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素人の生放送はトラブっても叩かれても視聴数が少なくても凹まないことです

 真っ黒だったり、たまに写ったかと思えば部屋の隅や机の上のキーボードだったり――しかも静止画で。

 そんなこんなで、まともに始められたのは更に二十分後だった。

 二十分で済んだのはマー君が頑張った結果だろう。

 当たり前だけど、その間にも視聴者数はみるみる減って行ってた。

 それでも七割は残ってたから、みんな忍耐強いな……というかかなり暇なんだな。


『これで大丈夫よね? いいのよね? そ、そんじゃ行くわよっ』


 そんな声の直後に突然写った画面。

 消灯して暗い室内、その中にメリーさんの姿だけが明るく浮かんでいた。

 モニターからの光だけでなく、何かの照明も使ってた様だ。

 昨日見たジャージ姿ではない。まっすぐ下ろされた金色の髪には赤い大きなリボンが乗っている。

 白いフリルの付いたワンピースという出で立ちで、その胸にも黒いリボンが留まってる。

 言わば彼女の『正装』みたいなものか。


『え、なに、外人なの? カラコン?』

『結構本格的だな』

『始まんの?』


 なり切ってる普通の人を予想していたのか、髪と瞳の色に意表を突かれたらしい声がコメントに上がる。

 メリーさんは無表情のまま、画面のこちらへ真っ直ぐな視線を向けている。まるで本当に見られているみたいに感じた。

 その口元に薄く笑みが浮かんだ。微笑みながら彼女は口を開く。


『私メリーさん。今、私の部屋にいるの』


 しかし、その第一声がこれだった。

 本人はギャグのつもりじゃなかった様だが、コメントは大草原と化している。


『wwwww』

『ちょwww自宅待機かよwwwwwww』

『自分の部屋wwwwww』

『メリーさんなら誰かの家に行けよwwwww』


『何よ! 電話しても外出るなって言われるのよ! どいつもこいつもうっさいの!』


『wwwwwww』

『仕方ねえだろw』

『誰だ言った奴。いいぞもっとやれ』

『俺もメリーさんから電話来たら言うわ』


都市伝説(わたし)はウィルスは運んで来ないってのに……怖がらなくてもいいのよ』


『いいのかよwwwww』

『メリーさん怖くなかったら終了www』


『あ……いや、(メリーさん)は怖がりなさいよ!』


『うん、無理w』

『おお、こわいこわい』


 確かにこのメリーさんを怖がるのは難しいだろう。

 しょっぱなから強烈に掴んじゃったから、以後何を言っても笑いしか取れない。


 しかし――

 時々目だけがコメントに向かうぐらいで、メリーさんはずっとカメラを見ている。

 よく考えたら、そもそも『笑いを取り続ける』なんて事自体そうそう出来るものじゃない。

 長年大勢の人に電話をかけ続けてきたが故の業だろうか。凄いプロ意識だ。何のプロだか私にも分からんけど。


『ああもう、見てなさいよ――そうね、そこのあんた』


 芝生状態のコメントにムキーって反応し続けてたメリーさんだったが、ふいに声が静かなものになった。


『あなたよ……『わんこ+srVir(プルスーブニル)』』


 微笑を浮かべながらメリーさんが口にしたのは、何度もコメントを入れていたアカウントの一つだった。

 彼女は下から出したスマホを顔近くまで持って来ると、こちらからは発信画面が見えなくしてタップする。

 呼出音が響いた。十回近く鳴っても相手は出ない。


『ほら……早く出なさい』


 十三回目で呼出音が途切れた時、メリーさんは微かに歯を見せて笑う。

 そして、相手が応答するよりも先に言った。


『もしもし、私メリーさん。今()()にいるの』


『え……え? 何、なんで、え?』


『私メリーさん。聞かなくても調べなくても、そんなものはすぐ分かるわ。『わんこ+srVir(プルスーブニル)』』


 電話の向こうの男性の声は吃音を繰り返し、相当狼狽している様だった。


『あなたは今――************2号室にいるの』


 彼女の言葉の途中で音声は消されている。だが、相手の今いる場所――おそらくは住所――を言ったのだろう。

 そして、それは正解だったのだろう。


『ひゃ、ひゃあああっ』


 半泣きの悲鳴と共にドサッて音が聞こえ、悲鳴は遠ざかって行く。

 スマホを投げだして後ずさる男性の姿が目に浮かぶ位、リアルな音だった。

