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二十四話

普通に投稿しましたね。

「先生、お医者さん達とは話はつきましたか」

「ええ。…寧音さん、食料調達ありがとうございます」

「いえいえ。医者(せんせい)方からも快く許可を頂きました。…ところで先生、どうしてこんなにスムーズなんですか?」

 水科先生はなんてことないように答えた。「後で真桜の人たちがお礼をするので。後払いの恩ですよ」

「へぇ、真桜っていうのはそんなに権威あるところなんですね…怜於が通う学校は」

「言うほどでもないよ」

 廻の一言で水科先生は苦笑いした。

「廻さん、言うじゃないですか。…あ、あれ」

 水科先生は星でも見るように曇天を指差した。「私たちのヘリコプターじゃないですか?」

「そう…ですかね?」

 轟音と共に、確かにヘリコプターはやってきた。そしてヘリポートの周りを回って、凄まじい風と共にHのマークに機体が覆いかぶさった。

「でもこれ…なんか厳ついな」

 怜於の呟きに寧音は大きく頷いた。

「当然ですよ…多用途ヘリコプター、UH-436…今の日本軍が使っていない型ですが、確か三十五年前までは現役で使用されてて、暫くは姿を見せなかったものの五年前になってから民間に委託破壊後、払下げに踏み切ったという代物ですね。…かなりの旧式ですが、なぜ?」

「私は寧音先輩の知識量に疑問符ですけど」

 美誠の小さな呟きは、今まさに着陸したヘリコプターの轟音にかき消された。

「本当にこれで合ってる…?」

 玲於は美誠に視線を向けた。その美誠は小さく頷く。

「…うん。私のお父さん、今日知ったんだけど…“橘”なんだって」

「えっ…」

 水科先生の表情が凍りついた。美誠は答える代わりに小さく頷いた。

「このヘリコプター、“橘”の使用している物です。当然ですが中には…」

この病院(ここ)を占拠しようとする橘側の人間が乗っている、と…」

「はい」

「え…」

 水科先生と美誠の視線が重なり、時が止まった。怜於の小さな呟きと廻のそれが重なる。

 病院の周りに大きな弧を描き、黒緑のヘリコプターが五人の髪を乱した。

「救助に参りました!」

 拡声器越しのその声が響くと同時に、衝撃と共にヘリコプターが着陸した。

「美誠!」

 轟音の内側から、小さく声が聞こえてきた。「お父さん!」


「まずは一件落着、でしょうが…」

 玲於と廻、寧音先輩と美誠、そして水科先生の五人はヘリコプターに乗って、サンドイッチを頬張っている。が、水科先生の顔は浮かない。「まぁ、水科先生もそんな顔することないんじゃないですか?これで助かると思いますよ?」

「怜於さんの言う通りです。そもそも皆さんがここまで来てくれたのは私の所為ですし…廻さんの件は残念でしたが、全員がこの危険地帯から逃れられるというのは奇跡だと思います」

