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家に帰った後

はじめまして、うにたろと申します。

この作品は処女作となります。批判・感想など頂けたら幸いです。



 家に帰った後、布団に寝ころびながら今日あった事を振り返る。

 明石に瑞穂、二人とのやりとりは高校時代と変わらないものを感じていた。

 高校時代──。

星を観て語らいあう日々。明石は望遠鏡を用意して、瑞穂は夜食を作ってくれた。俺は手持ちぶたさにしながら、星の流れる場所を教え、二人にあれこれと指示しては、ちゃっかり一番良い星の動きを観て、それをキャンバスに記したりしていた。毎日がお祭り騒ぎのような、そんな感じさえした。

あの頃の俺は、何をするのも楽しかった。失敗もしたし挫折する事は何度もあった。けれども、明石や瑞穂と遊ぶ日々は毎日、退屈しない楽しい日々だった。

しかし、今はどうだろうか。今も同じように楽しいと思えるのか。

俺の中にはあの頃と違う違和感のようなものが存在する。これはなんなのだろうか? 俺は二人と会っていた時には口には出さなかったが、この違和感が気になっていたのだ。

「違和感。違和感か」

俺は念仏のようにそれを呟いていた。

次に俺は上京してからの事を思い出す。目まぐるしく変わる景色・友人・そして恋人。仕事を始めてからの俺。仕事を辞めた時の俺。

必死だった。周りの環境に付いていく事に。周りから取り残されないようにする事に。

それに比べて、今日会った二人はどうか。

昔と変わらない。時の流れを感じなかった。まるでこの町の中で時の流れから取り残されているような感覚。あいつらは数年たった今も何も変わっていないのだ。

二人の有り方は正しいのだろうか。間違っているのは俺の方なのか。

いや、それは違う。明石も瑞穂も夢を持っているのだ。夢を追うと言う事はもっと真剣でなければならない筈だ。東京で生きている間に思い知らされた。夢があるのならばその夢にがむしゃらになるべきだ。

そうでなければ夢など叶う訳がないのだ。

しかし、この町はあまりにも夢と程遠い場所のように感じる。

あの二人はそれに気づいているのだろうか。

二人ともこのままでは夢の入り口に立つことさえできないだろう。それは俺のように夢の無いやつでも判る事だ。

違和感の正体。これが答えだった。

二人とも現実に向き合っていない。必死さが足りないのだ。

それを知ったとして俺は何ができるのだろうか。

俺は、あるがままに生きるだけだ。自転車を買っただけで喜ぶような生活なのだから。

「全くままならないな」

俺は煙草に火をつけながら机の上の携帯電話を開ける。

柏木奈津美──。

彼女は今はどうしているのだろう。仕事に満ちた充実した日々を送っているのだろうか。新しい男との日々を過ごしているだろうか。っと、これは前にも考えた事だ。女々しい奴の仕草みたいになってしまった。

俺は携帯をしまいこむと、これからの事を考えていた。

いつまでも、自転車を買って喜ぶような生活じゃ駄目だよな。このまま地元に骨をうずめるにしても、また都会にでるにしても、まずは行動しなくちゃな。

煙草の火をもみ消し、口をゆすぎに台所に立つ。

台所にある窓から星の光が見える。

地方とはいえ市内に位置するここでは、星の光はまばらにしか見えない。それでも、都会に居る時よりは幾分かハッキリ見えるような気がする。

「行動するっても何をしていいのか判らないんだよな」

俺は星を見つめながらそんなことを呟くと、再び布団の上に横になった。そして、深い眠りにつく──。



次の日は、あいにくの雨だった。

しとしと降る雨を観ながら、やるべきことを考える。

そういえば、仕事をやめると言ってから実家に一度も電話していない。

俺は固定電話の受話器をとり実家にかけた。

電話に出たのは母だった。簡単な挨拶をして、今はこっちに戻ってきている事を告げると、実家に顔を出すように言われた。父も心配していると言う。

俺は適当に相槌をうち、近いうちに顔を出すよと告げると電話を切った。

近いうちに顔を出すか。いったいどの面を下げて顔を出せば良いんだ? 俺は自分の言葉を少しばかり反芻して自嘲気味な気分になった。

「髭でもそるかな」

俺は誰に言うでも無い独り言をつぶやくと洗面所に向った。定期的に手入れはしているが、昨日はシャワーを浴びただけで髭の手入れまではしていなかった。

 鏡を見つめる。そこには変わり映えのしない顔が映っていた。

 ぼおっと鏡を見る。

 昔は髭なんて生えていなかったな。そんなことを考える。

どの面ってこんな面だよな。俺は髭を剃ろうとしてやめた。今更髭なんて剃った所でやることなんてないからだ。

覇気のない顔に同じように覇気のない二つの目。どこか濁ったような死んだような目。

俺は自分の顔が自分じゃないような錯覚を覚え、鏡の前を後にした。

そう言えば、自転車はどうなっているだろう。雨に当たっていないと良いが。

俺は玄関を開け自転車の有る方を観た。

自転車は今は雨に当たっていないが、そのうち雨の滴があたりそうな絶妙な位置に置かれていた。

 俺は自転車を持ち上げると、家の中に入れた。玄関には置けず部屋の隅に立てかけるように置く事となった。

さて、本格的にやる事がないな。今日はどうしようか。

俺はTVをつけた。独特なローカルCMが流れている。こういったCMを見ると、地元に帰ってきたなあって実感する所だ。そうこうして居ると、画面は切り替わり、地方のニュース番組が流れていた。ニュースは地元の文化やグルメなどを紹介している。

「今治城では毎年恒例のライトアップが行われ──」

ライトアップされた今治城を観た。なかなかロマンチックじゃないか。晴れたらお城見物も悪くない。

 忘れないようにメモをしておこう。メモ代わりにカレンダーに印をつけ、そこに城めぐりと書き込んだ。

「明日は晴れると良いな」

 そんなことを呟き、俺はまたごろりと横になり、TVを見るのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は人物描写や風景描写を書くのが好きなのでそこを楽しんでいたけたらなと思います。

宜しければ評価やブックマーク登録していただけたら幸いです。

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