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彗星

作者: 水(スイ)

 

 午前四時、UFOキャッチャーで2,000円かけて手に入れたぬいぐるみを1時間ほど前に入った牛丼屋に忘れてきた事に気づいた。もちろん、取りに行く気力なんてない。さっきメルカリでいくらで売れるのか調べたら1000円ちょっとで売られていた。¥2000-¥1000。その余りの¥1000は手に入れた嬉しさ代だと割り切った。しかし、それを牛丼屋に忘れた。嬉しさ代も含まれたそのぬいぐるみを失った喪失感は思ったよりも大きなものだった。取りに行くには身体が重すぎる時刻と距離。僕は頭の中で悲しみに浸ったが、タンスの奥に転がったそれを半年後くらいに見つけるのがオチだと自分に言い聞かせ、諦めた。正確に言えば、諦めたふりをした。


 このように、生きている限りどうしようもないことは山ほどある。例えば、今僕は23歳なのにまだ大学生であることとか。大学四年生の6月なのにまだ内定が一つもない事とか。13時半に目覚めて3限に間に合わなかったこととか。そして午前四時、牛丼屋にぬいぐるみを忘れてきた事とか。


 僕は毎日何かを諦めて生きてきた。過ぎてしまった事は仕方がないしどうしようもないんだと、諦める事で感情に始末をつける。しかし、今回ばかりは何故か諦めがつかないのを心で感じていた。


 明日、というか今日はバイトがある。先週は低気圧がひどく、目眩が止まらなかったのでバイトを30分で早退した。だが家に帰るとなぜかゲームをする気力だけは湧いてきたのでゲームをした。本当はゲームのやり過ぎで目が疲れていたのだ。分かっていたが、ゲームをやりたい気持ちには勝てなかった。もはや自分に呆れすらしない。それが自分だと、諦めているからだ。それから、というもの怠惰が尾を引いて大学も2週連続でサボり、現在に至る。


 誰か俺を救ってくれないか。僕は心の中でそう言った。もちろん、そんな都合のいい"誰か"は存在しない。仮に居たとしても何から救えばいいのかわからないだろう。自分自身を救いようのないクズだと自負しているのでそのくらいは容易に理解できた。

 そんな中、付けっぱなしにしていたテレビから聞いたことのないような大きな音が鳴った。画面には「緊急事態」という大きな文字と、人工衛星から撮影されたであろう地球が映し出されていた。そして、地球に向かって青い光が尾を引いて飛んでいる映像に変わった。どうやらあと数時間で地球に彗星が落ちるらしい。


 僕を救ってくれる"誰か"は人間ではなく星だった。そして、抑えられないほどの胸の高鳴りが僕を動かした。僕は靴を履くのも忘れ、裸足のまま家を飛び出して、一時間前に行った牛丼屋まで走った。


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