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16.禍魂

 



 ――レイが声の方へ振り向くと、そこには白のドレスを纏う女性が立っていた。その手にはたたまれた扇が携えられている。


 顔には白い布が垂れ下がり、素顔はわからない。だが、その艷やかな声と肩にかかる長い黒髪で、女性だということがわかった。


「お前は......誰だ? ヴィドラドールの結界師?」


「わたくしは結界師ではありません。 あなたの存在を感知し、こちらへ飛んできました」



 ――妙な、感覚だ......魔力を感じない......?



「あ、あなたは......まさか」



 アトラが驚愕の表情を浮かべ、彼女の正体を明かした。



「王直属騎士の一人......スサノオノミコト」


「あら、わたくしをご存知でしたか。 で、あれば話は早いですね......お二人共、この場は見逃しますので直ちに監獄から出ていきなさい」


(......見逃す、だと?)


「見逃す? ......お前はこの監獄の窮地を加勢しに来たんじゃないのか?」


「ええ、ここへ来るまではそのつもりでしたが。 あなたとここで戦えば監獄が崩壊してしまうでしょう......それは避けたい」


 スサノオの言葉は嘘が半分。監獄を壊されてしまうのは困るが、レイは逃したくない。

 レイが大罪人というのもあるが、貴重なSSSランクダンジョンの能力を手にした彼を、自軍の戦力としたい気持ちが強かった。


 この時点で、スサノオは確実にレイを手に入れる為に、密かに聖騎士の一人に応援を要請していた。


 それが来るまでの時間稼ぎ......レイにそれを悟らせないよう、慎重に言葉を紡ぐ。


 一方、レイは「監獄を壊したくない」の真実の言葉により、嘘を言っていないと誤認してしまう。

 ただ唯一、一対一では負けない、レイのその考えだけは正解であり真実でもあった。


(......これは好都合かもしれない。こいつは王直属騎士。国王軍最強の騎士だ、後々邪魔になるのは明らか......)


 その時、レイの脳裏にルーナの言葉が浮かぶ。『王とその直近の三騎士は魔族側の者です』

 目の前に現れたその三騎士の内の一人の印象は、「底知れない」だった。


 これと同じのがまだ二人存在する。いずれ戦うのであれば今、一人でも戦力を削いでおいたほうが。と、レイは考えた。


(......だったら、スサノオが全力を出せない今、この場所で殺っといた方がいい)


 レイの思考を察知したのか、スサノオは目を細めた。


「......良いのですか? あなたも到底無事では済まないですよ」


「でも、このチャンスは見逃せないな」


 彼女は胸を高鳴らせる。欲しいものが手に入る瞬間とは、いつも胸躍るものだ。

 しかし、スサノオがその笑みを悟られまいと、扇で口元を隠す。


 顔は元より見えない布の奥であるのに。


 レイのオーラが臨戦態勢となった瞬間。スサノオのオーラもまたゆっくりと広がる。



 ――ここで王直属騎士を殺せれば、かなりでかい。



 オーラが微かに触れ合ったその時、スサノオは自身の体を全て覆う鎧のような大盾をオーラにより顕現させた。


 瞬間、そこにレイのオーラを纏う拳が直撃した。



 ――読まれた!!と、いうかこの盾は......ッ!!



「無駄です、あなたの動きは読めている」



 レイはスサノオの言葉を意に介す事もなく、オーラの盾の横から追撃しようと回り込む。


 すると瞬時に白い大太刀を生成したスサノオが突きを放ってきた。



 すんでの所でダガーを抜き、その軌道を逸らす。



「!! ......フフ、やりますね、流石は創造神と言われるだけあります」



「そりゃどうもッ!」



 スサノオの大太刀を流しきったレイは、そのまま彼女の頭めがけハイキックを撃ち込んだ。が、しかしそれは後ろへ上体をそらされ、すれすれでかわされた。


 そして、それと同時に次はお返しとばかりにスサノオはレイの顎を目掛け蹴り上げる......が、それも見切られ、空を切る音だけが響いた。


 この間、数秒にも満たない、刹那の攻防。


 気がつけば、スサノオは白い甲冑を身に纏っていた。


(いつの間に......オーラで形成した鎧か)


 ――しかし、これは......もしかして、僕の動きを読んでいる?ありえない、この短時間で動きを覚えられるような下手はしてないぞ。

 これは、彼女の能力か?......何かあるな。



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