43.世界、闇堕ちの虚空
その後1日の休息をとったレイ達は、アーゴンの情報を元にこれからどうするかの会議をするべく席についていた。
「――なるほど、それじゃあ王を討つ他ないな」
レイの答えにノルンは問う。
「では誰が国を統治する?」
「確かに、王族と貴族の殆どが魔族であるのならその役目を負う人は選出しなければなりませんね」
「そうだな。 そしてそれには民衆に支持され信頼されている者でなければならない」
リアナとアトラが続けそう言った。そしてレイが一人思い当たる。
「......一人だけ可能性がある人間がいる」
「タラゼド隊長か?」
すぐにアトラが返し、レイは肯定しうなずく。
「ん、だれじゃ、タラゼドって?」
「聖騎士の隊長だよ。 人格者だし民衆にも人気はある......彼なら」
「ふむ。 しかし、レイそれはしっかりと考えろよ?」
「?」
「突然そんな大役をあてがわれてこなせる人間がおるか? 引き受けたとして、その重圧は計り知れんぞ? もっと先を考えろよ」
「まあ、確かに」
ノルンの言うことはわかる。でも、だからと言ってこのまま魔族の支配下におかれたまま、人が淘汰されるのは無理だ。
「わかった」
「ん」
「僕がもう一度王都へ行きタラゼドと話してみるよ。 もしかしたら適任の人物が見つかるかもしれない」
「なるほど......まあ、確かにな。 このままここで考えていてもどうにもならんしな」
「フェイル」
「...はい...」
「僕と王都へきてほしい。 人手がいる」
その言葉を聞いたリアナは直ぐに意図を理解する。ここに置いていかれる、瞬時にそう思った。
「レイ、だったら私――」
「リアナごめん。 君とアトラにはアーゴンをみていてほしい。 まだ引き出せる情報もあるかもしれないし、なにより」
ちらっとレイがノルンをみる。
「ノルンが寂しくなるから、ノルンの世話をお願い」
「あん!? 誰の世話!?」
ノルンは目をまんまるに見開き、手をばたばたさせていた。
「...ふふっ...」
フェイルが傍らで微笑む。
「さて、それじゃあ善は急げだ。 僕とフェイルなら体力的にもここから王都へ駆けてももつだろう」
「...うん...」
そうして二人は旅支度をはじめる。レイが創造魔法により黒の旅人服を、フェイルには魔法使い伝統の黒の魔法衣。
「僕のマナを付与してあるから、大抵の魔法は防げると思う」
「...ありがとう...」
フェイルはマナによる肉体をもつ。故にセフィロトを通じユグドラシルを移動してもアーゴンのように肉体が崩れる心配もない。
「少し痛いかもしれないけど、ごめん」
「...大丈夫...」
「こいセフィロト」
レイがそういうと地から幾重にも光の枝が飛び出してきた。それが蛇のようにフェイルの体を這い、瞬く間にその全てを覆う。
「それじゃあ、行ってくる。 なるべく早く戻ってきたいと思っているけど......あとは頼んだよ、皆」
「うむ」「はいっ」「ああ、わかった」「......」
やがてレイの姿も飲み込まれ、光の樹木が地へととけた。
リアナは祈る。
――レイ、どうかご無事で。
「さて、と」
リアナ、アトラへと向き直るノルン。
「おそらくはレイの事だ。 どのような状況になろうと、世界を変える戦いを始めるだろう。 あいつは一見まともそうに見えてイカれた所があるからな......強靭な意志力と凶神な能力。 今のあやつには、本来であれば単独である程度まで国を掌握できる力がある」
ノルンはスッと人差し指を立てる。
「では何故、それほどまでの力を持った奴が精神的に追い込まれているのか......どう思う?」
リアナは、目を閉じ思い出す。彼の笑顔と、彼女を失った彼の悲しい涙を。
「はい」
「リアナ、なんじゃ」
「私が弱いからです」
「うむ」
「でも、私は彼の側にいたい。 負担になるのはもう嫌なんです......強くなりたいです」
「俺もだ」
アトラが拳を握る。
「俺も、レイがあの監獄から救いだしてくれてここにいる......だが、今の俺にはあいつの力になる事など到底かなわない。 強く、なりたい」
愛する妻や子供の顔が脳裏に浮かぶ。
「もう、失いたくない......他の誰かの幸せも」
◇◆◇◆◇◆
〜王都、西エリア〜
月に照らされる木陰の中、光の樹木が伸びる。
その中から現れるふたつの影。
「大丈夫か、フェイル」
「...うん、ありがとう...もう王都についたんだね」
「うん」
ユグドラシルの最下層から王都西エリアのここまで、わずか三時間と少しで到達。
(まずは......ルーナの元へ行こうか。 国王軍にも動きがあったかもしれないし)
情報収集。何をするにしても、まずは新しい情報が必要だ。と、聖域への入口を探そうとするも何かおかしいことにレイは今気がついた。
――......生物の気配が、無い。
一見、王都に見えるこの場所。しかし、側にある木々や花々にはまるで生気が感じられない。
「......レイ、あれ......!」
フェイルの指差す先、空にある月が急速に満月へと変化してゆく。
「これは......」
「罠......!?」
あまり感情をあらわにしないフェイルも焦りを見せる。その時、周囲の景色がどろどろと溶けるように落ちて消えた。
かわりに現れたのは、国王軍の騎士達。
おそらくは、ワンド(上級騎士)が100程度と、鎧の色で判別できる透の騎士、紅の騎士が数名いた。
「おお、本当に現れたな、反逆者! はっはっは、こんなガキがあの監獄をやぶったのか? すげえな、お前」
騎士達の前に立つ大男が上機嫌に笑う。鎧の色は紅。背には大筒を二丁背負い、腰には鉤爪のような武器をぶら下げている。
「名前くらいは聞いとくか、本人確認はしとかねえとな? ヴィドラドールが人違いだと逃げやがると面倒だからな、ククッ」
レイは考えた。なぜ僕らがここへと来ることがわかったのか?
