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お題シリーズ5

冒険者 縁

作者: 仲仁へび



 俺は冒険者だ。


 故郷のお母さんお父さんとケンカして、口に出した夢をひっこめられず、そのまま住み慣れた村を飛び出して、冒険者になった。


 きっかけは、たまに村に訪れる人……吟遊詩人が語る冒険者の歌や、絵本に出てくる冒険者絡みの話をきいて。

 そのうち、自分もそうなりたいと思ったのだ。


 しかし、現実は少年の夢だけで叶えられるものではない。


 家出同然の行動で大きな都市にやってきた俺は、すぐに現実の厳しさを知った。






 冒険者の生活は大変だった。


 最初の頃は、満足に食うもにも手に入らなかったし、寝る場所もえられなかった。


 冒険者は、冒険者ギルドがあっせんする様々な依頼を受けて、魔物を退治したり、素材を採取したりして、生活している。


 しかし、レベルが低い初心者だと、モンスターを倒せない。


 だから、クエストがこなせないし、素材が手に入らない。


 生活のための資金が得られないのだ。


 そこらへんの草を噛んで、何度くうふくをまぎらわせた事か。


 一年かけて、やっと普通の冒険者の暮らしができるようになった。


 けれど、慣れてきた頃でも油断は禁物だ。


 冒険者の仕事は、ささいなミスが命取りになる事がある。


 きちんとやるべき事をこなしていても、不測の事態で命を落とす事があるのだ。






 うまくいくより失敗する事の方が多い。


 成功者なんて、ほんの一握り。


 全体の一パーセントにも満たない。


 俺がどっちかというと、まぎれもなく残りの九十九パーセントの方だな。


 今も迷宮に入って迷子になったあげく、モンスターにおいかけられてるし。


「うおおおおおお! 死ぬ死ぬ死ぬ!」


 おもい装備を放り投げて、全速力。


 モンスターに追いつかれない事だけを祈って走っていた。


 迷宮に入る前に、できるだけの準備はしたさ。


 モンスターの情報もチェックしたし、地図も用意した。


 装備だってしっかり整えた。


 しかし。


「だれか、たすけてぇぇぇぇ!」


 できるだけベストを尽くしていても問題は起こるんだよな。


 ごく普通の生活を送っている人間よりも、はるかに予想外が起こりやすい。


 この世界では、昨日まで元気だった冒険者が、急に見かけなくなるなんて事はよくある事だった。


 でも、そんな事態になっても、できるだけ生存の可能性を上げる事ができる。


 それは「とりゃ!」


 思考を中断。


 背中から追いかけてくるモンスター達に立ち向かう人影があった。


 知った顔だ。


 俺じゃ倒せない高レベモンスターがあっけなく、倒れていった。


「うおおおおお、助かったありがとおおおお!」


 俺はモンスターを一撃で葬り去った冒険者の姿を見てむせびなく。


 一方、相手は冷静だ。


「だいじょうぶ?」

「ありがてぇ。死ぬかと思ったぁ、ずびっ、ぐすっ」

「まだ、一体倒しただけ、他のがくるよ」

「へい、全力で逃げさせていただきやす」


 唐突にやってきた助っ人。


 最初に気が抜けるような掛け声で剣をふったそいつは、女冒険者だ。


 以前一緒にお仕事をしたことがあるから、「顔見知りが襲われとる、せや助けたろ」みたいに駆け付けてくれたのだろう。


 ありがてぇ。


「やっぱ、不測の事態の助けになるのは人の縁だよな」

「ん、いきなり何? とりゃ」

「なんでもないこっちの話」


 冒険者は危機的状況に陥りやすい。


 でも、こういう時のために日頃から人の縁を大事にしておく事で、自分では手に負えない事でも乗り越える事ができるのだ。


「今日、おごって」

「かしこまりました! おつまみはいつものですねっ!」

「ん、よろしい」


 俺は、モンスターをざっくざっく切り刻んでいる頼もしい知人を見ながら、今この瞬間を生き延びられた事に感謝するのだった。




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