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十六話

テスト近いのに、色々やりたいことが多くて困ってます。

 草が生い茂る道-そう呼べるかも怪しいが-を、ひたすら歩き続けること十五分ほど。

「ここ…だと思います」

 水科先生がなんとも頼りない言葉と共に立ち止まった。草がチクチク顔に当たったり、得体のしれない音が聞こえてきたりして正直怖かったので、怜於は胸を撫で下ろした。が、水科先生が言う“ここ”を見て、キュッと肝が冷えた。

「え…ここ…?」

 草深く、注意しておかなければ決して気づくことはなかったであろう。

 人間一人より少し小さいくらいの岩塊が、草と苔に隠れていた。

「ええ、そう。ここが、堀の内側とつながっている“隠し通路”の…入口」

 とてもそうは思えない。

「いやー、信じられないけど…でもそうなんだろうね。よぉし、早速入ろう」

 廻が先駆けて岩塊に近づき、草を掻き分け、穴らしきものを見つけた。覗き込むと、なんともいえない臭いが、底が見えない穴から漂ってきた。

「うわぁ…何の臭いなんだ?」

「…なんか、生理的忌避感を感じちゃうなぁ」

 怜於も同感だった。出来るなら一刻も早く離れたいと思ったが、叶わない。

「…じゃあ、腹を括って入りましょうか」

 怜於としては、底の見えない穴に入るのは怖くて仕方ないのだが、水科先生があまりに余裕そうに言うので、「そう深くないのか」と思い込んだ。思い込まざるを得なかった。



「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁあああぁ…」

 悲鳴が穴に吸い込まれていった。

「廻!?」

 意気揚々と飛び込んでいった廻だが、瞬間闇夜に悲鳴が響き、すぐに穴の中に消えていった。

「…大丈夫、だと思います」

「その自信はどこから来ているんですか…?」

 先生も次いで穴の中に飛び込んでいった。悲鳴は聞こえないが、だがドサッ、という音も聞こえなかった。

「どんだけ深いんだよ…」

 ここで引くわけにはいかない。先生の情報を信じて、穴に飛び込むことにした。安全が保障されていないのだ。意識だけが地上に取り残されて、怜於の身体は穴深くに消えていった。





「れおー…怜於ー?」

 はっと目覚めた。直後、穴から落ちたことを思い出して再び気を失いかける。

「ちょっと怜於!戻ってこーい!」

 廻に前後激しく揺さぶられ、辛うじて意識を保った。

「…ここは…?」

 ゆっくりと起き上がる。なんだか身体が痛い気がする。

「誰だろうね、こんな大層なものを作ったの。僕だったら途中で飽きちゃう…と思う」

 考えてみれば、たしかにここは光も差さない地下のはず。だから、こんなに見えている(・・・・・)のが不思議なのだ。

「明るいよ。…何の光だろうね」

 どこかに電球か火でもついているのだろうか。怜於、廻、そして放心したような水科先生の三人がいるのは、ゆうに体育館ほどの広さがある空間だった。高さもそれなりにあり、そして明るい。

「…まぁ、読書したら目が悪くなりそうだけど」

 ウールなのだろうか、地面にはフワフワモフモフしたものが敷き詰められており、かなりの高さから落ちても怪我一つなかった。六畳ほどがモフモフしており、その外側はごつごつした岩の地面だった。広い石の床の真ん中に、ぽっかりと白いモフモフ穴が開いているのは違和感が凄まじい。

「ほら怜於、あっちに道」

「ホントだ」

 体育館ほどの広さの果てに、確かに細い道が見える。

「水科先生?起きてる?」

「敬語を使いなさい」

 水科先生は苦笑しながらそう言い、立ち上がった。

「じゃ、行きましょうか。…結構、遠いですよ」








 東京某所、真桜大学敷地内。

「やぁやぁ、夜桜ってのも乙だねぇ」

「昼間の桜とは違った風情があるからねぇ」

 真桜大学の敷地内に植えられている桜の木は、全てが八重桜。別に八重桜が“真なる桜”ということを示しているのではなく、単に創設者の趣向だったらしい。

「…ところで、俺の帽子知らないかい??」

「知らねぇよ、どっかの酒場で落としてきたんだろ」

 真桜大学の敷地は非常に広く、さらには基本的に立ち入りが自由なのである。無論真桜学園の学校全てが立ち入り自由なのではなく、聖フェロメナ学院では無断での部外者の立ち入りは禁止されている。

「あぁ、あったあった。桜に引っかかってた」

「マヌケか、あんた」

 だから、桜の季節には酒の肴にしようと酒を引っ提げてやってくる人も多い。学校としても苦々しく思ってはいるが、そこであからさまに秩序を乱す行いをしない限りは咎めないことにしている。

