8.照らされながら
――青龍地区、大きな屋敷の前に辿り着く。
教会から外界へでる時、場所の指定がある程度でき、監獄は朱雀地区にあるが、レイは青龍地区へと出る。
監獄破りの前に彼にはやらなければならないことがあった。
――剣を構えた石像が門の両脇に設置されている。
剣聖の証、か。
「......ここには、前に一度だけ訪れた事がある......」
慎重に敷地内へと侵入。辺りに人と探知魔法の気配は無い。
地面に触れそこからオーラを薄く流し、屋敷全体へと流す。
マナは生命力。
限りなく薄めたそのオーラは人が元々備えているモノで、探知する事は難しい。
それを利用し、屋敷の構造を探る。レイのオーラ量であれば建物全てを覆うくらいは余裕であった。
(屋敷内の情報を把握......次は彼女の居る部屋の特定)
――緋の眼に炎の様なオーラが灯る。
マナをコントロールする緋色の隻眼は、物質を透過させ生命力を有するモノを見通す事が可能。
「......二階、ベッド上。 怪我の具合からして彼女だな」
――約束は、約束だからな......。
ヴィドラドールの守る大監獄へ向かう途中。けれど果たさなければならない約束を守るためここに来た。
――リアナ......ごめん、すぐ戻るから。
今回の監獄への侵入は危険度が今までの比ではない。成功したとしても顔がわれてしまえば、一生を第一級の罪人としておけなければならなくなる。
そんな危険なミッションに彼女を連れて行く事は出来ない。なのでリアナは神命教会本部、大聖堂へと置いてきた。
とはいえレイはルーナらを信用した訳でもなく。しかし、レイは契約紋によりリアナが危機に陥れば僕は察知できる。
すぐにセフィロトの根を使い彼女の元へ移動できるので、その点は心配ない......以前のような失敗はもうしない。
※一度訪れた場所にはセフィロトを顕現させる事ができる。
――そして、今レイの訪れている場所。剣聖の血筋、王家にも勝るとも劣らない権利者。
クロノス家。
この屋敷にはクロノスの身内の者しかおらず、警備も彼ら自身で行うため、ヴィドラドールや聖騎士を置いてはない。
剣聖に選ばれる者は一族の中のたった一人。しかし、それ以外のクロノスの血を引くものも高い戦闘の才を有している。
故に警備は基本、必要としない。
「......剣聖であるヒメノの部屋にくらいには、誰かしらつけといた方が良いだろ......僕には都合が良いけど」
一気に壁を駆け上り、ヒメノの部屋の窓の縁に手をかける。
幸い鍵はかかってはおらず、軽く押すだけで開いた。
月に、照らされる白い天蓋。
思ったよりも小柄で、剣気すら纏わない彼女に、妙な気持ちを覚えた。
――まあ、眠っているんだから......そうか。
「......さっさと済ませよう」
ベッドに近づくと、眠る彼女の姿。
頭部には包帯が巻かれ、掛けられたシーツ越しでもわかる失われた左手と左脚。
その様相を眺めていると、かつての彼女の下卑た笑みを思い出す。
ダンジョンでの最後......蔑むように目を逸らした、君は。
「......ふ、ははっ、いい気味だな......ダンジョンに置き去りにされた僕と、あざ笑い見捨てた君。 どちらが勝者か一目瞭然だな。 くくっ」
醜い笑みと声が闇に溶ける。「勝ち」なんて意味のない言葉にすがる弱い心が、その顔を見て無意識に漏れ出していた。
その時
「......ごめ、ね」
寝言なのか。
微かに聴こえたヒメノのか細い声に、レイは我に返る。
頬を伝う涙。
彼女は毎夜、罪の意識に苛まれ泣いていたのか。何に対する謝罪の言か。
それはわからない、わからないけれど。
「......カノンに感謝するんだな」
ヒメノの額に触れ、怪我の状態を探り、魂の記憶を読む。
――やはり、魔力回路は破壊されている。だが、『眼』自体の創造は可能、視力は戻せる......左手、左脚も。
「......ヒール」
紅く柔らかな光が、月光と溶け合い妖艶な光となる。
その残光が散り、魔力回路以外の全てが元通りとなる。
――これで、修復完了。
......じゃあな、ヒメノ。
窓から外へ出ようとし、元の体に戻ったヒメノを一瞥する。
「......魔力ゼロの剣聖剣姫、か......」
レイは呟き闇へと還った。
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