68.魔界
――踏みしめる黒い砂地。
照りつける日差し。歪む蜃気楼。
見渡す限り果のない砂漠が広がっている。
ルーナ、王、僕ら三人は魔界へ飛ばされ魔族の住処を探し歩いていた。
「......大丈夫ですか、レイ」
「ああ......しかしこの瘴気は」
目には見えないが高濃度の魔力が空気中に漂っている。
白いひげを撫で、王が頷く。
「澱む瘴気、纏わりつく魔力。 ......まさか、生きているうちに再びこの魔界の風を浴びることになるとはの」
ルーナは王を指差す。
「......レイ、とりあえず協力してこの魔族の王を殺しましょう。 護衛のない今が好機です」
「いや、そんな事をしてる場合じゃないだろ......どうにか人間界にもどらないと」
「ふむ。 レイの方がよほど冷静じゃな。 この高密度の魔力を身にうけて思考が鈍っとるのか、小娘」
ギロっと睨むルーナ。それを涼し気な顔で知らんぷりを決め込む王。
「......いや、あんたも喧嘩売るなよ」
けれど、確かにこの魔界の瘴気と魔力を浴び続けるのは、キツイものがある。
僕とルーナはマナと神力で守られていて比較的大丈夫だけど、普通の人間なら数秒ともたず死んでしまってもおかしくない。
「何を言っているのです、レイ彼は私達の共通の敵。 ここで始末しておいたほうが良いに決まっているじゃないですか」
「......ここに来た時にその話は終わってるだろ。 僕たちは魔界のことなんて知らないし分からない。 ここがどこでどこに向かえばいいのかさえ。 王は魔界の出だから少なくとも俺たちよりはこの世界に精通している......彼を殺せば帰還の糸口が消えてしまうんだ」
「いつ裏切られるかもわからないのに?」
「そうするしかないだろ。 いざとなればいつでも二人で王を倒せる」
そうルーナをなだめていると王はまるで挑発でもするかのようにこういった
「ああ、いやいや、しかし大聖女よ。 お前の言うことも一理あるな......わしは腐っても死四天魔。 人類的には殺せば大きな功績じゃ......まあ、レイの言う通り、そうすれば魔界で生き残れる確率はゼロに等しくなるがな」
「安い挑発ですね。 よし、殺しましょう」
「やめろ」
神力を纏い始めるルーナにマナを纏い威嚇する。
「こんなところで揉めている場合じゃないだろ。 一刻も早く人間界に戻らなければならないのは、ルーナ、君も同じじゃないのか......それに残された教徒はどうなる」
「彼女達は覚悟の上です。 自分たちの命で死四天魔の一角を落とせれば本望でしょう」
駄目だ、話にならない。......なんだこの異常ともいえるような魔族に対する執着。これは一体......。
「その女の精神は呪いによって侵されておる」
僕の思考を読んだかのように、王が疑問に答える。
「大聖女は初代聖女の魂を受け継ぎ生まれるのだ。 ある都市の少女は十四をむかえる頃になると、神に選ばれたとされる一人の背に聖痕があらわれる。 その娘が媒体となり代々受け継がれてきた大聖女の魂を身に宿すのだ」
はっ!とするルーナ。
「レイ、そんなもうろくしたジジイの話は聞かなくていいです」
しかし、大聖女という存在の成り立ちに興味はある。そして王が呪いといった意味が知りたい。
「それが呪いなのか?」
「呪いだな。 その大聖女の魂は元の人間の人格へ大きな影響を与える。 魂の融合だからな、当然といえば当然だろう」
魂の融合による人格の歪み......魂には記憶が蓄積される。記憶とは人の軌跡。それが混ざり合うのだから、元の人間の人格のままではいられない。
「これは呪いなどという穢れたモノではありません。 選ばれた人間が人の道を開く......その大切な先導者を創るためのもの。 その使命を担う為に、個としての犠牲は仕方のないことなのです」
「そうだな。 確かに、ルーナの言っている事も理解はできる」
何を犠牲にしてでも、何かを護りたいその想いは。
「わかるのか、レイ? わしと大聖女、どちらも殺せなかったお前に。 わかっていたのならなぜ殺らなかったのだ」
「......僕は」
「それは彼に人の心があるからでしょう。 冷血なあなたと一緒にしないでください......不愉快です」