 メリーさんは一旦電話を切るとまたかけ直す。

 今度は何回鳴っても相手は出なかった。


 ぷるるるるる

 ぷるるるるる

 ぷるるるるる


『もしもし私メリーさん。今ここにいるの……あなたが出なくても、ここにいるのよ』


 鳴り続ける電話をそのままにして、彼女は画面に向かって笑いかける。

 場の空気はさっきまでと全然違うものになっていた。


『マジか』

『え……何これ』

『ちょっと待って怖過ぎる』

『何で分かったんだよ』

『出ろよ』


 コメントもそれなりの驚愕や怯えの混じったものが並んでいる。


『いやいやいや、お前ら落ち着け。やらせに決まってるだろ』

『普通に考えて仕込みだよな。今の奴もサクラだ』


『じゃあ今度はあなたよ。『鉄仮面に布マスク』』


 彼女が本物のメリーさんだと信じていないコメントも程なく多数現れた。

 だけど、パニクってるコメントの数をそれらが上回った時、メリーさんは次のアカウントを指名する。

 再び彼女はスマホで電話をかける。

 今度は3コールめで相手が出た。


『は、はいっ』

『もしもし、私メリーさん。今()()にいるの』

『あ、え、はい。見ています』

『あなたは今――**************るの……これ勤務先の会社じゃない。仕事中かしら?』

『は、はい。いえ、一応休憩中です』

『出勤してるの』

『……休めないんです』

『そう、大変ね。体に気を付けて頑張って』

『あ……ありがとうございます』


『あらやさしい』

『出勤してるって事は業種絞れそうだな』

『『休憩中』は嘘だと思うw』

『優しい。でもやっぱりkoeeee』


 会話のトーンが先程と変わっている。相手がきちんと応答したからってのもあるだろうが、狙ってメリハリを付けた様にも見えた。

 この会話がメリーさんらしいかというと甚だ疑問だが。

 まあ、このギャップでコメントの流れも好意的になったっぽい。


『そいつもやらせ。役者が複数いるんだっつうの』

『二人目の居場所や反応違い過ぎるのが不自然。はい確定』

『垢見ただけで電話番号も現在地も分かるなんて、盛り過ぎなんだよな』


 やらせを指摘しようとするコメントはさっきよりも増えてしまった。

 芝居・やらせだと思い込む……というよりも、そもそもメリーさんの存在を信じられない様にも見える。

 信じていなければ、メリーさんが何をやった所で仕込みにしか見えないだろう。


『あーもうっ、さっきからやらせやらせってうるさいわね!』


 コメントに目を向けていた彼女が案の定キレかけた。


『信じてほしかったら俺の後ろに来てみろよ。出来ない、はいやらせ』

『~~~~~~!』


 彼女がキレたとみるや煽りも連続で入る。

 さらに何か怒鳴ろうとしてたらしいメリーさんだったが、その時モニターとは別の方向に顔を向ける。


『え……? う……分かったわよ』


『はいカンペ入りました』

『もう一人そこにいるな。さっきから色々やってるみたいだ』

『スタッフ付けてるって時点で本物のメリーさんじゃないだろ』

『そのスタッフも妖怪とかww』


 見た感じ、マー君が横からボードで何か指示を出した様だ。

 視聴者の何人かにもそれが気付かれたらしく、そこも突っ込まれてる。

 草生やしながらのコメントが真実を言い当ててたが、言った本人もそうは思ってなかっただろうな。


『……で、でも私だって心得てるの。そういう人間は、私の電話がかかって来て初めて、現実を受け入れらりゅる様になるのって』


『噛んだw』

『おちつけww』

『まだ加熱中』


 再び静かな声音で話し始めたメリーさんだったが、思いっきり噛んでしまいコメント画面に草原を発生させてた。

 しかし、一部の冷静そうにやらせと決めつけてるコメントを除けば――いや、そんなコメントまでも含めて、最初にはなかった空気が視聴者の間に流れてる。

 ひょっとしたら、万が一の確率でも、『本物じゃないのか』という怯え――あるいは期待。

 そんな空気の存在なくして、これほど執拗にやらせだという指摘が来るだろうか。本当にやらせとしか思われてなければ、こんな事にはならない様な気がする。


『まだ疑ってる人間はその旨コメントしなさい。折り返し何度でもかけてあげるわ。勿論、ただ私の電話がほしいって人でもいいのよ……え? 何? そんなんじゃまた……ああそう……ええと、抽選で五人までよ! 全員じゃないわよ』


