第二曲 束の間の夢
「すげぇ……」
そんな僕の言葉も喚声と音楽にかき消された。
特にギター。体の一部のようにギターを操る。そのテクニックは、素人の僕にも桁外れということがわかった。背が高くて痩せているが、演奏はとても力強い。
『俺達は、遊びでバンドをやっているんじゃねぇ!』
そんな叫び声が聞こえて来るかの様な演奏だ。ボーカルとギターはステージ上を歩き回って観客に煽り立てる。
曲が終わり、ボーカルの第一声。
「A Brief Dream To You! 束の間の夢の世界へようこそっ!」
ボーカルの声に応えるオーディエンス。
腹に響くドラムの音や流れるようなギター演奏、そしてボーカルの男さえも魅了する声を聴いて、チビトリオ達のライブに来たがる理由がわかった。
---ん?
ふと、ギターと目が合った。
僕がギターに見とれていた……男に見とれるのも変な話だが、僕の視線に気づいたギターが僕を見て微笑んだ……様に見えた。
一瞬の出来事だったので、気のせいだったかもしれないが………
まさに夢の様な時間が過ぎていった。生ライブが初めてというのもあるが、このバンドは、それ以上に人を惹きつける何かがあった。
---同じ高校生。一体僕は何をしているんだろう。
惰性で過ごす毎日。あっという間に意味もなく流れる時間。
音楽活動に時間を費やす彼らと僕の時間の使い方に天地の差があるに違いないことは明らかだった。僕は複雑な気持ちで、彼等と束の間の夢の時間を共有していた。
15曲くらい演奏しただろうか。最初の予定では10曲で終わるつもりだったらしいが、度重なるアンコールの声に応え、そこまでになってしまった。
トータルで約3時間のライブだった。良くそんなにオリジナル曲があるもんだ。俺は素直に感心した。
曲の途中で、メンバー紹介があり、ボーカルがタクト。ドラムがテッタ。そして、ギターがショウ。と言うことがわかる。特にギターがショウという名前で、更に親近感がわいた。
まぁ……僕の名前は、漢字で翔と書くが、本当の読みは『カケル』なんだ。
ただ、友達からは『カケル』って呼ばれたことは殆どなく『ショウ』、『ショウちゃん』と呼ばれている。だから自分でも名前がショウではないかと思うくらいだ。
ライブは、3時間に及んだが、束の間の夢と言うことだけあって、あっと言う間に時間が過ぎたと言う感じ。久しぶりに充実した時間を過ごした。
理津美は僕の顔を覗き込むように見ながら聞いた。
「これから、メンバーとご飯食べに行くんだけど、一緒に行く?」
「えっ?!」
理津美からの予想外の言葉に戸惑い僕は思わず聞き返した。
「だ~か~らぁ! A Brief Dream To Youのメンバー3人と一緒に夕飯食べに行きませんか?」
理津美は少しイラッとした様子で、嫌味っぽく丁寧に繰り返した。
「あ~? 暇だし行ってもいいよ。」
突然の誘いに正直喜んだが、彼女達に気持ちを悟られるのもしゃくだったから、僕は素気なく答えた。
「翔ちゃん。素直になりなよ~もちろん玲ちゃん、直ちゃんも行くよね?」
「私たちもいいのっ?! 行くなって言われても行くけどっ! やばっマジやばい!!」
「わ~い♪ ブリドリとご飯だぁ♪ ブリドリ飯だぁ♪ 宴だぁ♪♪」
玲子、直美も彼女らなりに興奮しているらしい。
「じゃあ決まりね! 藤沢駅近くのファミレスで待ち合わせることにしてるんだ」
僕たちは急いで帰り支度をして待ち合わせのファミレスに向かった。