「教徒の犠牲の上に立っているお前には言われたくないな」
「先に手を出したのはあなた達魔族でしょう」
「ストップ。 二人共、もうやめよう......疲れる」
ふん、と互いに顔を背け合う。いや、子供か。
「ところで結局カノンはどこの勢力なんだ? 神命教会でも王側でもないことはこの現状をみればわかるけど」
「それはわかりませんね。 私も今の今まで味方だと思っていましたから」
「わしもだな。 転移の直前、奴が魔族への憎しみを告白したところで裏切られた事を知った。 どこの組織に属していたのかは聞いとらんな」
「魔族への憎しみ?」
「お前と同じじゃよ。 大切な妹を、魔族との戦いで失っておる。 まあ、やつの言葉が本当ならな」
「で、あれば魔族の殲滅が目的......」
「まあ、そうじゃの。 しかし、お前と違い奴は冷酷だぞ。 目的の為ならば手段を選ばず邪魔は全て切り捨てる」
「そうですね......現に私達は魔界へ飛ばされた。 仮に、もし彼に私達を始末できるだけの力があれば、利用価値のないと判断した時点で暗殺にでたでしょう。 それが出来ないから魔界へ封じたんです......危険性の高い魔族が扉から現れる可能性も許容して」
「うむ。 結界の再封印には時間がかかるからな。 今回の解放により魔界から魔族が侵入しているだろう」
「魔族が......」
「数百年前、自然発生した魔界の扉がありました。 発見が早く僅か二日で封印できたのですが......そこから人間界へ侵入した魔族により都市二つと村が四つ蹂躙されきえた。 確認された魔族はSレート以上が殆どでした」
「......Sレート」
「完全に繋がり結界もない扉からは高レベルの魔族もいききできるからのう。 魔界の魔物は恐ろしく強い......人間界の奴らとは違い、生まれながらにしてこの魔界に漂う瘴気、高濃度の魔力に晒され続け途轍も無い力を持つからな」
「......そんな危険をおかしてまで......カノンは何が狙いなんだ」
「全てを知る訳では無いが、やはりレイお前だろうな」
「僕?」
「お前の力が欲しかったんじゃよ。 世界樹、ユグドラシルの途方もないマナオーラ。 しかし制御も洗脳もできず、人形にも出来なかった......カノンはお前をコントロール出来ないと判断したから魔界に捨てたんじゃろう。 扱えない強大な力はあるだけで危険だからな」
ルーナがいう。
「私はレイを利用しようとし、王ははじめから危険なあなたを殺そうとした。 そして、カノンもあなたを使おうと画策していたけれど、無理と悟って魔界へ封じた......そんなところですね。 魔族を憎んでいるけれど、侵入のリスクをおってでも排除したかったのでしょう......勿論私達も同じく脅威として扱われていましたが、あなたは別格です」
「......でも、それじゃ」
「そうだな。 Sレート以上の魔族が現れても対処できる力が奴にはあるのだろう......おそらくは何かしらの組織があるのだろうが」
組織......魔族を殺し尽くすための?それはどこまで及ぶんだ?
カノン、ヤツ自身もかなりの強さだった。あの影魔法には特別な力が宿っている......あれはいったい。
......皆は大丈夫なのか。
(......リアナは、大丈夫だノルンやアトラがついてる。 フェイルは......?)
魔界は異空間にある世界。その広大な大地や海は人間界の数十倍の面積があるといわれている。
(......王は人間界へ戻る方法があると言っていた......けれど、この途方も無い広さを誇る魔界で、現在地もわからないこの状況で......帰ることなんて出来るのか?)
そんなことが出来るなら、人間界は魔界の魔物で溢れているはず。そんな思いが過るが、今は王を信じて歩みを進める他なかった。
『......また失敗した』
手のひらをじっと見つめる。
――こい、セフィロト。
心の中で世界樹の力を呼んだ。
しかし、セフィロトが現れることはなかった。
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