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38.あやまり

 



 アーゴンを連れて家に入ると、皆が居間のテーブルについていた。

 皆の視線がこちらへと向き、アーゴンがたじろぐ。

 ノルンはそれを意に介さず、椅子を指さした。


「そいつがアーゴンか。 ふむ、なるほど......とにかくお前たちも座れ」


 レイとアーゴンが席につくと、ノルンが話を続ける。


「レイ、リアナと出会ってからここにいたるまでの話は二人に聞いた。 ......お前が失った彼女の話もな」


「うん」


「して、そこの男から魔族の情報を聞いたとしてどうするんじゃ? 戦争でも始めるのか?」


 唐突な物言いにレイは否定をした。大事にはしたくない、出来れば魔族と通じている人間に絞り、間引く。


「戦争なんて僕は、」


 しかし、そう言ったところでレイは気がつく。国を魔族のいない状態へと戻す。しかしそれには王は確実に討たねばならない......と、なれば彼らとの全面交戦は必死。


 それは王を討ったとしても。


 そうなれば国家との戦いにならざるえない......つまり、戦争をする事と同義だ。



「いや......僕は、ただ......人が平和に、安全に生きられる世界を作りたい。 それだけだよ」


 リアナが、アトラがこれから先を生きていけるように。


 しかし、それらの想いを否定するかのようにノルンはため息をついた。


「......確かにレイ、お前にはそれを成せるだけの力はあるよ。 でもな、その先は善良な民の死が連なる道が広がるだけだ」


「いや、でも僕は一人で戦う。 誰も巻き込まない、だから」


「本当にそんな事ができると思うのか? 仮に王や関与する王族、公爵を全て倒したとすれば、この国はまたたく間に混乱し一気に混沌と化す......違うか? さっき言った民の死とはそれによって落ちる命の事だぞ」


 都合よく視界の外へ置いていた、見たくないものを突き付けるノルン。レイは自分の痛いところに何度も触れてくる彼女に苛つき始め、声色に苛立ちを隠せなくなっていた。


「じゃあ、どうすれば良いんだよ......ノルンはこの国の現状をその目で見たことがないから。 奴隷制度、魔族による被害、それらを無くしたいと思って何が悪い!」



「子供か」


「子供に言われたくない」


「あん? やんのか、おまえ!」


 ケンカになりそうな二人をなだめる三人。


「ま、まって、レイ!」「二人ともやめろ!」「......レイ、ノルン......!」


 睨み合うレイとノルンだったが、同時に互いに「フン」と視線をそらす。


 数分の間、先に口を開いたのはノルン。


 小さな声でノルンはレイへと問いかけた。


 再開した時に気がついた、明らかな生物としての体をなしていないその肉体。


 人では無くなった、そのレイの体の事を。


「......レイ、お前、わしがお前の体の状態に気がついとらんと思ってるのか?」


「......これは」


「もう戻れないじゃろ、それ」



 ノルンが涙を流しているのを目にし、なぜ彼女がこれ程までに突っかかってきたのかを理解した。



 押し寄せる重い罪悪感は、かつて倒した彼の『想異重我』よりも強く心を締め付ける。



「......ごめん、僕が悪かった」



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