[後編]
「……アレンでいいの?」
フィオーレンは改めてびっくりする少女に訊いた。
「……え……と……はい。」
少しだけ、顔を赤らめた少女。
あれ~? マジで好きなのか?
「一応言っとくけど、私と婚約破棄すると、コイツ王宮ほっぽり出されるけど、それでもイイのかな?」
王位争いに敗けた皇子はもれなく、王位継承を剥奪され王宮を追い出されるのがこの国の宿命。
「……え?」
知らなかったのか、訊いてなかったのか、バカなのか。この国に住んでいる人間ならもれなく自然と耳に入る情報だ。
「……キャスリン……コイツらの後ろ楯がなくても、俺は王になってみせる!!」
「ハイ!! ムリゲーきました~~!!」
アレン皇子の愛の誓いを、バッサリ斬り倒した弟。マジすごい。
「お……お前は!!」
怒るアレン皇子。
「だって、超ムリゲー? うちの親父宰相様よ? それが皇子さんじゃなくて、上の皇子さんに付けば、どうなるかバカでもわかるし?」
「……やってみないことに……。」
「やるだけムダだし? 好きな女の前で頑張りたいのはわかるけど~~戦うだけムダみたいな~~?」
バッサバッサと斬りまくる弟には感服さえする。
「……で? アンタはどうするの?」
二人に話しを脱線させられたが、戻して訊いた。
「…………。」
「正直、立場悪いよ?」
「……え?」
「こんな所で私を断罪しようとすっから、アンタ婚約者の女から男を奪った、性悪女になっちゃったし、コイツと結婚しようがしまいが御家は断絶だし、代償……大きかったね?」
「……お……御家……断絶……あなたのせいで……。」
「なんで、私のせいになるかな?」
この状況がわかっていないのは、このキャスリンも一緒らしい。こっちは侯爵令嬢、そっちはたかが男爵令嬢。しかも養女ときてる。弟じゃないけど普通に考えたらマジでムリゲー。おまけに自分が、皇子を奪ったと公言したと云ってもいい。
この先、どうなるのか? なんてわざわざ言わなくても、普通はわかるし普通は。
「だって、あなたが私達を恨んで……!!」
この後に及んでまだ言うキャスリンに苛立つ以前に呆れ果てた。何故こんなにも、乙女ゲームの主人公は、頭がお花畑なのかと。
「あ~~!! もぉ、いや!! クソ面倒くさい!!」
「……は?」
キャスリンはびっくりする。フィオーレンが叫ぶ様に大きな声を出したからた。この世界の女性は、悲鳴はともかくとして大きな声は、はしたないので出さないからだ。
「ケ~~イン!!」
「あいよ?」
「ゲオルグルート、今からムリ?」
弟ケインに相談する。アレン皇子はもういいやと見切ったのだ。
「裏ルート入れば、なんとかなんじゃね?」
このゲームを知り尽くした、弟だからのこその言葉だ。
「なら、行く!!」
「それには、オカンに協力してもらわないといけないっしょ。親父~~!! 姉ちゃんアレン捨てるし、ゲオルグ行くから。」
「……そうか。なら、宰相を辞める手続きがある……お前達は、先に帰っていなさい。」
「「……わかった~~!!」」
父親もまた、転生者であった。臨機応変に動ける凄い父親である。
「「「「「………………。」」」」」
状況の分からない、パーティー会場の皆は唖然呆然であった。婚約破棄からゲームまで、訳の分からない事ばかりが急に短時間で起きて、頭で処理しきれないらしかった。
果たして、宰相の後ろ楯がなくなったアレン皇子はどうなるのか?
なにも分からないまま、婚約を破棄する断罪の場にいたキャスリンは、御家はどうなったのか?
それは、また別の話である。
みなさん、良き未来を……。