「いや違う、桜が俺の帽子を奪いやがったんだ」

「そんなわけねぇだろう」

 酔漢たちも、やはり神聖な学園内で不埒な行いはしない。それほど、真桜学園という名前は強く、不埒な輩は入ってこないのだ。

「…おい、あそこに誰かいないか?」

「まぁ、俺たちの他にも花見客の一人や二人、いやさ百人いても不思議じゃねぇだろう」

「いや、そうじゃなくてな…」

 酔漢二人の内、一人が表情を変えて、暗闇の方を指差す。

「なんか…物騒じゃないか?」

「あぁ?」

 訝し気な表情を浮かべるもう一人も、もはや震え始めている一人の指差す方に視線を向けた。

「…誰だぁ?あいつら」

 呑気に声を発したが、彼はすぐに呑気な表情を引き締めた。

「…流石に、学園敷地内では武器持ち込み、禁止だよな…?」

「そりゃ当然だろ…そんな雰囲気じゃねぇよ、逃げよう」

 二人は頷き合って、取るものもとりあえず、その場から一目散に逃げ去った。

 彼らの判断は、正しかった。背後で響いた爆音に、彼らの足はさらに早まった。




ズド――――ン!!

 天を割り、大地を揺らし、平和ボケした善良な市民の耳朶を裂いた。

「何だ⁉」

 その音は広い真桜大学敷地の外まで鳴り響き、広がる高級住宅街の明かりが、暗い夜に次々と灯っていった。

「何の音だ!?」

 驚き、建物から飛び出たのは真桜大学の宿直の先生達だ。が、原因不明の轟音に戸惑うばかりっだった。

「何の音だ!」

 一人の老師が、騒めく先生達の元に現れた。一人の若い先生が、その老師を見て顔を輝かせた。「西園寺(さいおんじ)副校長!」

「先程の爆音…何の冗談だ」

「それが…我々も把握できていないのです」

「ふんっ!だから最近の教師陣は腰が据わっていないと言われるのだ!誇りある真桜の教師として、これしきの爆音に怯えるものがいようか!」

 年齢不相応な一喝に、騒然としていた廊下に静寂が訪れた。誰も、この老師に対して反論をすることができない。これが事実、というのもあるが、この老師が真桜大学においてかなりの地位を占めているということにも関連している。

「…誇りを持て。諸君は自信が無いがゆえに怯える。自らの居る地位に迷いを持つな」

 そう言って、“真桜大学副校長”兼“真桜学園理事長”である西園(さいおん)()(そう)()は足早に廊下を突っ切っていった。

「ふ、副校長!どこに…」

「決まっているだろう!屋上だ」

「お、お待ちください!」

 副校長が行くのを黙ってみているわけにもいかず、そこにいた教師九人がぞろぞろと老師の後を追って屋上に出た。


「…これは…!」

「ついに、真桜大学(ここ)にも来たか…」

 西園寺は眉間にしわを寄せた。

 地上三階にあたる、この棟の屋上に上がれば、真桜大学の敷地内のほとんどは見渡せる。

「し、しかし…どう対処したらよいのでしょうか…?」

「馬鹿が!“万が一”、このような事態が現実に起きると仮定して、今まで何度も対策会議を開いてきたのだろう!」

 再び西園寺は目を細めて、遠くに視線を向けた。

「…そこまで遠くないな。目測だと、2キロほどか」

 その近さに、その場の空気が張り詰める。

 眼下に広がるのは、真桜大学講堂に続く、長大な桜並木。そしてその外側に広がる、広大な針葉樹林。ここは、場所的には巨大な表門と真桜大学講堂、そしてその裏側に点在する建物の数々をつなぐ桜並木の表門側に位置している棟だ。森林の中にも転々と小さな宿舎があり、先程の爆音で目を覚ましたのか、明かりが点いているのが確認できる。

「桜並木を、堂々と進んできている感じですか」

 若手教師の一人が、半ば呆れたような感じで発言した。その口調に他の教師が慌てて彼を止めるが、西園寺は頷いた。

「先程の爆発音は、監視塔を爆撃した音のようだな。…戦車は見えないが、かなりの武装はしているようだ」

 かなり暗く、明かりの規模から予想するしかないが、五百の規模もないだろう、という予想を立てた。

「も、目的は何でしょうか…?」

「…“真桜大学”には、それだけの価値がある」

 西園寺はそれだけ答えて、再び闇に視線を投げた。

「…私が連絡する。お前たちはここにいて、他の棟と連絡を取れ。下手に動いて捕まっても面白くないからな」

 そう言って、西園寺は足早に屋上を去った。慌てて他の教師も後に続いた。再び、爆音が闇に響いた。

GWの中で貯金を作ることが出来なかったので、近いうちに一週間休むことがあるかもしれません…。地平線の計算とか、兵器の技術とか、結構面倒な内容を書かないといけないので、尚更ですね。その場合はできるだけ事前に告知したいと思います。

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