微笑 1
ナーシャは静かに泣いていた。彼女は俯いて手で顔を覆って、絶対にその泣き顔が俺には見えないようにしている。俺に気を遣ってくれているのか、彼女が見られたくないと思ってのことなのかはわからない。時折しゃくり上げるような声が漏れるけれど、たまに泣き疲れて眠ってしまったのかと思うくらいに、彼女は静かに泣いていた。
無言のまま時間は過ぎていく。少しの焦りはあったけれど、そんなことよりも俺はナーシャへの感謝で胸がいっぱいだった。大きなありがとうという気持ちと、小さいが決して消えないごめんねという気持ち。俺は今までナーシャに全てを任せて、ずっと大変な思いをさせ続けてしまった。背負わせて、追い詰めてしまった。
「あらあら、可哀想に。泣くほど辛いのなら、お兄ちゃん助けてと甘えるだけのお姫様ヒロインに戻ればいいではありませんか。世界最強の勇者で、チート能力を持ったお兄ちゃんが助けてくれる世界に、一人で帰ったらいいではありませんか。他人のことを想うなんて、元よりプリンセスには向いていないお仕事なのですから」
ガラガラとドアが開く音に驚いて、そちらを覗き込めばそこにはあの謎の美少女がいたのであった。それはそれは可愛らしい、お人形のような美少女だった。感動しそうなくらい可愛らしいのに、やはり彼女の顔は見えないのだった。ここもまた薄暗い教室ではあるけれど、顔が見えないというのはどう考えてもおかしい。
気付いていないはずはないと思うが、顔を上げることもなくナーシャは泣き続けていた。にこにこと笑っている美少女としくしくと泣いている美少女と、二人とも美少女で最高に可愛くて幸せなんだけれど、この状況でどうしたらいいのかわからないにも程がある。
「可愛らしい笑顔ね。どこを見つめているかもわからない、空虚を代表したかのような素敵な笑顔。なんとも羨ましい美しさだわ。その肌の光が悲しく、腹立たしく、憎々しく、じれったいものよ」
「ごめん、ナーシャももちろん可愛いよ。結局どう頑張ってもナーシャがずっと一番だからね」
「そんな話してないわよ。黙っていてちょうだい」
俺が他の女の子に余所見していると思って、ナーシャが嫉妬してしまったらしい。さっきまで泣いていて何も入ってきていないようだったのに、やきもちにしてもちょっとだけ元気になってくれたように見える。羨ましいとかは素直に言えるのに、俺が励ましたらちょっとツンデレっぽくなるところも可愛い。