「『ちゅうせんでごにん』とは何ですか?」


 急に膝の上のこんこんさまが尋ねて来て、私の意識はモニターから離れる。


「抽選っていうのはくじ引きの事。くじで五人だけ選ぶって言ったんだよ」

「くじなのですか。なぜ五人だけですか?」

「残り時間からそれ以上は厳しいんじゃないかな」


 私の説明にこんこんさまは首を傾げる。

 くじなら分かるのに『抽選』って言葉を知らなかったりと、意外と現代の知識が抜けてるんだな。

 『プレステ』や『プライバシー』は知ってるくせに。


「うたがう者のいなくなるまで、かけると良いのではないのですか」

「うーん、原理としてはそうなんだけどね。配信がそこまで続けられないよ。何時間、下手すりゃ十時間超えるから」

「めりいと枕返しがいるのです。人では無き者故、疲れなどないのです」

「そうかなあ……色々と疲れやすそうだけど彼ら。それに配信側よりも視聴者がうんざりして逃げちゃうんだって」

「構わぬのではないですか」

「え?」


 きょとんとした顔でこちらを見ているこんこんさまに、私もきょとんとした顔を返してしまう。


「去る者など去るに任せればよいのです。しがらみに囚われて禍根を残すなど人の所業。禍根は根まで刈り尽くすのが人ならざる者の業なのです」

「はは……結構、過激なんだね」

「聞いたのです。必ず忘れさせぬ、捨て置かせぬ、どこまでも追い我ここにありと告げる。それがあの者の生まれ持った業と。ならば、いんたーねっとでもそれを果たすものではないのですか」

「何か……こんこんさま今日はよく喋るね」

「我も言葉を交わすという事が久しくなかったのです。いつきや枕返しに染まったのかもしれぬのです」


 『いなくなるまで』

 『禍根は根まで刈り尽くす』

 より饒舌になったこんこんさまの言葉に、彼女の本質が露わになりかけてると思ったのは気のせいだろうか。

 少しだけど、全身に冷気を感じた。

 私は一体()()膝の上に乗せているのだろう?


『今回選ばれなかったあなたも、気を落とす事はないの。次回、あるいはその次も見てコメントしてくれたら、その時はメリーさんの電話があるかもしれないの』


 予告通りランダムに選んだらしい五人の視聴者に電話し、様々なリアクションと会話を実況した後でメリーさんは言った。

 配信は締めに入ってる様だった。


『いつかはかかってくるの……あなたの忘れた頃に、あなたの後ろから』


 彼女が低い声でそう囁いた時、画面上の彼女の姿がゆっくりと暗くなっていく。

 私の目にも演出過剰に見えたし、視聴者のコメントにもそれをつっ込んでるのがあったが意外な程に少ない。

 多くの視聴者が黙り込んでいるようなコメントの少なさだった。

 

『私メリーさん。今あなたの目の前にいるの』

 その一言と共に配信は終了した。




『え、終わり?』

『おつ』

『乙乙乙』

『888888888888888』

『おやすみメリーさん』

『偽物にしてもリアルだし楽しめた。乙』

『8888888888』

『お疲れ様ー』

『お憑かれさまああああ』

『お疲れメリーさん』

『おつおつー』

『よくわかんねえけど、次回も見るわ』

『神生主爆誕の予感』

『そんな期待の下、また一つ底辺がww』

『次こそ電話くれよ、番号教えないけど』

土日に書き上げられず、一週間以上空けてしまいました。

なかなか苦しい感じです。

当作品の性質上、今後の状況によっては考えてた予定に固執せず畳んでかなければというのも念頭に置いたりしてて、割と五里霧中な進行になっております。

メリーさんの後に用意してた『奴』までは出したいな、出せるかなあ……


copyright ゆらぎからすin 小説家になろう

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