっているということです!」

「…何だって?」

 尋常でない焦りが顔に出ている使用人とは違い、女の顔は眉をピクリと動かしただけに過ぎない。

「…火の勢いは」

「それが、とても強いらしく…運よく消化できても、被害はかなり大きいものになりそうとの情報です」

「…そうか…。()だ」

 彼女の眼差しは、沈もうとする太陽に向けられていた。





「聖樹が燃えた?」

「…まだ聖樹と確定していたわけではないが…少なくとも、日本(ジャパン)にある聖樹の筆頭候補が焼け落ちたことは確定事項だ」

 広いライブ会場を優に凌ぐ、広い研究室に沈黙が下りた。各国の研究者、学者、中枢人物が集まる場所である。

「何の前触れもなく焼け落ちたとは…聖樹(メシア)の力によるものか?」

 周りより一段高い場所に、ぽつりと置かれた椅子に座る男が言う。

「…そう考えるのが自然かと思われますが…しかしそう断定するのは早計かと…ウェッジウッド・アルバート研究所長」

 日本の研究員の一人、赤井翔馬(あかいしょうま)が流暢な英語で答える。

「…もし、その木に“聖樹”が宿っていたとしたら、“聖樹”(メシア)はどうなるんだ?よもや消滅はしないと思うが…」

「ええ。消滅の可能性はほぼゼロに等しいかと。ですが、聖樹(メシア)が空気中に放出された場合の試算結果によると、暴走、転移、滞留の三つが主な可能性となるみたいです。現地の情報から察するに、暴走の可能性は既に無いかと」

「…滞留していた場合を考えれば、我々のチームも派遣しておいた方が良さそうですな」

 赤井の発言に、実行部長であるギルバート・リーが提案する。

「分かった。ではリー、その件は頼んだ。残った者は、聖樹(メシア)の転移先として有力な候補を探そう。転移したのも近くかもしれん。アジア、西太平洋を重点的に探すぞ」

「「Certainly(承知)!」」






「行っちゃいましたね…」

「そうですね…これであいつも懲りて反省して、心を入れ替えてくれるといいんですけど」

 廻にも、尊敬できる点は多くある。だが、どうしてもふわふわとした態度だけは見習うことができない。あれさえ改善できれば、優秀な人なのに。と、怜於は思う。

「…そういえば、今回の遠征の結果って…」

 怜於がそう訊こうとした瞬間。

「大変だ!」

と、廻が必死の形相で広報部室に飛び込んできた。

「落ち着け!」

「…どうしたんですか?落ち着いてください」

反射で落ち着け!と怒鳴った怜於と、眉間にしわを寄せながらも冷静に落ち着いて、と言った寧音先輩とでは、中々対応力に差があるようだ。廻は落ち着かず、興奮したままに叫ぶ。

「落ち着いてらんないよ!御神木が燃えたんだ!」





「昨日は、非常に大きな事件が起きました。昨日のニュースでもずっとやっていたので知らない人はいないと思いますが…」

 光吉先生が、いつもの生気漲る表情からはとても想像できない沈痛な表情で‘重大発表’を行う。その雰囲気の中で、無駄話をしている生徒は一人もいない。

「昨日夕方…、真桜学校で“御神木”が…火災に遭い、全焼…、してしまいました」

 努めて冷静に話そうとしてはいるが、全然動揺を隠しきれていない。静まり返った教室に響く震えた声が、彼の心情を雄弁に語っている。

「知ってるよ、そんなの」

 いつの間にか光吉先生の啜り泣きの声まで含んでいた教室の静寂に、廻の声が響いた。

「そんなことより、早く授業始めようよ。知ってることに改めて涙流すの、無駄でしょ?ほら、一時間目数学なんだから、早く授業始めよ」

「…え」

怜於はびっくりして廻を見るが、廻はただ単に、光吉先生をまっすぐに見つめている。

「廻、ちょっとは遠慮しろよ」

 学年全体で見ても男子のカースト最上位に君臨する、神田倫成(かんだみちなり)が廻を注意する。が、それには目もくれずに、揺るがぬ眼差しを光吉先生に向けている。

 思えば、ちょっとHRを引き延ばしただけで少し可哀そうではある。

…暫くの静寂が続いたのち、ぽつりと光吉先生が声を発する。

「…じゃあ、数学の授業始めましょうか」

いつになく、元気がない声だった。


登場人物の中身と、その名前が一致しない時が時々あります。

こいつの苗字、なんだっけ?とか。

普段登場人物が名前でしか呼ばないときなんかは、よく忘れます。

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