1.緋色
――血の臭い。
転がる頭と、首のない胴。
「......」
人では無いナニカになってしまったからか、本来の自分がそういうイキモノだったからなのか、ナニも感じない。
ただあるのは、黒いなにかに塗れたダガー。それだけだった。
「......れ、レイ?」
リアナが、悲しそうな顔でこちらを見ている。
「うん、終わったよ」と僕がリアナに微笑むと、彼女は泣き出してしまった。
死んでいても、殺されても不思議の無かったこの状況。怖かったのだろう。
それとも......ネネモアが死した事を悲しんでくれているのか。
......わからない。どれもあっているようで、違うような。彼女の涙の意味が読めない。
「レイ......」
タラゼドが脚を引きずり立ち上がる。
「タラゼド、隊長......なぜ此処で彼らと戦っていたんですか?」
「ああ......我々はこのアーゴンが魔族と通じているという情報を精査しに訪れたんだ。 結果は......見ての通り」
「なるほど」
「すまない、助かった......」
......本当に?多くの魔族が死に、床に散らばる惨状......聖騎士の遺体がまみえる。
頭が魔族の聖騎士の遺体、おそらくは......。
ネネモアと同じ、か。
......助かってなんか、無い。
そんな事を考えていると、腰を抜かし地べたに座り込んでいたアーゴンが声をあげる。
「......き、貴様ら、こんな事を......わしの屋敷をめちゃくちゃにしておいてただで済むと思うなよ!? わ、私はアーゴン公爵! お前らこんなことをして国が」
「おい」
突き刺すような殺気がアーゴンを襲う。
「お前、勝手に口を開くなよ」
場の空気が色を変えるよう、明確な凶気をはらんだそれはアーゴンを黙らせる。
「ひっ、あ、あ......」
次の一言で、彼らのように「首無し」になるのではと感じ、アーゴンの座る床に温かなものが流れ出た。
「レイ、待ってくれ......! そいつは」
慌てるタラゼドに僕は頷く。
「ええ、わかってます」
僕はアーゴンの座っているもとへと行き、腰をおとし、目線を合わせた。
「あなたには、あとでゆっくりとお話を聞かせていただきます。 ......偽れば容赦しませんので。 僕、嘘には敏感なんです」
にこりと笑みを浮かべる僕。対照的なアーゴンの引き笑い。
そう、こいつを殺すのは情報を引き出した後だ。
タラゼドが言う。
「......レイ、公爵家であるアーゴンがこの王都で魔族を引き入れ、これ程の規模で実験をしていたんだ。 どこまでかはわからないが......国の人間が関わっている事は間違いないだろう」
「......で、あれば。 アーゴンが魔族と関係があったとしても、僕達の方が罪人として処される可能性があるということか」
「ああ、早く此処から逃げなければ......」
「し、しかし隊長......我々がここを訪れた記録は残っています! 逃げたとしても」
「......確かに、そうだな」
「それに、ここの担当は朱雀の......彼なら隊長と戦うためにアーゴン邸を襲った犯人に仕立て上げるくらいはしますよ !」
「そ、そうです......あいつ、隊長にすごく執着してるから」
南の朱雀地区を担当している、イオリという朱雀隊隊長は好戦的で有名だ。
強者と戦うためには手段を選ばないと聞いたこともある。
隊長という枠におさまらない自由人らしく、公的な場には大体姿を表さない。そのため僕も彼を見たことがない。
「では、こうしましょう。 此処、アーゴン邸を襲いアーゴンをさらったのは僕ということにして、タラゼド隊長達は僕や僕の引き連れた魔族と戦った......これならタラゼド隊長が此処に居る理由ができる。 どうですか?」
彼らは僕と面識がある......僕が怪しいと感じ追ってきた所で交戦。
引き連れた魔族は倒せたが、僕はアーゴンをつれ逃走してしまった。
そんなシナリオで。
「な、しかし、それでは......君が国から追われる罪人となる事に......」
「それはどのみち同じでしょう。 ただ僕もこの国がどれだけ魔族の手に堕ちているのかが知りたい......お互い協力者として手を組みませんか? 僕は裏から、タラゼド隊長は表から」
――失ったモノが同じなら、変えたいと願うだろう?
タラゼドは少し考え込み、「わかった」と了承した。
「では、僕とリアナはアーゴン公爵を連れて王都を出ます。 どこか近場で身を隠そうと思っているので......」
「ま、待ってくれ!」
カノンが声を荒らげた。
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