ダンジョンから王都まで地を這うユグドラシルの根の中、一度として地上にも出いなかった......しかし予測された。
つまり、アーゴンが何かしらの方法で外部へ情報を流したか。しかし、やつの体を修復した際にはそれらしいものもなかった......やつにはオーラや能力も無いのも確認済み。
裏切り者、か?......いや、それは
「おいおい、聞こえてんのかいクソガキ? お前、立場わかっとるんか? 俺様は国王軍第三騎士団隊長、血しぶきのグンダリ。 いくらてめえみてえなクソガキでも俺様の名を聞いたことがあるだろう?」
「......まあ」
血しぶきのグンダリは国内外共に戦あるところへ駆けつけその武力をふるった。
半ば傭兵部隊のような彼の持つ騎士団はその戦闘力と暴力性から味方敵のどちらからも恐れられ、貴族の一部ですら頭を垂れる。
敗者をなぶり血しぶきが残る戦場、それがかれの二つ名の由来だ。
「それで、何かようですか? 僕ら先を急いでるんですが」
「だから、貴様の名をいえと言っているんだ。 俺様の気は短えぞ」
先程の上機嫌な様子とは一変。苛立ちをあらわに怒気のこもった言葉をレイへとぶつける。
一方、レイの隣にいるフェイルはいまだ困惑していた。王都へ辿り着いたまでは良かったが、蓋を開ければ籠の鳥。
多くの騎士に囲まれた絶体絶命のこの状況に、自分がどう動けばいいか彼女はわからずにいた。
そして――
「はぁ〜......てめえ、おい! ふっざけんなよ、名を名乗れ!! それくらい出来んだろが!! 殺すぞクソガキ!!」
レイは思い返す。こいつが特別なわけではない......そう、こいつだけではない。むしろタラゼドがおかしかったのだ。
本来の国王騎士軍はこういう横暴な連中だった......事と次第では女子供すらも手にかける。
それが明るみにでないだけで、思えば彼らは
「――もういい、吹き飛べ」
タクトを振るようにグンダリが指をレイへ指すと同時に、後方、左右から飛んできた光弾が直撃した。
鳴る轟音と地響き......割れた大地が赤々と煮え滾る。
レイの居た場所から黒煙があがり、その砲撃の破壊力を物語る。
「はっはっはァ!! どーよ、この威力!? コイツぁよ、俺が考案したオーラを射出する大筒! ドラゴンキャノン! 木っ端微塵の挽き肉だぜぇ!! はは、ヴィドラドールのホラ吹き野郎が!! こんなクソ虫の一匹も掃除できずによくもまあ監獄長など引き受けれたものだ......我が国の恥晒しめが」
しかし......
