マスク着用やめたり忘年会に出席したりしてる「周りのみんな」とは、お前を囲んでるクラスターだけを指すものです
あ、ども、ごく普通のこんこんさまが見える女子高生の天塚です。
ライフスタイルとか人間関係とかが変化を迎えるなどと言われるこの頃、人間以外の関係まで変わってる様な気は確かにしてましたが、自分、今度はくねくねとエンカウントするみたいです。
……いやちょっと待って下さい。
あのくねくねですよ?
田んぼの真ん中とかで真っ白なのがくねくね踊ってて、何アレつってガン見したら取り憑かれちゃうアレですよ。
きちんと見た人は皆壊れちゃってるから、何が見えたのかすら分からないというアレですよね。
つうかそんなのがコメントでウザ絡みして来るとか、生放送って私が知る以上の危険地帯なんですかね。ネットの闇にも限度がありますよ。
そう言やアレって元々ネット生まれの怪談だった様な――
「何虚ろな目でぶつぶつ言ってんのよ。私まだ憑いてないんだけど」
私の両肩を固定したままのメリーさんが聞いて来る。
不本意ながら現実に戻ってしまった私は、何でこうなったのか整理してみる事にした。
つうか、彼女もガチで憑くと結構ヤバいみたいですね。
ええと、まず、私はこんこんさまを迎えに行こうとしてた訳で。
地元住民なら幼児から高齢者まで、公務員も会社員も農家も、工事業者も医療従事者もうばーいーつも、ニートもユーチューバーもヤとか反とか付く業種の方も、オタクもヤンキーもギャルもみんな知ってるこんこんさま。
気付けば後ろでこんこんしてる、おかっぱと黄色いおべべがプリティーキュートな、この地の守り神こんこんさま。
そんなこんこんさまが胡散臭い妖怪どもに、よく分からない妖怪の接待を押し付けられてる。
守り神がそんなんで大丈夫かという疑問も今更だが。そもそも本当に神様かどうか知らないし。
それを知った自分いても立ってもいられなくなり、マスク妖怪をしばくのも後回しで行ってやらねばとなった次第で。
ええと、そんで、今こんこんさまと一緒にいるのが、あのくねくねだと――
「――やっぱ帰ってもいいですかね?」
「人間の女子高生が来るって話したら、凄く喜んでてね」
「今の問いへの答えがそれかよ?」
爽やかにサムズアップしやがったマスク返し。
この人間とのディスコミュニケーション加減がさすが妖怪って感じで、納得だね。
つうか、今スマホいじってたのは向こうへの報告だったのか。
「ちっ、きめえし……」
私の背後から舌打ちが聞こえる。
しかし、マー君はメリーさんのそんな罵声にもひらひらと手を振って見せた。
「いやいや、これは悪い話じゃないですよ」
「は?」
「つまり、彼も彼女の前では自重するだろうって事ですから」
「あーねえ……」
マー君の説明に何となく納得した様子のメリーさん。
私が逃げる様子ないと見たのか、肩に置かれた手の力も緩んだ。
「やっぱり理解者になりそうな人間まで壊したくはないでしょうし、ましてそれが若い女子となれば尚更ってとこですよね」
「やっぱりキモいわ……鏡見ろっつうのよあのハゲ」
「彼に鏡見せてもセルフダメージ受けないですよ」
「知らないわよ!」
後ろでキレ散らす声をスルーしつつふと聞いてみる。
「今『自重する』って言いましたが」
「うん?」
「くねくねってそういう風に、人間が見ても大丈夫な感じに出来たりするんですか?」
確かに『自重する』というならそうだよね?
