23.いこう
――チチチッ......と、小鳥の声が歌を奏でる。
翌日、神命教会のはからいでタラゼドと連絡がとれる事になった。
現状報告とこれからの事を伝え、一応彼らからもこちらに何かあるかもしれないので、早朝の出発予定だったが、それを待つ。
その役目はミミラとフレイのコンビで担ってくれるらしい。
「あら、レイ。 紅茶、おかわりしますか?」
「あ、ありがとう、ルーナ」
「アトラとリアナも、はい......カップをください」
「あ、ありがとう」「ありがとうございます、ルーナ様」
神域内に落るステンドグラス越しの陽の光に、温もりを感じる。
(多くの教徒がいる中で、彼女ら二人とルーナには本当にお世話になっている......今もこうして、僕だけでなくリアナとアトラにも良くしてくれて)
感謝の気持ちと、また大切な人たちが出来たことを感じる。守りたいものが増えていくのと同時に魔族の手からこの国を解放しなければという思いも、更に大きくなる。
しかし......その反面、不安と焦燥が心根を蝕んでいくのも感じていた。
天秤にかける命と守らなければならない約束。
――もしも......もしも彼女らが
(いや、それはまだ止めておこう......今はただ、この一時の心地よさに身を委ねていたい、せめてこの一時は)
「――レイ......大丈夫ですか?」
考え込む僕を心配し、リアナが顔を覗き込む。
「ううん、何でもないよ」
彼女の笑顔もあと何度みられるのか。どれだけ僕の体が安定しているかもわからない......ユグドラシルへ渡した魂の情報からマナで構成されるこの肉体。
いつまでもこのまま維持する事が可能なのか......。
「リアナ、ルーナの作ったパン美味しい?」
「はい! とっても甘くて、挟まれている林檎の果肉が柔らかくてとっっっても美味しいです!!」
満面の笑みを見せるリアナ。僕は彼女を優しくなでた。
◆◇◆◇◆◇
「ただいま戻りましたーっ!」「ただいま戻りました、大聖女」
昼頃になり、戻ってきたミミラとフレイの二人。早速タラゼドとの話を聞かせて貰う。
「はい、タラゼド様はアーゴン公爵をダンジョンへ連れて行く事に肯定的でした。 そしてそれに関してですが、アーゴン公爵から情報を引き出す事が出来たら、また教徒経由で共有してほしいとの事です」
ミミラが指を唇にあて、思い出しながら伝えてくれた。
書面等でのやりとりは、それを押さえられたら危険である為、情報は全て記憶して貰っている。
「うん、わかった。 タラゼド隊長からはこちらに共有する情報は何かあったかな?」
それについてフレイが答える。
「タラゼド様からは二つ。 一つ、レイが第一級の罪人とされ、懸賞金がかけられている。 二つ、噂の範疇だが、アーゴン邸のような人体実験を行っている施設が王都内外に幾つかあるようだ。 とのことです」
「そう、か......うん、ありがとう」
「......タラゼド様はアーゴン邸事件の当事者でもあるので、少なからず上層部から疑惑の目でみられているみたいです。 あまり自由に動けないようで、情報の確証を得ることは難しいと」
アトラが頷き、口を開く。
「だろうな、上の連中が魔族側ならばタラゼド隊長は危険因子そのものだ......仕方ない」
「ええ、であれば、アーゴン公爵から引き出せる情報の価値は計り知れませんね」
ルーナの言葉に僕は頷いた。
◇◆◇◆◇◆
「......すげーな」
アトラが馬車を見てポカーンとしている。
「ホントに良いの、これ」
レイがルーナに聞くと、彼女は頷いた。
「勿論です。 カンナを助けていただいたのですから、これくらいはさせて下さい」
リアナが馬車の周囲をくるくると回るように見ている。
「レイ、すごいですね! 私、こんなにかわいい馬車、見たことがありません!」
確かに、今まで乗った馬車と違って車体は青いし、内装も明るめの装飾が施されている。あとぬいぐるみが置かれていて、癒やし効果が高い。
リアナはこの馬車を見たときからニッコニコでテンションが高い。
自然とこちらも笑みがこぼれる。
「ふふ、この青いカラーリングの馬車は神命教徒専用の馬車なのです。 魔物よけも施されているので、低レベルの魔物には馬車が見えないし、見えたとしても近づけないはずです」
「ありがとう、ルーナ。 けれどユグドラシルには馬車を置いておける場所も無いんだけど......」
「はい、それでなのですが......カンナを同行させていただけませんか?」
僕らをおろした後でカンナに馬車を回収させるって事か。けど、大丈夫かな。
「カンナを......監獄から出たばかりだけど、危険じゃないか?」
「大丈夫だと思います。 カンナは我々神命教会の中でも1、2を争う戦闘力の高さですから。 ......捕まって監獄へ囚われてしまったのも不運が重なった結果なので、今度は大丈夫かと」
「じゃあ......お願いしても良いかな、カンナ」
僕がそう聞くとカンナはふんわりと柔らかな笑みを見せ、頷いた。
【とても重要なお願い!】
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