十二話
これを書いている間にいい題名思いつきました。とっくの昔に題名変更されていると思いますが。
ちょっと残酷シーン…らしいものがあります。これR15なりますかね…?
「やぁ主人、その男…どうしたんだい?」
主人は咄嗟に胸元に手をやり、物を取り出そうとするが、
「止めろ」
右手を掴まれ、手首を砕かれる。
「…いつもと何か違うと思ってたんだが…こんなところまで手が及んでるとはな、“特保”…」
主人は足を使って抵抗しようとするが、足を掬われ、完全に拘束された。主人を拘束したのは、それほど大柄ではない男。
「…死なせるもんかよ」
男は主人の口を無理やり開く。口の中から血が溢れるのにも構わず、口の中に小さな棒を入れ、主人の口が常に開くようにした。
「…その男に、何の用なんだ?」
何の反応も示さず、ただ苦痛に顔を歪める主人、もとい特保の潜入員を見下ろしながら、彼を店に連れ戻す男の目には、感情の一片も見られなかった。
その日、日本では前日に引き続き、列島を震撼させる大事件が起きた。
日本の歴史上で二回目となる、“内乱罪”が確定したのだ。
首謀者は、“岩上空”。株式会社橘通運の社長。日本政府への宣戦布告、そして実際に行われた日本各地の交通網の破壊、インフラの破壊。そして、私立聖フェロメナ学院に行った武力行使。これらを罪状に挙げ,“特別保安隊”、通称“特保”の上層が記者会見にて「我が国を転覆させんとする、行動を伴った計画を立てる犯罪者、犯罪組織」とし、その日付けで重要指名手配をした。罪状は内乱罪。
これを背景に、日本政府は全国各地に検問を設け、各地の警備体制を強化した。
「…大変だね、世の中」
「だなー」
そろそろ太陽が沈もうかという時間。広報部室は静かだが、ドアが僅かに開いているのか、吹奏楽部の音楽が聞こえてくる。怜於はふと思い立ち、新聞を置いて棚に向かう。
「…あ、そうそう。これ、見てよ」
「…お、寧音先輩に頼まれてたやつじゃん」
昨日棚に置いておいた本だ。これを置いた時には、一時間後の自分の運命など露ほども知らなかった。
「“星の真桜学園”。…真桜学園の“桜”って八重桜らしいよ」
「大学に植えてあるからだったっけ?」
「大学に植えてある理由は、花言葉“豊かな教養”、“理知に富んだ教育”に由来しているから…らしいね」
「へぇ~、初耳」
真桜学園全体に共通しているのかは知らないが、ここ黎明中学校にも桜は植えてある。怜於に桜の種類を当てるほどの教養はなかったが、これも八重桜である。
「どれどれ~?」
興味をそそられたようで、廻は早速“星の真桜学園”の本を開いた。
「うへぇ、黒塗りされてる」
「ええ~?何で?」
覗くと、やっぱり本の最初のページから黒塗りの箇所が見られる。
「『序章、…この国の豊かな未来のために、…教育を施す一大機関として“真桜学園”をここ…に設立する。』…やばい、黒塗りが多すぎてこれ以上全然読めない」
「黒塗り…誰が何の目的で?」
廻はうーんと思案する素振りをした。
「…ま、古い記録だし、真桜学園っていうのは大きな組織だし…誰かに不都合なことが書かれている…のかもね。」
「…そんなものが、何でここに?」
怜於の呟きは、廻には届かなかった。廻は険しい表情でその本を睨んでいた。
「…国立の学校だし。もみ消しやすい、もみ消したいことが多くあるのかもね」
数瞬置いて、
「…怜於、寧音先輩はいつ帰るかな?」
「さぁ。…用件、なんだったんだっけ?」
「怜於が分かんないんだったら僕も分からないなぁ~」
緩んだ空気が広報部室の中に漂う中で、ガチャリ、とドアが開いた。
「…皆さん、少しは先輩のことを尊敬した方が良いのではないでしょうか?」
「げっ!水科先生!今日非番の日じゃ…」
「非番て…まぁ、来たい日は来ますよ…」
「で、先輩はいつ帰ってくるんですか?」
「まず、何をしているか知っているんですか?」
「…知らない…です」
はぁ、と水科先生が溜息をついた。
「あなたたちが来年以降先輩と同じ仕事をするとは決して限らないけれど…今彼女は大阪、聖フェロメナに」
「何をしに行って…何をしに行かれているのですか?」