今まで人格の有無さえ謎だったけど、ネットで絡んだりオフ厨したりする程度の自我と知性はある訳だ。
なら自分の意思でそういう力を出したり引っ込めたりとかも出来るのだろうか。
「うん。『踊りを見ると』憑かれるんであって、彼が踊り出さなければ問題ないんだ。さっきも言ったと思うけど、万が一踊り始めてもすぐ顔伏せれば――」
「その万が一っての絶対ナシには出来ないでしょうかね?」
「うーん、彼次第なんだよね……常識的に見て大丈夫だろうと思うけど……」
マー君の語尾が何かもにょっとしてる。
うん、もう大体分かりました。
確かに可能だけど、このメンツでもその辺は保証出来ないって所ですね。
まあ止められないからこうして逃げて来たんでしょうけど。
常識的と言っても、これ程常識という言葉の信用が地面に落ちてるセリフも滅多にないんじゃないだろうか。
「あいつちょっと興奮するとすぐ踊り出すじゃない」
ええ物凄く駄目そうですね。
さっきも話途中でよく踊るとか言ってましたよね。
「でも、そういうのって僕らで集まってる時だけですよ。あれでも人間がいる場所では結構気を遣ってますからね彼」
「あいつが? 気遣いなんてものから一番かけ離れてるキャラクターじゃないの?」
「性格はともかく、気を遣えなかったらとっくに狩られてるでしょう」
「……狩られる?」
私が聞き返すと、マー君はこっちに視線を移して頷いた。
「うん。人の多い駅前や街中、あるいはショッピングモールとかの屋内なんかでくねくねが出たって話、聞いた事ないよね?」
「ええ、まあ」
「出られないからなのさ。時代の変化とかともまた別でね、僕らの活動範囲には色々と限界があるんだ」
「それって、つまり妖怪退治……みたいなものがあるって事ですか? 現代でも」
「あるって事ですかって、君の家はそのエキスパートだったじゃないか」
目に呆れ半分の苦笑を浮かべるマスク妖怪。
しかし、何度も言った筈だが私の家をそういうものと思われても困る。
そこんとこは何度でも訂正してやらねばなるまい。
「だから大昔の話ですよ。うちはもう、そんなのと関係ない一般家庭です」
「それでもだよ。残ってる名前だけでも僕らにはそれなりの意味があるのさ」
「……?」
何か最近どこかで似た話を聞いた気もする。
「そう言えばさ、あいつ最近図に乗り過ぎて、あちこちから目付けられてんだってね」
「稼いだはいいんだけどね……僕らに接触して来たのも多分その辺の事情からでしょう」
「『これも想定内』とか『小者どもが弁えろ』とかイキってたけど、実際ビビってたっしょあれ」
「こっちでは『天塚さんに相談させて貰ってる』って露骨な脅しも食らったらしいですし」
ああ、そうだ、こないだ家に来てた二人組。
特に何もしなくていいから資料や名前を使わせてとか。
ひょっとしなくとも、あれってこの――
車でおよそ三十分、私たちは隣市の中心部まで来ていた。
半ば拉致同然で車に積まれた私は、伴奏なしでもドナドナと口ずさめる位にはドナっている。
あとね、やっぱ突っ込まずにいられないんだけど、人外の移動手段が普通車ですか。
あなたまさか、人を追いかけてる時もこうやって車じゃないですよね。
前方運転席のジャージのお姉さんに聞いてみたくてたまらない。
メリーさんの片鱗もねえよこれ。
「『この機を活かして新しい自分の領域を確立する』という点で、彼はいち早く成功を収めた先駆者だと言える」
移動中、マー君が助手席からくねくねの現状について少し詳しく説明してくれた。
「かなり早い段階で彼は、国や各地方自治体、あと幾つかの法人団体や広告代理店に自分を『不要不急の外出への抑止力』として売り込んでいたのさ」
ふらふら出歩いていると私に会ってしまうぞ。
簡単に言えばそういう脅し。
売り込んだ先全てに受け入れられた訳ではないが、まずまずの成果だったらしい。
「勿論、役所なんかが表立ってくねくねの恐怖をアピールしたりはしなかった。だけど、あそこの川辺で白い影を見た、工場跡の広い更地の奥に揺れている何かがいた、そんな噂は彼と組んだ地域のあちこちで頻発し各地の自粛要請を大いにサポートした」
「世界レベルのパンデミックの怖さが分からないのにくねくねは怖がるってのも現代人としてどうなのって感じだけどね」
「そんなものなんでしょう。そこに僕らのチャンスも埋まってるって事ですよ」
「まあね。私らがグダグダやってる間にもアイツは実際に稼ぎまくって名前も売ってた。それは認めるわよ」
ため息交じりでメリーさんが言いながら、ハンドルを大きく切る。
「ついたわよ」
「え」
窓の外を見て思わず声が出た。
すっげえ高そうなホテル。
「ここに泊まってるんですか? その……くねくねが」
「こっちに来てからの一か月半はここにいるって言ってたね」
「……マジですか?」
一泊でも万行きそうなのに一か月って、十万二十万じゃきかないだろこれ。
お待たせしました。