――グンダリの横に居た紅の騎士が黒煙の中を指さした。
「グンダリ隊長......あ、あれは」
「あん?」
黒煙がはれ、ドラゴンキャノンによる大きな破壊痕が三つあるその中央。
たたずむ彼はどこからみても無傷であった。
「......ヒト、か」
レイはそう一言、ぼそりと呟く。
確実に死んだと思われたレイが何事も無く、その場にたたずんでいる様に驚愕し、声をあげる国王騎士軍の面々。
「な、なん、なんだと......あ? 今の、直撃を無傷?」「は? え、あたったよな」「吹き飛んでもいねえ!?」「......え?」
レイは視線を落とし、その表情が暗く曇る。そして、ゆっくりと顔を上げ、グンダリを見据える。
今の短時間、彼の下した命令でもわかる通り、奴は人の命をどうとも思っていない。僕が枝で光弾を下へ弾かなければ左右にいた兵士は互いにそれを受けみな死んでいた。
彼は絵に描いたようなゴミだ、価値のない生肉。腐った人塊だ。
......だが、それでも魔族を殺すのとは訳が違う。
――目の前に現れた子供はいう。
『君は、何を願われたの』
僕は......まもれって。
『そう。 だから捨てたんだろ、人であることを』
そう、そうだ。
『やれ、壊せ。 邪魔なものは』
――ポタ
左眼から、赤色のマナが流れ落ちた。それは血のように濃く。
――ズズッ......ブシュッ!!
噴き出すオーラがやがて炎のように立ち昇る。
(......透が五、紅が三)
「...れ、レイ...?」
静かで冷たい殺気をた揺らせるレイに、驚きと恐怖を覚える、フェイル。
「フェイル、そこを動くな」
その声は、彼女が今までに聞いたことのない恐ろしく暗い色。
レイのオーラを目の当たりにした紅の騎士、ヴェルゲン。今年で二十という若さで紅まで上り詰めた彼には自信と誇りがあった。
それはおそらくは自分以上の力を持つものは、王直属の三騎士以外には居ない。眼前で指揮を執るグンダリや、タラゼド、イオリ、他の紅の騎士や白銀の騎士......その全てに勝るバトルセンスとオーラ量。
自信の根幹であり誇りであるその二つのうち一つが、今まさに揺らごうとしていた。
(あり、えねえ......あれ本当に人か!? つーか魔族でもこれ程のオーラは......持ちえねえだろ!! こんなやつが直属三騎士以外に存在するのかッ!?)
「......!」
下を見ればガクガクと震える脚。本能が訴える、逃げねば殺されてしまうと。
そして、グンダリもまた、その紅い眼を向けられ今までに感じたことの無い感覚へと陥る。それは死の気配、死神の鎌の冷たさを首元に感じるような。
(......い、いや、そうじゃねえ! 冷静になれ、取り乱すな! あの大筒の魔力光弾は至近距離で撃てばヴィドラドールの結界にもひびをつけるほどの威力だ......それが無傷、ありえねえ! おそらくは、攻撃を受け流すタイプの能力! 光弾の着弾位置がおかしい! 真下に落ちたということは、力の流れを操作した証拠!!)
グンダリの最も特筆すべき力は観察力の高さ。身体能力、神力量は勿論、それに加え敵の動きや能力を理解する力に秀でていた。
そのセンスを用いて隊長の座まで登り詰め、幾人もの魔族、魔獣、時には人をも屠ってきた。
(今の三連撃で終わると思ったんだが......しかたねえ、部下共使って様子見するか......このままやり合うのは不味すぎる!)
「近接部隊、かかれッ!!」
その号令に左右、後方の前列に配置された騎士が一斉に突撃。
「......」
――ヒュオッ!!
首を狙い振り抜く騎士。レイは体勢を低くしそれをかわすと共に、腰から抜いたダガーをそのまま振り抜き、いとも簡単に手首を切り飛ばし無力化。
――流れるように、体を捻り回転。
続けて後ろから来た斧を騎士の顔面をカウンターで蹴り抜く......そしてその勢いで、前方から大剣で突きにきた紅の騎士の首に飛びつき、「な、がっ!? ――ぶふっ、げ」素早く斬り落とした。
――ゴシャ......どちゃっ
転がる、頭。
虚ろなその眼と、グンダリの視線があわさる。
「......な、な、なん!? おまえ、は......いったいッ」
グンダリの褐色の肌が青くなるほどの絶望的な力の差。
最初に手首を落とされた騎士は、斬られた手首から光の根が生え、それが頭を貫き小さな花を咲かせている。
斧で斬りかかった騎士の頭はレイの蹴りで粉砕され跡形も失く、直立不動。
紅の騎士は、失った頭を探すかのように崩れ落ち、手を伸ばし絶命。
時間にして約6秒。
ワンド1名、透の騎士1名、紅の騎士1名......3人の命が消えた。
「僕を殺しに来たってことはさぁ......」
レイはゆっくりとグンダリへ指をさした。
紅く燃える瞳がグンダリを射貫く。
「殺されても、仕方ないよな?」
――これより約一時間後、レイは王都内の騎士、聖騎士等の殆どを撃破し、更には王直属の三騎士を壊滅状態へと追い込む事になる。
【とても重要なお願い!】
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