「あなたも本当に敬語が馴染まないわね…寧音さんは今、真桜祭の現場指示に行っています」
「うわー、名誉ある仕事だぁ…っていうか、今年の真桜祭は大阪か」
超規模の学園祭である、“真桜祭”は真桜大学周辺と聖フェロメナ学院の一年ごとの交互で行われる。去年は真桜大学、一昨年は聖フェロメナ学院の設備大幅改修工事のせいで真桜大学で行われた。だから今年は、怜於にとっての初めての大阪での真桜祭ということになる。
「楽しみだねー怜於」
「まぁまだまだ先だけどね」
半年後、である。
「…それはいいとして二人とも」
水科先生が急に表情を険しくし、声を低くした。
「…さっきこの部室で、何の話をしていたのですか?何か危険な話が聞こえた気が…」
「な、何でもないですよ先生」
「…この本ですか」
あっさりバレた。まぁ、特に危険な思想を語り合っていたわけでもなし。と思い直す。
「…星の真桜学園、ですか。…真桜学園の…正式な本でしょうか」
「でも先生、黒塗りが多すぎるんです」
「…確かに。これじゃあまともに読めないですね…」
「でしょ、先生?」
「…で、あなたたちは何でこんな本をあの…」
水科先生は部屋の本棚に視線をやる。視線の先には、これでもかと言うほど荒らされた本棚があった。忘れていた、あの本を見つけ出した達成感で全て。
「ぐちゃぐちゃの本棚から苦労して探し出したんですか?」
「先生!僕はやっていません!」
廻が早速責任から逃れる。まあ、確かにそうだが、流石に怜於は鼻白んだ。「廻…。」
「まあ、私は良いですけど」
水科先生は置いてある新聞を取り、読み始めた。
「寧音さんが帰ってくる前に片づけてくださいね?私も困ります」
「はい…」
廻は我関せずの態度をとり、悠々と読書を始めた。怜於は本の山を片付け始めた。
放課後。
「怜於お疲れ様ー」
「ホントだよ廻…ちょっとは手伝ってくれてもよかったんじゃない?」
「ちょっとあの時は忙しくて」
「嘘つけ」
くだらない会話を交わしながら校門を出る。と、
「怜於さん!廻さん!」
水科先生の大声が背後から聞こえてきた。
「どうしたんですか!?」
反射で大声で聞き返す。
「大阪に行きましょう!」
「「え!!?」」
「待っててください!今車出します!」
先生の声が、静かな学校の夕焼けに響いた。困惑する二人の耳を、豪快なタイヤ音が劈いた。
「え、マジで今から大阪行くんですか⁉」
「そうよ、何か文句ある?」
「えだって、門限あるし…」
「後で連絡するし、門限を破った責任は校長が取る!」
怜於もまだ状況が呑み込めていない。呑み込めていないまま、新幹線のホームに三人が立っている。
「じゃ、じゃあそろそろ、状況を説明して…ください」
怜於より冷静になるのが早かった廻が、落ち着いた声音で訊く。車の中では、水科先生の車の中では二人とも今の自分の置かれている状況を理解するだけで精いっぱいだったのだ。
「…分かったわ。乗りましょう」
三人は水科先生が取ってくれていたのかグリーン席(!)に乗り込み、ようやく一息ついた。
「グリーン席…」
「校長先生が特例で取ってくれたのよ」
呆れたような廻の呟きに、涼しい顔で先生が答える。
「じゃ、早く説明してもらえますか?」
いい加減落ち着いた怜於も、冷静に水科先生を問い質す。
「…さっき、連絡が来たわ」
「どこから?」
「黙れ廻」
一呼吸おいて、
「重大なニュースよ。寧音さんが、拉致された」
「え⁉」
廻は声も出なかったのか、目を大きく見開いている。拉致?そんなもの…現実に起こりうるのか…?先生は動揺する怜於を一瞥し、
「信じられないでしょうけど。私も一瞬疑ったわ。でも、事実」
「拉致したのは誰?」
廻が鋭く問った。いつになく―真剣な眼差しだった。先生は溜息をついて、「詳しいことは分からないけど」
「でも、物騒な集団だそうよ。十中八九、犯人は“橘”」
「たちばな…?」
「ええ、そう。過去は株式会社橘…今は本性を現してる。簡単に言えば反社組織…。それも、日本最大級の。今列島を騒がせている、張本よ」
新幹線が静かに動き出した。二時間とせずに、大阪へ到着するだろう。




