二十二話
先週は投稿できずにすみません。ちなみにこれが投稿されるのは二週間後だと思いますが、その時までに僕が健康体に戻っていることを祈ります。
「…美誠?」
目を覚まし、視覚を取り戻してすぐに目に入ったのが彼女の姿だ。…もう何年振りに見るだろうか、顔半分に広がる大きな傷と、それでも輝いて見えるその瞳は、昔に仲良くしていたころと全く変わっていなかった。
「怜於!起きた!」
叫ぶや否や、座っていた椅子からベッドの上にいる怜於に飛びつこうとしたが、案の定距離が足りず、こけた。
「だ、大丈夫…?」
怜於はゆっくりと体を起こした。どうやら、身体の痛みはもう殆ど無いらしい。
「四年、三か月と二日振りだね…。心配したんだから」
心底安堵したような表情で美誠が怜於の頭を撫でる。
「ここは?」
「大阪の病院。勿論戦地からは離れているけど…真桜の先生方のお陰で優先的に入れたみたい」
「…廻と先輩は…どこ?」
「めぐりって人は知らないけど、真桜の先輩方と先生方は別の部屋にいるよ。もう一人、男の人がいたじゃん?その人の治療を見守ってる」
「ち、治療?」
廻が治療されている?
「ほら怜於、私を撃とうとした人をつき飛ばして助けてくれたじゃん?」
いかにも甘美な話をしているような、恍惚とした表情を浮かべて話す。怜於としてはあまり記憶に残っていないので、そうだったのかと思いながら聞くしかない。
「あの後なんやかんやあって、運悪くあの人の腕に銃弾が命中しちゃって、今は治療中。お医者さんが言うからには、急いで病院に来たお陰で良くなりそうだって」
「…そうか」
そんなことが、自分が寝ていた間に起きていたとは情けない。
「ちょっと見に行ってもいい?」
「…大丈夫?動ける?」
「まぁ殆ど怪我してないようなもんだから」
心配する美誠も怜於と一緒に廻の部屋に向かうことにした。
暗い病室。
外からカーテン越しの光は差してくるが、それさえも、今の大阪の緊迫した状況を暗示するものでしかない。
「め…廻?」
「…怜於」
起きていた。
廻は目を開け、顔をしかめながらも口角を上げた。そして、右の人差し指を立てて、口元に寄せる。近くの椅子に寝ている寧音先輩と水科先生を起こすな、ということだ。
「撃たれちゃった」
「…ごめんな」
分かっている。怜於が下手に相手を刺激しなければ、もしかしたら何も起きなかったかもしれない。自分が勝手にあんな突飛な行いに走ったから起きた事故だ。
「俺が勝手に動いたせいだ」
「いや、怜於が気にすることじゃないよ。事故だし。それに」
ちらりと廻は怜於の横に視線を投げる。気付けば美誠は怜於のすぐ傍らに小さくなっていた。
「もう一つの厄介事を未然に解決できたんなら、僕のこの怪我くらい安いと思うよ」
「その傷…治る…よね?」
怜於がそう訊いた直後の廻の表情で察した。出来れば聞きたくないが、この事実からは目を背けてはいけない気がした。
静かに廻が首を振る。方向は横。
「…ごめん」
「気にしないでいいよ」
廻は静かに目を閉じた。怜於は意味もなく自分の左腕を抓り、慌てて後を追う美誠の足跡を聞きながら、廻の部屋を後にした。
どれぐらいの間、ウトウト微睡んでいただろうか。
「怜於さん、ちょっと良いですか」
「…はい」
夢見心地で答え、ぼんやりベッドから起き上がる。
「怜於さんはそこでいです。…あと、美誠さんも一応参加しておきますか?」
「怜於も参加するなら…」
「お、おにぃ?…ですか?」
その呼び方に寧音先輩は戸惑いを隠せていないが、それは怜於とて同じだ。状況が状況だからツッコめていないが、許されるものなら今すぐ訂正させたい。昔の呼び方を引っ張られるのは、こちらにも精神的負荷が大きい。
「…それで、皆さんと相談したいことがあるのですが」
「相談」
怜於は意味もなく復唱した。
「えぇ。私たちのこれからについてです」
現状、大阪では橘の勢力が強く、警察隊との小規模な衝突、自衛隊施設の破壊などを繰り返しながら少しずつその勢力を強め、それに伴い戦線も拡大していっている。無論、戦車などの重装備部隊が市街地に侵入しているのも確認できるとか。
市街地での戦闘を両者が避けているのが救いで、まだ直接的な市民への被害は報告されていないという。
「電車は、勿論使えないんですよね?」
美誠が心配そうに聞くが、水科先生の答えは淡々としたものだった。「はい」
