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祥と翔~友達発親友経由xx行き~  作者: 桐生夏樹
第七幕 日々是練習
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第六曲 ライブ前日(後編)


 ライブ前日の練習が終わり、メンバー達が後片付けをしている。…うん。明日のライブに向けて、皆の気持ちが同じ方向に向いている。いよいよ……いよいよだ。


 祥が言いにくそうに、と言うか恥ずかしそうに顔を赤くしてメンバーに声を掛けた。


「あーえーと……何かさ、うちの人が『夕飯食べていけ』っていってるけれど、どうする?」


「「食べる!」」


 メンバー全員が声を揃えて快諾した。


「祥の家の飯とかご馳走にちげーねえ! あざます!」


 拓人が舌舐めずりをして喜んだ。痩せている割には大食いなのかな?


「ちょっとー貧乏くさいからやめなよー」


 理津美が拓人に対して怪訝けげんな顔をしてたしなめた。理津美は本気で嫌がっているみたいだ。基本的に彼女はチャラい男が嫌いだから、普段から拓人と距離を置いている感は否めない。


「じゃあ、こっちだから付いてきて」


 祥はメンバーに声を掛け、先頭を歩いた。皆は身支度をして祥に続いてぞろぞろと歩く。スタジオは離れにあるから、外に出て家まで少し歩く感じになる。


 庭には、大きな木やバラの花が植えられている。今は夜暗いから、あまり見えないけれど日中に来たらとても綺麗な景色なのだろうな。


 家の外観は洋館のようで、壁が白くて装飾がありライトアップされていた。夢に出てくるような世界観で、海外旅行にきているような気分になる。こんなところで生活するなんて想像もつかないな……


「翔ちゃん! クチ! あいてるよ!」


「あ、ああ……思わず見惚れちゃったよ」


 玲子が僕に突っ込みを入れてきたが、夢心地の僕は曖昧あいまいな返答をした。こんな豪華な家に住む友達ができるなんて、それこそ夢にも思わなかった。


 ……ん? 玄関の前に人が立っている。黒い制服を着た女性……祥のお姉さん……ではないよな……。


「祥さま。お帰りなさいませ」


「ただいま。さっき言っていた友達。案内してくれるかな」


 し、祥……さま……?

 使用人と言うか『メイド』なのかな。メイドなんてメイド喫茶にしか居ないものだと思っていた。良く見てみればメイド服を着て髪を後ろで結んでカチューシャをつけている。


 まあ、メイド服と言ってもメイド喫茶で店員が着ている萌えファッションではなくて、とてもクラシカルな感じで気品がある。


「聞いております。かしこまりました。こちらへどうぞ」


 メイドさんがドアを開けると、大理石に包まれたエントランスには、高価そうな大きい絵や花が飾られている。天井にはステンドグラス……それは外国のお城のようだった。


 玄関では靴を脱ぐものと思っていたけれど、ここでは違って靴を履いたまま入るらしい。フワフワとした赤い絨毯じゅうたんの上をメイドさんに案内されるがままに突き進む。


 メイドさんに案内されて食堂にはいる。そこには白い大きなテーブルがあって、余裕で10人は座れるのではないか……?


「広いね~」


 僕は感心して周囲を見回すと、大きな窓、綺麗な花と花瓶、しわの無いテーブルクロス……既にテーブルの上には人数分の食器が並べられている。えっと……フォークとナイフとかって外側から使っていくんだっけ……


「今日は人数が少ないので、狭い方の食堂を使わせて頂いております」


 メイドさんが流暢りゅうちょうな言葉で説明する。


「ええ?! これが狭いって広い食堂はどうなっているのさ?!」


 皆から驚きの声が次々と上がる。ここだって十分広い。僕の家の何倍あるかわからない。と言うか、広すぎて落ち着かない……貧乏性ってやつかな。


 メンバーが驚いている中、理津美だけが冷静な空気をかもし出している。あ、そうか、彼女も結構お嬢様な感じなんだっけ。


「りっちゃんの家もこんな感じ?」


「あー……うーん……そうかなあ……直ちゃんの家も、結構広いよ」


 言葉をにごして理津美が答えているのは、家のことには触れられたくないと言うところかな。バンドのヘルプをやっていたことを直美に言っていなかったこともあるし、結構、秘密主義なのか。


 メンバー全員が席に着くと、飲み物が何が良いか聞かれて順番にグラスに注がれる。いつもファミレスとかでは自分で注ぎに行くから何か落ち着かない。


 ……すると、食堂のドアから年配の女性が入ってきた。


「いらっしゃい。皆さん、良くいらっしゃいましたね」


「お邪魔してます!」


 皆が一斉に挨拶すると、祥がメンバーについて一人一人紹介する。メンバーは一人一人、女性に対して行儀よくお辞儀をした。


「両親は、海外生活の方が長くて家にほとんど帰らないから、普段は婆さんに面倒を見てもらっているんだ」


 祥は少し寂しそうな顔をして僕たちに説明した。両親が居ないって言うのは寂しいもんだよな。それに祥は一人っ子、兄弟は居ないみたいだ。


「お父さんは指揮者で、お母さんはピアニスト! 祥の家は音楽一家なんだぜ~小さいころから英才教育を受けていたら、そりゃあ何でも出来るはずよな~」


「おい! 余計なこと言うなよ」


「何だよー? 本当のことだろ?」


 自分のことのように鼻高々に祥のことを話す拓人に対して、祥が制するけれど全く動ずる様子が無い。拓人に悩み相談とかできないな……次の日には学校中に知れ渡っていそうだ。


 そんなやり取りを見てお婆さんは微笑んだ。そして目線を僕に移して声を掛けた。


「あなたが……翔さんね? 祥から聞いているわ。祥は、いつもあなたの話ばかりして、初めて会った気がしないの」


「は、はあ……」


 僕はなんて答えて良いかわからずに曖昧な返事をした。家族に僕の話をするなんて、変なこと言ってないだろうなと少し不安になる……


「婆さん、やめろよ! 翔が困ってるだろ!」


「いいじゃないの、本当のことなのだから」


 祥は真っ赤な顔をして怒ったけれど、お婆さんの方は全然平気そうだった。祥の意外な一面が見れて面白いな。祥が、皆を家に連れてきたくない理由が少しわかった気がする。


「それでは皆さん、ゆっくりしていってくださいな」


「はーい! ありがとうございます!」


 お婆さんが食堂から出ていった。高貴と言う言葉がぴったりな人だったな。



 この後、次々と豪華な料理が目の前に差し出された。前菜、スープ、魚料理、肉料理……最後はデザートまで。これがコース料理ってヤツなのかな。生まれて初めて食べる高級食材を目前にして緊張で味なんてわからなかった。ナイフとフォークなんて使い慣れなくて箸のありがたみを再認識した。



 そして、何とか食事を食べ終わり、明日に備え、今日は早く帰って体調を整えようと言うことになって、解散となった。


 うーん……今日は眠れるかな……まるで遠足前日の小学生の気分のようにワクワク、興奮して眠れない気がする。


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