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79.慈悲

 



 ――ドオォンッ!!



 大きな爆発の音。北の方角、真っ黒な煙が天に吸い込まれている。


 それによる強烈な振動と轟音に僅かに気を取られ隙をつくる敵兵を、僕は見逃さない。


 死角。展開されているオーラにも触れない絶妙な距離、高速で振り抜くダガーの一閃。


 人形の魔獣、魔族ならば狙うは首の頸動脈。


(ほら、叫べ)


「――がっ!? ぐあっ、ああ!?」


 首から噴き出す血を眺める。


 その間に近場の魔族が集まり始める。


「な、なんだ!?」「あ!? こいつ、この白髪頭」「う、うそだ......ついさっき、数秒前まで敵の魔力反応なんて、なにも」


 慌てふためく敵兵。


(マナを体の中で巡らせる......循環、全身へ)


 ユグドラシルとの接続が切れたこの体では、もう残っているマナでしか戦えない。

 だから出来るだけ体外に出さずに、消費を抑え、立ち回る必要がある。


 ――ヒュン


「やるしかね、ぐばっ」「ぼっ、が」「ぎゃ」


 瞬く間に、一人二人三人の命を奪う。


 ――状況を正確に判断......出来なければ死ぬ。


 比較的近くに居た魔族へと飛び込むように接敵。

 両手を落とし、片腕と脚で首を折る。近づく一人にダガーを投擲、心臓を射抜く。


(熱、魔法感知。 後方から炎魔法)


 首を折り殺した魔族を盾にし、炎魔法を凌ぐ。


(一帯を攻撃する魔法は強力だ......だが、その炎自体は魔法で出来ているため、姿を隠すのに利用できる。 たとえマナを扱う僕だろうが、それを知らない奴らは警戒せざる得ない)


 爆発にも似た炎魔法の煙。それにより当たりは視界ゼロの戦地へと変化する。

 魔法により魔力を感知できない、煙で目が見えない、臭いもかき消され敵の居場所がまるでわからない。


(......いや、逃げる気か。 こうなったら奴らに攻撃手段はない)


 しかし、あらゆる状況、ユグドラシル内やこの魔界において死と紙一重の戦いを生き抜いてきた、経験。


 それらがレイの異様な感覚を目覚めさせていた。


 無尽蔵なマナを失ったことで逆に得たもの。


 これまでの経験で培ったもの。


 それらが合わさることにより、『超感覚』を身につけていた。


 敵の思考をトレース、爆煙の前の奴らの配置を思い返し、それによりルートを絞る。

 そして最短で殺れる敵は――





 煙の中、逃走をはかる魔族が二人。


「ひいっ、はあはあ......あいつが白い死神! 魔力を全く感じなかった......けれど、こんなの初めてだ! 戦えば殺されるなんてはっきりと感じた奴は......」


「と、とにかく上に報告っ、ぶふっ」


「な!?」


 屋根をつたい先回り。飛び降りると同時に頭を抑え、首を落とす。そして――


 ――ドッ!


 斬り落とした頭をもう一人に投げつける。ガードし、怯んだ魔族。

 背後に素早く回り込み、口を抑える。


「......お喋りしながら逃げたらダメだよ」


 ダガーの刃を喉にたて、引いた。


「むぐっ!! ぶふっ」


 ドチャッ、っと崩れ落ちる魔族。


 ――後、三人。



「くくっ、お前強いな?」


 煙が晴れ、一人の魔族がこちらに歩き近づいてくる。一際大きな狼人。頭には赤い布を巻き、全身の毛が逆だっている。


 高濃度の魔力が立ち昇り、臨戦態勢なのは一目瞭然だ。


「君がこの部隊の頭?」


「......ああ、そうだ」


「逃げないの?」


「逃げても無駄だと理解した。 お前の今の動き......俺達が全力で逃げたとしても、捕まり殺される」


「......なるほど、そっか。 だから残りの二人が逃げ切れる時間を作るために」


「.......お見通しってか。 だが、俺は簡単にはしなないぜ。 必ず逃して見せる......この命にかえてもなァ」



 ――レイは唇をなぜた。



「そう......まあ、無駄だけど」







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