「まだ両者とも攻撃は行っていないのですが、やはり鉄道としても危険にさらされながら運行するわけにもいかないので。そのせいで交通の要衝では酷い事故が起きているそうですよ」
「酷い…?」
「まだ詳しい情報は入ってきていませんがね。どうやら群衆事故らしいものが起きてしまったと…」
「それは…」
寧音先輩の表情が凍りついた。それほどまでの混乱を生んでいるとは。しかも、それが各地で起こりうる、というのがもっと怖い。
「その直後、どうやら各地で橘側が駅などの制圧を始めたそうです。混乱を生むのを目的にしているんでしょうかね…?」
「人道に逆らう行いです!」
寧音先輩がいきり立ち、突然立ち上がった。「許せません!」
「落ち着いてくださいよ先輩…今ここで僕たち五人が何をしたら何が出来るっていうんですか」
偽らざる本音だった。今回寧音を助けに行ったのだって、廻の腕に当たった銃弾が誰かの心臓を貫いていてもおかしくなかったのだ。当分、こりごりだと思った。
「そう悲観的になることでもありません。ですが寧音さん、そういう匹夫の勇は今は必要ありません。今は、全員がもうこれ以上何も失わずに安全圏に帰ることが先決です。廻さんの腕も、早々に手術をしないと合併症の恐れだってあります」
寧音も黙って頷いた。一刻も早く関西圏から離れなければならないのは、彼女にだって分かっている。
「車は使えないでしょう。新幹線も当分使えないでしょうし、空だって危険です」
「陸と空が危険だと…」
「そう、残されるのは海。とはいっても、ここは海から三〇キロ以上離れています。歩くのは可能ですが、混雑もありますし、危険も伴います」
「八方塞がり、というわけですか」
怜於の呟きに先生は小さく頷いた。
「だから…何か良い方策はありますか?」
「助けを呼ぶ」
怜於はとりあえず案を出した。が、直後気付く。「無理か」
「そうですね。電話なんて混雑しすぎて到底できません。ネットだって、ここだと充分に使えません。自衛隊の救助なんて来ないでしょうし」
寧音先輩の冷静な声が冷淡に聞こえる。暫くの沈黙ののち、思い出したように美誠が小さく呟いた。
「…私のお父さんももう帰っちゃったかな…」
「美誠のお父さんは確か、名古屋に転勤したんだっけ?」
「うん。その後すぐに大阪に。私とお母さんは名古屋だけど。今日は早く帰って来てねーって連絡したんだけど…もしかしたら大阪に残っちゃってるかもしれないよね、こんな状況じゃ」
「美誠さんのお父様は…何か脱出の契機になると思いますか?」
水科先生が訊いた。美誠は躊躇いがちに「まぁ…分からないですけど」
「でも、確かお父さんはよくヘリコプターを使ってて…ツテがあったっぽい…です」
「ヘリコプターか…」
確かにそれは、八方塞がりの抜け穴だった。幸いにもここは大きな病院、屋上にヘリポートは整備されている。
「でも今、連絡取れないんですよね?」
先生が訊いた。「…うーん、そういうわけではないんです」
「とは?」
「実は昔、お父さんに『万が一の時にはこれを使ったら一度だけ連絡が取れるんだ』っていう、結構強い無線機…アイピー?とか言ってましたが、そういうのを持たされてるんです。これで連絡が取れますが…」
「でも、それでヘリコプターは…」
廻の言葉に美誠は頷いた。「まぁ期待するのは良くないですね」
「でも、確かに外部との通信っていうのは今は貴重な機会だし…取りあえずやってみたら?大阪の今の情報とかも聞けるかもしれない」
「分かりました。ちょっと外出ますね」
「…それで、怜於とあの子の関係は何なんですか?」
美誠が去ってすぐ、先輩が怜於に質問した。「怜於さんが咄嗟に命がけの行いをするような相手って…」
「…平たく言えば、“幼馴染”ってところでしょうか?」
一呼吸置いて怜於は答えた。
前回キリ良くなると書きましたが。
あれは嘘だ。次の次くらいかな。
一週間待たせたのにこのザマですよ。まぁのんびり行きましょう(反省無)。
…いや、引き延ばしてるわけではないですよ?とは言っても説得力皆無ですね…。
前回の話からあんまりシーン変わってないし…
これくらいの進度なら本来二日に一回投稿くらいが丁度いいんでしょけど。
書き始めると長くなっちゃいますね。アドバイスください。
あ、廻が片腕失った話ですが、別に僕の今回の怪我で発想を得たわけじゃないです(どうでもいい)。
ちゃんと…考えてましたよ?(




