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二十七話

風邪ひきながらの投稿です。

 戦線は膠着した。


 大阪一帯を“橘”が制圧した後、政府は現地の軍を動員し、大阪をぐるりと包囲するように、数珠のような拠点の数々を構えた。

 その動員数は、大阪に陣取る“橘”の戦闘員数を遙かに上回る。


 だが反面、大阪にある交通の要衝は既に制圧されており、その包囲の効果は心もとない。

 その上、大阪にはたくさんの市民が未だ留まっており、無暗な攻撃を仕掛けることは、政府軍にも出来なかった。



「“参謀本部長”、先制攻撃の許可が下りました」

「ああ」

 大阪の包囲を全面的に統制し、実質的な“総司令官”とも言える立場になったこの男。

「…だが、良いのか?大阪には数多の市民がいる。今攻撃を仕掛ければ、奴らは進軍の邪魔になりうるだろ」

 “日日(たちごり)不羈ふき”、日本軍参謀本部長。

 今の日本軍において、陸海空軍に跨って影響力を持つ唯一の軍事機関であり、その長である。

 無論、その職に就く彼の実績は生半可な物ではない。

 今巷間騒がれている橘煉與…もとい岩上空の罪状は“内乱罪”である。この罪(これ)が適用されるのは、世間の知りうる限り、日本では二例目である。

 一例目の内乱については、時の埃によって記憶は霞んできてしまっているものの、その終結は多くの人の知るところとなっている。


―その終結に最も殊勲のある者はと問えば、大抵の者は“日日不羈”の名を挙げる。


 それほどの人物だ。今回の“内乱”でも、ゲン担ぎのつもりなのか彼を“司令官”として異例の現地派遣を行った。


「詳しくは聞いていません…正直、今の状況のままでは攻略は厳しいでしょう」

「重戦力を進出させられないからな」

 躊躇いつつ、90代の豪傑の傍に立つにはとても不似合いな、若い女性が応える。

「…市民の犠牲も大きいでしょうし」

「何か…言ったか」

「いえ」

 (ゆずりは)靡姫(まき)。参謀本部の直接指揮下に置かれる唯一の武装組織である“特別機動隊”の司令官。

 若いものの才気に溢れ、それが不羈に気に入られ、わざわざ特別機動隊に呼び寄せ、司令官とした。

「靡姫、戦いとは遊びじゃないんだ。綺麗事の連続でもない。道理の上に成り立った虚構ですらない。いかなる名将が組んだ戦でも、下級卒は乱れ、いかなる厳しい軍紀があったとしても、引き際では乱れるのが軍、そして戦だ。…市民の犠牲などいちいち気にしていれば、向こうが強行突破を図ってきたときに敗北するのは我々だぞ」

「…分かっています」

 その話は聞き飽きた。

「…ところで、なぜこのタイミングで許可が下りたか、分かるか」

「え…何故でしょう」

 特に興味は無いが、聞き返しておく。

「“橘”には歴史があってな…」



「待て」

 もはや心地よく聞こえてきた不羈の昔話に水を差したのは、ピシャリとした鋭い声音だった。

「何を話しているんだ?」

 知らないうちに、部屋にはもう一人の男がいた。

「…どなたですか?」

「…不羈、お前にはもう少し口を堅くしてもらいたい。暫く聞いていれば…ぬけぬけと喋りすぎだよお前は…」

「年長者に失礼な口を利くんじゃない」

「まずは軍の規則を守ってもらわないとな」

 言葉の棘の応酬をポカンと眺めていた靡姫だが、タイミングを見て口を開いた。「どちら様ですか?」

「今かよ。答えてやれよ不羈、この世間知らずの小娘に」

「人の部下をそう侮辱するな」

 はあ、と溜息をついて、不羈は口を開いた。「特保の副隊長だ」

「へぇ…」

「リアクション薄いな!」

 靡姫は内心驚いた。特別保安隊と言えば、確かに名前は畏怖と共に広く知られているが、その内情を確定する情報は殆ど知られていない。その副隊長がこんなお調子者とは…。

 特別保安隊副隊長、鬮目(くじめ)善知鳥(うとう)