「…そうとも言えますけど」

 それでも浮かない顔をする先生の気持ちも分からないではない。

「ヤクザでしょ?」

「廻、そういう言い方は…」

「まぁ、平たく言えば」

 あっさりと美誠は認めた。「私も認めたくはないけれど」

「でも美誠さん、このことをなんで先に言わなかったんですか?」

 厳しめの口調で、水科先生は美誠を問い詰めた。「騙したって…ことですよね」

「騙したなんて、そんな」

怜於(おにぃ)、止めて。私だってそんなつもりもなかったけど、結果的にはそういうことになってしまったんだから。…勿論、悪いとは思ってます」

「美誠さん、そう気にしなくてもいいですよ。私だって、みんなで一刻も早く帰れるならそうしたいです」

「でも、先生の懸念も分かります」

 美誠はサンドイッチの容器を丸め、ゴミ箱に放り込んだ。「疑心暗鬼になるのも」

「疑心暗鬼というわけではないですが…」「でも、そういう思いはありますよね?」

 水科先生は一瞬遅れて、小さく頷いた。

「どこに向かっているのかというのは分かりませんし」

「…信じてください」

 美誠のその小さな言葉は、不思議とヘリコプターの中に響いた。

「私のお父さんは、そういう悪どい場所に身を置きません」

 美誠はその義足(・・)を撫でて言った。




「"王”、件のヘリコプターですが、無事に真桜関係者達を収容したようです」

「…そうか」

 王は大きなため息をついた。「面倒事にならなくて良かった」

「そもそも、現状でもかなりの面倒事になっているとは思いますがね…」

 王は、戦場で群衆事故を目にしてから小一時間錯乱した。

―落ち着け、落ち着け―。

 そう自分に言い聞かせたが、自らの信念の根本が綻んでしまった“王”は自分で正気に戻ることは出来なかった。

 ともすれば自死を選びそうな“王”にを叱咤したのは、この―

「ま、想定よりは良く行った方でしょうか」

 香坂新悟。かねてからメディアの調略を目論んでいた橘にとって、自分から進んで橘との接触を図った新悟の存在は、まさに渡りに船だった。

 既に上層の権力に蝕まれているメディアに所属する新悟は、橘の中ではとても貴重な存在だった。万が一にも繋がりが漏れないように今まで9年間、明確な接触は控えていたが、事あるたびに情報を持ってきてくれるありがたい存在だった。

 それに、と"王”は思う。

 香坂新悟自身、橘に名を連ねるに値する経歴(・・)を持っているのだ。

 その十字架は、香坂新悟という一人の器にとってとても大きい。だからこそ、彼の信条が橘のそれから揺らぐことはない、と信頼できる。

「…抵抗してこなかったのは嬉しい誤算だな。ある程度の抵抗は予想していたが…怖いほどスムーズに進んだ」

「ヘリコプターの中に一人、教員がいるはずです。学園との繋がりもかなり強い教員が…」

「…」

 真桜の学生が“あの場所”に現れたのには、正直驚いた。

 しかも、何も知らずに迷い込んだというわけではなく、“明確な意志”を持ってやってきたという。

 最初に覚えたのは怒り。そして、戸惑いが遅れてやってきた。

 だが、最後に自分を動かした感情は、“好奇心”と“感慨”。

 結局“王”は、そこへやってきた女子生徒を案内し、しばらくその部屋にいるように指示した。本人には、“それ”を探し出す明確な意志があったから、恐らく一両日には帰らないと踏んで、十分すぎる食料と生活必需品を与え、そこに留めようとした。

 “王”とて、彼女だけに良い思いをさせるつもりもなかった。手元にいる人間はすべて使う。ある程度の合理主義者(ラショナリスト)でもあった。

「我々は真桜学園の生徒を一名、人質とした」

 この声明はかなり反響を呼び、影響力を大きなものにしたものの、世間からのイメージを悪化させる結果にもなった。

「仕方ない」

 初めのうちは、そう割り切っていた。本人に逃げる意志が今のところない以上、内側から情報が漏れることは無い。真桜側が人質の生徒の情報を掴むのも時間が必要で、その時間を使って上手く進めていく予定だった。

 結果として、なんと生徒と教師の少数集団が人質を奪還する事になってしまったのだが、ここで香坂新悟の存在を有効に活用できたことで、再びその人質をオマケつきで手中に収めることが出来た。

「…"水科”…か…」

 部下が調べ上げた、オマケ(人質)の教師についての紙を眺めた後、ふむ、と小さく呟き、席を立った。

 その時、一際大きなヘリコプターの音が“王”の耳朶を裂いた。連絡役の男が"王”に告げる。

「”王”、来客です」

「…うむ」


「…それで、ここは?」

「…どう見ても、ここから海路での脱出は不可能であるということは分かりました」

 寧音先輩が投げやりな調子で答える。「多分既に陥落()ちてますよ、ここ一帯」

「すみません」

 心底申し訳無さそうに美誠が謝罪した。「信じろとか言った自分が恥ずかしいです」

「まず間違いなく…橘の勢力圏に飛ばされたね。さぁ、これからどうなるんだか…」

 廻の気楽そうな言葉に、水科先生は強めに窘める。それを廻が軽くいなす。


 なんだか怜於は、この緊急事態(日常)が終わったような気がした。


 何もかもが異常だったここ数日が過ぎ去り、再び、退屈(幸せ)な日々が戻るような錯覚だった。


 是非とも、その日常に美誠が加われば、さらに楽しくなりそうだな、と呑気に思った。


数学の計算ミスはどうしたら無くせるんでしょうね。


いや、贅沢言いませんよ…。せめて、せめて三割…。

七割計算ミスるのはやめてくれ。

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