世界の中心でONIGIRIと叫べ~相棒は聖なるバール~
この企画に気付いた時には明日が締切という絶望感。
久しぶりかつ勢いだけで書きましたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
どうして私はこんなところにいるのだろう。
ほんの少し前まで、確かに現代日本に居たはずなのに。
「や、やっぱり無理です……」
「いいえ、これは聖女様にしかできない事なんです!」
仕事帰りに歩いていたら突然足元が沈み、気がついた時にはだだっ広い石造りの広間で大勢の人に囲まれた状態で座り込んでいた――というお約束のような異世界への移動を経験してから数時間。
事情を話す時間も惜しいとばかりに馬車に押し込められた私は現在、到着地点らしい草原の真ん中でそんな事を考えていた。
目の前には、私に熱く語り掛けてくる一人の青年。
そしてそんな私たちを守るように背を向けて立つ、甲冑を来た騎士団の人々。
さらにその奥には、こちらへ向かって一目散に走って来る黒い毛皮をした大型動物の群れが見えた。
「聖女様、見えますか!?あれが魔獣、我が国の民へ甚大な被害を及ぼす理性無き獣!そんな魔獣どもを鎮めるのが貴方のお役目!突然こんな強引に連れてきて不安だとは思いますが何卒……!」
そう言って猛獣達を指差す青年。
だが待って欲しい。私はどちらかというと近所の犬にも嫌われていた人間である。
「というわけで鎮めるとか無理です人違いです」
「いいえ貴方は聖女様に間違いありません!こちらを握っていただければ分かるはず!」
首を振る私にそう言って青年はバールを握らせてきた。……バール?
「いやあの、これってバー」
「さぁこの杖を天に掲げてください!」
思わずツッコミを入れかけた私へ食い気味に青年は叫んだ。見れば魔獣達は騎士団の近くまで迫っている。
色々と言いたいところだが一旦飲み込み、私は言われた通り手に持ったバールを掲げてみた。鉄製なのでずっしりと重い。
そんな不思議な力なんてと思ったその瞬間、なんとバールが淡く光り始めた。
「えっ嘘」
「さすが聖女様!すぐにこの杖の力を引き出してしまうとは!」
「いや杖っていうかこれバールじゃ」
「それではそのまま僕に続けて叫んでください!――オニギリ!!」
「オニギリ!?」
驚きで思わず叫び返した瞬間、掲げたバールから強い光が放たれそのまま魔獣の群れを包み込んだ。
光を受けた魔獣の群れは叫び声を上げると、そのまま虚空へと消えていく。
湧き立つ騎士団の皆さんと目の前の青年。そしてバールを見つめて呆然とする私。
――もうちょっと別の呪文は無かったんか。
これから始まる長い聖女生活の最初に抱いた感想は、そんなくだらないものであった。
実はこの呪文、同郷だった先代聖女が気合を入れて毎度叫んでいたため誤って『聖女様の呪文』として語り継がれてしまったという裏設定があります。
本当はもう少し別の呪文だったのですが、語呂が似ていたのと異国の不思議な響きが国民の間で大いにウケたこともあり『ONIGIRI』という単語しか文献に残らなかったとのこと。時の流れは残酷ですね。
ちなみに上位互換の呪文として『YAKINIKU』もあるそうです。