 靡姫も一応、将校以上に準ずるのでその名前は知っていた。

 だが顔も知らないし、勿論その人柄を聞いたこともなかった。

「まあ良い…。不羈、そして靡姫、お前もだ。余計な詮索はするな。身を亡ぼすのはお前らだぞ」

「構わんが」

「黙れ不羈」

 “情報”にピリピリする鬮目に、靡姫は皮肉を込めた視線を向け、それから立ち上がった。

「…そろそろ出ましょう」



「不思議な事もあるものだな」

「ええ…」

 いつもは何かと総理の言葉にケチをつける明華だが、今度ばかりは心の底から同意した。


―“橘”によって鉄道が占拠、無償での大阪の市民輸送を開始―


 怪奇とも言えた。今までは大阪に多数の市民が取り残されているからこそ、政府は大阪に容易に手を出せなかったのだ。つまり、彼らは易々と”人質”を手放したともいえる。

「まぁ、“対話”も“強硬策”もしやすくなったか…。強気に行けるな」

「その件ですが…軍部には既に“先制攻撃の許可”が下りているそうで…」

「…は?」

 なんで自分が怒られなければならないんだ、と明華は溜息をついた。寧ろ、その「は?」は自分が言いたい。

「どうやら、“上”からの指示が総理には隠密裏に出ていたようで…」

「くそっ…。また真桜(奴ら)か…!」

 だが、これを表立って言うことは、総理には出来ない。


 首根っこ、掴まれているのだ。




 耳の裏に騒音がこびり付いてきた。

「まぁ…これで帰れるかな」

 日本で反乱を起こした“橘”が、駅と線路を完全に制圧した上で列車の運行を再開した。

「信用できるかよ!ヤクザの走らせる電車なんてよ!」

と、隣で叫んでいた男も、たった今アルバートの隣の改札を通った。

 日本での改札のシステムには苦手意識があったが、今日の改札は単なる通行の妨げでしかなくなっていた。

「取り合えず、ここを出れば帰れるだろ…無理に流れに逆らう必要もないな」

 人に引き摺られるように電車に乗り、人にアイロンされながら、やっとこさ終点の駅に着いた。駅の名前も見ることが出来ないまま、駅の外へと流されていく。

「“橘”の運行する電車はこちらにありまーす!」

 喉が枯れんばかりに叫ぶ青年が、人並みに揉まれながら苦悶の表情を浮かべているのを横目に、次の電車に乗り換える。

「…いつ、帰れるかな」

 無論、呟きは誰にも聞こえない。




 “女”は、アルバートを見送った後、暫く目を瞑っていた。

「お迎えが来ております」

 遠慮がちに声をかけるのは、幼少のころから彼女の傍に仕える近侍。

 とはいえ、大層な主従関係を結んでいるわけではなく、いつしか近侍(それ)が自然の接し方となっていただけだ。

「何人くらい?」

「…止めておいた方が良いですよ」

「分かってるわ。後々面倒でしょうし。それに―」

 目を開け、紅茶を飲む。

「“会長”にも怒られてしまうわ」

 ふふ、と微笑みをこぼした。

「冗談は止めてください。…さ、通しますよ」

「ええ」

 近侍はドアを開ける。外からは数人の男女が入ってきた。…入ってくる前に、一つ問う。

「…土足でも?」

「良いわ」

 遠慮がちに土足で入ってきたのは三人。残りの十人弱は外で待機だ。丁寧に女が頭を下げる。

「まずはご機嫌麗しゅうございます」

 女は紅茶を置き、静かに来客者を見返す。そして問った。

「どこかで会いましたか?」

 フフ、と笑みを浮かべて女は話し始めた。

「先日、黒岡財閥は崩壊を喫しました」

 見返す視線が強くなる。

「会長、黒岡正希は身一つで逃亡…なら良かったのですが、持てるもの全部持って、ね…。我々残された黒岡は特保の追及をまともに受け、散々な目に遭いました」

「…」

「財閥の立て直しは不可能でしょう。我々は苦心しましたが、残された不動産(モノ)もあります。我々黒岡財閥の残党は、これを手土産に」

「橘へ、ですか…。あの黒岡財閥も」

 敢えて笑みを浮かべ、「堕ちたものです」

「好きなだけ言ってくださいな。あなたの黒岡への想いは我々の知る所」

 女は笑みを消し、再び睨みつけた。

「…分かるでしょう、学長(・・)。貴方も、我々と共に戦いましょう」



反吐が出る。


この能天気なババアは、今もそんな夢を見ているらしい。


今の私は、あなたたちに唯々とするほど、非力じゃない。


私は()を与えられたのよ。


橘の岩上空も可哀そうね、こんな奴らに言いくるめられて。この豚共はどうせ、


―我々ならあの女を口説けます。―


とでも請け負ったのでしょう。



…馬鹿にしないで。



安寧の泥に浸かったあなた達だけが、




世界の全部(・・・・・)だと思わないで。




 気付けば、ロイヤルスイートルームの玄関二十畳が、香木と血の香りに満たされていた。

「行きましょうか、フェロメナ様」

 近侍、水科(みずしな)理呼(りこ)はドアを開けた。彼らの乗ってきたヘリコプターの轟音が聞こえてくる。

 (しろ)()花曇(はなぐも)。洗礼名フェロメナ。

 真桜学園傘下、私立聖フェロメナ学院の学長。


彼女の生き様は、親にも、キリストにも縛られているわけではない。ただ、己の内に従い続けてきた。



 ヘリコプターの操縦士は水科理呼の姿を認めると頷き、キャビンドアを開けた。


 ヘリコプターはフェロメナを乗せ、東京へと向かう。


ホントはフェロメナの登場は引き延ばす予定だったんですが…

あんまり引き延ばすと、“女”っていう呼び名が重なっちゃうし、これからも活躍してもらわないといけないので、名前を出すことにしました。(ちなみに、フェロメナの名前そのものは怜於と廻と同時期に考えました。)

で、一つ言いたいこと。

不羈や靡姫、鬮目善知鳥、橘煉與、ですが…


あ、ちなみに黒岡正希ですが、元々の名前は應欷(まさき)です。財閥の首領ということで、庶民や下級社員などへの知名度を底上げするために簡単な名前に改名したそうです。どうでもいいですね。


やたら難しい漢字使っちゃってゴメンナサイ。

僕自身も困ってます(おい)。


一応後付けの理由はあるんです。体制側の人間というか、名家の人間は昔(そんなに昔じゃないヨ、)とある事件以降に「自分たちと庶民の格をつけるために、名前で教養の差を見せつけたろw」的な風潮が高まったわけです。なんで、風流というか雅というか、そういう風な名前を付け始めたんです。




…というのは建前で、真実の理由を言います。僕が慢性的な中二病だからです。以上!



あ、そういえばフェロメナですが、気付く人は気づく伏線を分かりやすく張ったつもりです。気付いてくれたら嬉しいです。ちなみにこの伏線は後付けじゃないですよ。


あと、フ“ェ”ロメナで合ってます。フィロメナじゃね?と思っても黙っててください。パクりはなんか嫌なのでちょっと捻りました。


では、夏風邪には気を付けてください。

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